排外主義的な意識が加速している

 編集部 7月20日に行われた参議院議員選挙では与党自民党が議席を大きく減らし、参政党や国民民主党が躍進しました。お二人は今回の選挙をどのようにご覧になりますか?

 米重 昨年から顕在化したネットの選挙の影響、ネット地盤の役割の大きさが今回の参院選でさらに可視化されることになりました。この流れはメディアシフトつまり消費者の行動に起因するもので、構造的な変化です。したがって不可逆だと考えています。今回議席を伸ばした参政党や国民民主党は、SNSやYouTubeを通じて支持を獲得してきました。冒頭でお話しした数パーセントの支持を獲得するフェーズ1の段階から、一気にフェーズ2の局面に突入したと見ることができるのではないか。

 参政党躍進の背景には、かつて安倍政権を支持していた、どちらかと言えば右寄りのイデオロギー重視の若い世代の受け皿となったことが挙げられます。それに参政党も気付いていたのだと思います。かつては反ワクチンを主張していましたが、そうした側面はトーンダウンさせて、右派の新しい選択肢にならんとしていることが選挙戦を通じて窺えました。

 今、日本の政治も欧州などのように中道のポジションが弱くなって、極右と呼ばれる新興政党が勢いを増していく入り口に立っているのではないかと捉えています。その背景にあったのは、物価高による生活不安と日本に来る外国人の増加の相乗効果ではないかと思います。円安で「安くなった日本」をめざしてやってくる外国人観光客は激増しており、昨年はついに3600万人超に達しています。彼らは日本人より購買力がありますから、一杯5000円のラーメンとか、1泊10万円のホテルにも気軽に手出しできます。一方で日本人は、物価高で今の生活や将来に不安を感じる人が多い。また、技能実習生など労働力として日本に来ている外国人も多く、定住者は人口の3%程度に達しています。

 そんな中、SNSでは「新幹線で外国人に席を取られた」とか「首都高を外国人の車が爆走している」といった投稿が大量に拡散されています。外国人との摩擦や軋轢を体験する人が増えて、社会全体の「体感治安」が悪化している可能性がある。結果、欧州のような排外主義的な意識が加速しているようです。これは単にネットの影響だけではなく、分断的な社会の姿がよりはっきり見えてくる最初の入口に立っている可能性があるのかもしれません。

 

日本社会に深い分断が生まれつつあるのではないか

 白戸 「日本人ファースト」を掲げた参政党の躍進を見て、私はこんなに多くの日本人が過去四半世紀の間に誇りを失い、深く傷つき、不安を抱え込んだ人生を送るようになっていたのかと悲しくなりました。四半世紀の間、官界、メディア、大学、大企業などに身を置くエリート層によって、新自由主義的経済政策と深く結びついたグローバリゼーションが半ば無条件で賛美され、推進され、競争が奨励されてきました。

 しかし、そうした流れの中で「自分には何の利益もなかった」と感じている人が社会には大勢いると思います。物価上昇で生活が苦しく、主食の米が高くて買えないのに、大挙して来日した外国人観光客は「日本は物価が安い」と言って爆買いしている。その光景を見ながら、経済大国だった日本の凋落を思い知らされ、汗水たらして働いても給料が上がらない不満をどこにぶつけていいのかわからなかった庶民が大勢います。そんな状況下で外国人という「敵」を設定しつつ、「我々は決してあなたを忘れていない」というメッセージを庶民に発して支持を得たのが参政党でしょう。同党の躍進の底流には、グローバリゼーションとその推進者であったエリートに対する庶民の反発、憤怒、怨念のようなものを感じます。

 私が普段お付き合いしている人の中には、社会的地位が高く経済的に恵まれ、高い知的水準を誇る人々、すなわちリベラルなエリートが大勢いますが、一つ気になるのは、彼らの中に参政党支持者たちを見て「バカ面の群れ」「とても対話できる相手ではない」と切り捨てる人が少なくないことです。差別や排外を許さないことは当然なのですが、私はそうしたリベラル・エリートたちの発言を見聞きしながら、日本社会にも修復不能なくらい深い分断が生まれつつあるのではないかと懸念しています。(終)

 

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