2023年8月号

 著者は2023年3月末より、フランス・パリの社会科学高等研究院(EHESS)で訪問研究員として研究に従事している。著者は6歳と4歳の二児の母でもあり、息子たちと3人でパリに滞在している。研究については活字にする機会がたくさんあるが、子育てについては、公に語る機会がほとんどないため、この場で綴ることをお許し頂きたい。

 外国に住むと、母国との違いに目がいくものである。子育て観点で言えば、フランスは学校の休み(Vacances scolaires)がやたらと多い。フランス全土を四つのゾーンに分け、ゾーン毎に微妙に休みの期間が異なる。パリはゾーンCに当たり、本年度は日本のゴールデンウィークと重なる時期に3週間ほどの休みがあり、夏休みは7月第2週から8月末まで続く。10月末から11月にかけて2週間ほど休みがあり、クリスマス休暇に加え、2月半ばから3月初旬まで再び休みだ。こんなに休みだらけだと、子どもは楽しいかもしれないが、様々な問題も懸念される。そもそも、全ての家庭に余暇のための経済的余裕があるわけでもない。この6月、マクロン大統領は、2025年の施行をめざして、学校の夏休みを短縮する議論を開始すると発表した。休みを減らすことで、余暇への経済的余裕がない家庭の負担を減らし、子どもの不平等をなくすことをめざすとする。もっともな改革だ。

 そして今、長いバカンスの真っ只中にいる。今年ぐらいは、コルシカ島の海岸でボーッとしてみたい、などという妄想にふけりながらも、現実には多くの締め切りを抱え、月単位で休みを取るのは不可能だ。フランス人の友人には同情的な目を向けられてしまったが、粛々とノルマをこなす日々である。

 となると、子どもたちをどうするのか、という問題が生じる。夏の間、子どもたちはCentre des Loisirsというサマースクールに通っている。これは各地の公立学校で開催されているもので、6月の決められた期間内に申し込みを行う必要がある。手続きはやや面倒だが、プログラムがとても充実しており、バカンス期間中、パリに残るご家庭にはとても人気がある。ランチとおやつが提供される上、美術館やパブリックセンターを訪問したり、アート、スポーツなど、子どもが大好きな活動をバランスよく組み合わせたサマースクールなのだ。パリ市の蛍光色のベストを羽織った子どもたちが、先生に誘導されながらメトロを待っている様子はとても微笑ましい。しかも料金もとてもリーズナブルだ。お陰で著者も、夏の間も普段と変わらず、仕事に取り組むことができている。様々な事情の家庭に配慮した素晴らしい制度だと感じている。

Les centres de loisirs(記事で紹介したサマースクール)の一日の活動記録 詫摩佳代氏撮影

 

 学校だけではない。ベビーシッターの制度も充実している。東京でもベビーシッターのヘビーユーザーだったが、こちらに来て驚いたことが、利用者の利益だけではなく、雇用者側への配慮が制度に組み込まれていることだ。まず、利用者には一定の要件を満たせば、利用料の補助がある。他方、スポット利用は認められず、ヌヌー(ベビーシッター)さんの収入を保障するために、週に最低4時間、月に16時間はミニマムで利用せねばならない。専属のヌヌーさんを雇用することで、信頼関係も生まれ、ヌヌーさんも安定した収入が得られる仕組みになっている。

 私のヌヌーはアフリカのガボン出身で、日中は学生として専門学校に通う傍ら、朝晩、息子たちの面倒を見て、学校や習い事への送迎をしてくれている。彼女は母国への愛着がとても強く、地元の郷土料理を振る舞ってくれたり、ガボンの話をしてくれる。フランスへの思いも率直に語る。彼女を通じて思いがけず、フランスと旧植民地の関係、フランス社会が抱える構造的な問題にも興味を持つこととなった。

 総じて、フランスの様々な制度のお陰で、子連れでも充実した在外研究を送ることができている。単身での在外研究であれば、もっと身軽に動けただろうにと思わないでもないが、子どもたちと一緒に来たからこそ出会えた人々、得られた経験、見ることができたフランスの一 面が多くあるように感じる今日この頃である。

プティ・パレ(パリの美術館)で子供向け絵画のイベントに参加した時の様子 詫摩佳代氏撮影

    東京都立大学教授

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