『公研』2019年3月号「issues of the day」

白戸 圭一

 日本の首相とアフリカ諸国の首脳が一堂に会する第7回アフリカ開発会議(TICAD)が8月28─30日、横浜市で開催される。会議の主題の一つは、日本企業のアフリカ進出をどのように加速するかである。

 2016年8月にナイロビで開催された前回のTICADで、安倍晋三首相は「16─18年の3年間で官民合わせて300億ドル規模の対アフリカ投資」を約束したが、日本政府によると、2018年9月時点で、公約の半分強の約160億ドルの投資しか実現していないという。

困ることになるのは日本

 2016年末時点の日本の対アフリカ投資残高は100億ドルに達した程度で、その8割は南アフリカ共和国向けだった。日本の投資残高は英米仏の5分の1ほど、中国の3分の1程度に過ぎない。世界第3位の国内総生産(GDP)を誇る日本の経済規模を考えると、日本の対アフリカ投資はやはり少ない。なぜだろう。

 アフリカ向け投資に関する会議やセミナーでは、企業関係者から「日本政府は民間のアフリカ進出を後押しする制度を拡充して欲しい」という声が必ず出る。アフリカでのビジネスには様々な困難が伴うので、気持ちはわかるが、政府の役割は企業の側面支援であり、経営者による明確な意思決定なしにビジネスは始まらない。

 3年前のTICADの際、ルワンダのカガメ大統領がNHKとのインタビューで「日本(企業)はアフリカへの投資を拡大し、協力関係を強化することをためらっているようだ」と語った。国家元首が外交儀礼に囚われずにあえて厳しい言葉を発したのは、アフリカのエリート層が日本企業の技術力等を評価しつつも、「経営者はリスクを取らず、チャレンジせず、決断が遅い」と考えているからにほかならない。

 日本の経済界にも、こうした現状に危機感を抱いている人はいる。先日お会いした総合商社の最高幹部は「今のままでは、日本企業はアフリカの人々から相手にされなくなってしまう。その時に困るのはアフリカではなく日本のほうなのだ」と筆者に語った。

 日本には「日本は貿易立国だ」と信じている人が少なくないが、輸出の国内総生産(GDP)への寄与率は1割程度に過ぎない。日本は貿易立国どころか、世界の主要国の中で最も貿易依存度の低い国の一つである。日本経済は、基本的には日本人だけで組織された会社でモノやサービスをつくり、国内で販売することを柱に成立してきたのだ。

 こうした内需依存の経済を可能にしたのが分厚い人口だった。日本の人口は2019年2月1日現在1億2633万人。だが、国立社会保障・人口問題研究所の中位推計では、2053年には2709万人減の9924万人にまで落ち込む。これは今後34年間で東京都(1384万人)と埼玉県(732万人)と千葉県(627万人)の全人口が消えるのに等しく、しかもその時、国民のおよそ2・6人に1人は65歳以上になっている。

 その一方で、アフリカの人口爆発は止まらない。2050年には世界人口約98億人のおよそ4人に1人に当たる24億人がアフリカの住人で占められると見込まれている。少子高齢化による国内市場の縮小が不可避の日本は今後、企業が海外で稼ぎ、収益を日本へ還流させる仕組みを構築しなければならない。日本企業がやがて世界人口の4人に1人を占める地域で今から足場を固めておくことは、日本自身の生き残りのために必要な全体戦略の一部ではないだろうか。

意思決定権を握る世代の問題?

 とは言え、事業の海外展開、それもアフリカへの進出を加速しようと思えば、様々な面で日本の企業文化を変革しなければならないだろう。日本の財界にそれができるだろうか。

 日本経済新聞(電子版)に昨年6月21日に掲載された「経団連、この恐るべき同質集団」は、記憶に残る記事だった。日本経団連の中西宏明会長と副会長18人の属性に注目したところ、①全員男性、②全員日本人、③一番若い人が62歳、④全員転職経験ゼロ、⑤全員サラリーマン経営者で起業家ゼロ、⑥首都圏以外の大学の卒業生は1人だけ──だという。

 執筆者の西條都夫・編集委員は次のように書いた。「全員が大学を出て今の会社の門をたたき、細かく見れば曲折があったにせよ、ほぼ順調に出世の階段を上ってきた人物であるということだ。年功序列や終身雇用、生え抜き主義といった日本の大企業システムの中にどっぷりとつかり、そこで成功してきた人たちが、はたして雇用制度改革や人事制度改革、あるいは『転職が当たり前の社会』の実現といった目標に本気で取り組めるものなのだろうか」──

 アフリカ・ビジネスには挑戦的要素が多分にある。それが進まないのは「今時の若い社員にはチャレンジ精神がない」からではなく、組織の意思決定権を握る世代の問題ではないだろうか。立命館大学教授

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