既存政党が生まれ変わるチャンスがきている

 大川 そういう意味では、今の自民党の状況はご指摘のような政党に生まれ変わるチャンスなのかもしれません。政治とカネの問題をきっかけに派閥の存在意義が批判的に問われ直すことになりましたが、これは、党全体の構造を点検する絶好の機会でもあります。今は有権者からの支持調達のあり方、あるいは国政と地方議員との関係などを見直す局面にきているのだろうと思います。もちろん、党の構造を変えるにはたいへんな労力を払うことが必要で、自民党は経験したことのない領域に入ることになるのでリスクは小さくありませんが、そこに踏み込むことができれば、民意調達の新しい手段が見えてくる。そのときにはさらなる進化を遂げられるのかもしれません。

 一方で自民党だけではダメで、他の政党も同じように党のシステムを変えていく必要があるでしょうね。特に立憲民主党は、野党第一党でありながら党のかたちがまだまだボンヤリとしています。まずは党内の意思決定やガバナンスのあり方をきちんと考えて提示できなければ、浮上のきっかけを掴むことはむずかしいのではないか。政権与党だった民主党時代には政務調査会をなくしたり、また戻したりするなどして意思決定システムが動揺し迷走しました。そもそも政党として一体性を保てなかった。どうしてもそのときの不信感が今日に至るまで残ってしまっている。もちろん政党というのは元々プライベートな組織なので、政党法などの法的な規制がない限り、どういうふうに運用しようと自由です。

 しかし、有権者に根ざしたしっかりとした基盤をつくろうとするのであれば、党首のあり方・存在感も含めて、党のガバナンスを明確にすることで信頼を醸成しなければなりません。そういう面でも立憲民主党は自民党に立ち遅れてしまっています。

 日本の衆議院は小選挙区制を主とした選挙制度ですから、政権の不満が高まったときには受け皿となり得る野党の存在が欠かせません。今年4月の韓国の総選挙でも与党はたいへん苦戦して、想像以上に野党が躍進しました。今回の立憲民主党の代表選挙では、他の野党との距離感も論点となりそうですが、様々な戦術を駆使することで、思いのほか野党側が議席を集める可能性もあるわけです。そのときに準備不足で党内の体制も整っていないようでは、絶好の機会がめぐってきたとしても有権者は頼りなく感じてしまう。だからこそ野党、特に第一党にはしっかりしてもらわなければなりません。

 馬場 私は既存政党の枠内だけで自浄作用を求めることには、悲観的なところがあります。ラテンアメリカの例を見ていると、第3党やアウトサイダーの躍進によって、既存政党は自分たちが民意を掴まえられていないことにようやく気づくところがあります。議席を大幅に失って初めて、これではマズいと考えて党内改革を始めるという流れがある。往々にして遅すぎますが、ポピュリズム的な動きや大きなプロテストは、既存政党に変化を促すきっかけにはなっている。そうした変化が政治と人を繋げ直すきっかけになる作用も実はあると見ています。日本の場合も都知事選の石丸さんの躍進といった外からの挑戦が、既存政党が変わっていく一つのきっかけになるかもしれません。国政においては、そうした作用を期待することはむずかしいのでしょうか?

 

自民党総裁選挙と立憲民主党の代表選挙は注目すべき

 大川 民主党政権が崩壊した後に維新が伸びた背景には、そうした期待が託されていた側面もあったのだと思います。けれども結局、今日に至るまで維新も全国政党として成熟するところまでは行っていない。むしろ直近では少し低迷しています。自民党が大きな傷を負い、一方で野党が存在感を示さなければならない局面で十分にそれができていない。国政でそういう状態が生じていたところで、都知事選で石丸さんが躍進したことは既存政党にとっては脅威であると感じたと同時に発奮材料となり得る部分もあるのだと思います。

 やはり選挙というものは、有権者の政治に対する姿勢が示される最も重要な機会であって、そこで示された結果は政党や政治家にとっては何よりも薬になる。今後それをどのように活かしていけるのかが課題になりますが、まずは今度の自民党総裁選挙と立憲民主党の代表選挙に注目したいところですね。

 馬場 確かに今度の総裁選挙は興味深いところがあります。また以前と同じように党の表紙を変えるだけなのかと思っていたら、党内の若手が出馬を表明しています。派閥だけではなく、若手の候補者がどのような政策上の立場を打ち出してくるのか、このあたりには注目しています。経済や安全保障以外だけでなく、選択的夫婦別姓など幅広いイシューを含め、メディアは政策の違いに注目した報道をするとさらにおもしろいのではないかと思います。

(終)

 

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