『公研』2022年9月号「めいん・すとりいと」

 

 旧統一教会報道が2カ月にわたり続いています。視聴率が取れ、新たな情報等も入ってくるからですが、いずれ視聴者も飽き、ニュースのヘッドラインにならなくなることは目に見えている。その後に広がるであろう荒涼とした焼け跡まで見据えて報道姿勢を考えてほしいと思います。

 旧統一教会報道の過熱で一つだけ良かった点を挙げるとすれば、霊感商法に対する消費者保護の観点による救済方法が広く知られたこと。旧統一教会は一層の危機感を持って行動の是正に取り組まねば排斥されるという認識を新たにしたでしょう。しかし、それ以外はというと正当性が釈然としない論点や真剣な議論が必要なものばかりです。

 暗殺事件は、虐待家庭で育った青年が要人殺害の暴挙に出たことで起きたもの。山上のツイッターを読むと、政治的に強い価値観をもっており、ナショナリズムも感じられる。実母でも教会関係者でもなく要人殺害に至ったこと自体は、彼の政治性が影響しているという印象を受けます。事件はまずもってテロの性格を帯びていますが、社会問題として受け止めるならば、それは虐待家庭をどうするかということ。過大な献金以外にもパチンコや競馬に親がお金をつぎ込む家庭はゴマンとあり、子どもの救済方法を考える必要があります。虐待家庭に対して、日本人は冷淡です。「関係を断つ」という言葉が人気なのは、まさにケガレと縁を切る発想に基づいているからです。

 新興宗教ではなくて陰謀論ならどうなのか。極端な政治信条なら? アメリカでは、原理的な宗教的コミュニティが存在し、極端な価値観、イデオロギーをめぐる争いが絶えません。政治献金や支援等の問題は日本とは比較にならない。表にさえ出ることのないソフトマネーの抜け穴によって巨万の富が政治運動にばらまかれています。合法的な宗教団体に所属する人間が数万円のパーティー券を購入したことをめぐり、政治家が謝罪や返金に追い込まれている日本の姿は不可思議にしか見えないでしょう。

 事程左様に日本人は政治活動あるいは宗教をめぐる実態に疎く、免疫がないのだというべきでしょう。急に湧き起った旧統一教会に向かう嫌悪はいったいどのような感情から出てきているのでしょうか。霊感商法や政治との近さは過去に数多く報道されましたが、いまのような社会的関心は向けられず、むしろメディアはネタとして消費してきたといっていい。しかも、つい最近まで、政治のみならずマスコミや地方自治体は統一教会の関連団体が行っているNPO活動の報道や支援すらしていた。

 世論調査の印象として目立つのは年代別の嫌悪感の差です。高齢者ほど統一教会への忌避感が強い傾向にあるのです。彼らの方が、統一教会が過去に起こした問題をよく知っているからでしょうか? 今これだけネットニュースからテレビまで、ありとあらゆるメディアが報じている中で、それで説明がつくものでしょうか。統一教会に嫌悪が広がった理由にはやはり、日本と韓国との間に存在する歴史問題に根差す、独特の教義があるのでしょう。とりわけ、集団結婚式で日本人女性を韓国人男性と娶せ、日本をエヴァ国と見なして搾取しているなどの報道は日本人の感情を刺激しています。

 日本では高齢者が突出して韓国との歴史問題に厳しい態度を取っており、若者はその点かなりマイルドです。そのような教えを説く宗教に対する反感が高齢者の方が強いのは当たり前でしょう。それがテロを起こしたわけではない宗教を教義によって禁止することができるとか、雇い主が労働者の信教について調査する権利があるとか、飛躍した結論にならなければよいのですが。

 「気持ちの悪さ」で祭りをしたあとの焼け跡には、政治不信のほかは何も残らない。むしろさまざまなことが感情だけで揺れ動くこの国に、憲法の背骨は通っていないのかもしれないと思わされた今日この頃でした。

国際政治学者

 

この記事が気に入ったら
フォローしよう

最新情報をお届けします

Twitterでフォローしよう

おすすめの記事