『公研』2025年5月号「めいん・すとりいと」

 7月の参議院選挙の投票日が近づきつつある。石破茂内閣の支持率は低位安定気味であり、不支持率は高止まりである。また自民党の支持率も低水準に落ち込んでいる。与党の歴史的敗北もあり得るのではないかというあやしい雲行きである。すでに衆議院で過半数議席を失った与党が、参議院でも過半数議席を失うといった事態になれば、あるいは政権交代が起こってもおかしくないのではないか、とも見込みたくなる。

 与党の低調の原因は、根本的には安倍派の裏金問題に端を発した政治資金の不透明な管理にある。3月には、石破首相が公邸での1年生議員との会食の際に、10万円の商品券を配布したことが報道され、世論の強い怒りを招いた。こうした状況を自民党が改善できないままでおり、それが深刻な政治不信を招いている。

 加えて、ウクライナ戦争に端を発するもろもろの物価高が、国民生活を直撃している。昨今の米の高騰はその典型であり、生活苦から消費税減税やもろもろの負担軽減という野党の主張に共感する人々が増えている。

 少数与党であるため、首相は決然としたリーダーシップを発揮しようがない。野党ときめ細かい調整を重ねつつ、予算案・法案審議で過半数の賛成を得るしかない。そのためか、首相の決断も迷走する。高額医療費の補助削減問題では、当初は原案通りとしていながら、予算案の衆議院通過後に自己負担額上限上げを見送ることを決断し、衆議院で修正予算案を再度可決し直すといった前代未聞の対応となった。

 しかし、野党への支持も国民民主党が10%程度にとどまる程度であり、大きな塊となって与党と対峙するだけの厚みに欠ける。何と言っても、今の野党には政権を担うに際してどのような政治姿勢と個別具体的な政策で臨むのかが全く見えない。かつて、そこまで準備がなくても1993年の細川護熙内閣の成立や、2009年の民主党政権の成立といった政権交代が起こった。だが、党内の結束がともすればゆるみ、なれない政策決定で迷走する非自民政権の姿を、国民は何度も目にした。

 SNSが発達し、政府に関する情報は瞬時に伝わる。消費税率10%ともなれば、政治の行方に対して厳しい視線を国民が注ぐのは当然である。透明性が増す中、厳しい国民の視線にさらされた与野党は、裏で取引することもままならず、国民が納得できる理屈を立てて、円滑な政策形成に努めるしかない。透明と納得が21世紀の政治の基調なのである。

 そこへきて、トランプ大統領が突如世界に向けて、高関税政策をとると発表し、各国はその対応に大わらわである。石破政権は一丸となってこれに対応する態勢を取り、野党も政治資金問題で首相以下を追及することを手控えつつある。政治の停滞は瞬時も許されない状況が当面は続くであろう。

 今国会では残りの会期中に、毎月党首討論が開かれることとなった。このような状況でこそ、党首討論によって、与野党が国策をどう展開しようとするか国民に説明することが重要である。石破首相、野田佳彦立憲民主党代表、前原誠司日本維新の会共同代表、玉木雄一郎国民民主党代表など、政策面での論客が並び立つのは、党首共同記者会見さながらの論戦となり得る。石破首相も、野党の議論を受けとめ、これに反論を返すのは自民党議員の中では得意なほうである。国民の納得が得られるような議論の立て方、見せ方を期待してみたい。東京大学教授

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