『公研』2022年11月号「体験企画 若者たちのギモン」

 Z世代の若者たちがいま何を考え、疑問に思っているのか。立命館大学国際関係学部 白戸圭一ゼミの学生達にご協力いただき、堀越英美さん関根千佳さんにインタビューをしてもらいました。

 

インクルーシブ教育の実現に向けて、特別支援学級と通常学級のあり方を見つめ直す

昨今、多様性を尊重する共生社会の実現に向けて、障害の有無に関わらず、 全ての子どもたちが共に学ぶインクルーシブ教育が掲げられている。しかし、 現存する学校体制では多様で柔軟な支援は可能なのか。インクルーシブ教育の前段階である特別支援学級(支援学級)と通常学級間の交流・共同学習は適切に行われているのだろうか。女性の生き方や子育てに関する著作のある ライターであり、支援学級に通う自閉スペクトラム症の子どもを持つ堀越英 美さんに、通常学級と支援学級の交流や学校行事のあり方、インクルーシブ 教育の実現に向けた課題などについて伺った。

堀越英美
1973年神奈川県出身。文筆家。早稲田大学第一文学部卒業後。出版社、IT系企業勤務を経てライターに。 二児の母。著書に『女の子は本当にピンクが好きなのか』『不道徳お母さん講座』など。

 

有森穂波
 経歴立命館大学国際関係学部4回生。2000年岡山 県出身。趣味は韓国ドラマ鑑賞(字幕なしでの視 聴を目標に韓国語を勉強中)。サッカー漫画『ア オアシ』にはまっている。

 

 

情緒学級・通常学級での学びを求めてさいたまへ

有森 お子さんはおいくつですか?

堀越 自閉スペクトラム症があるのは下の子で、小学5年生です。小学4年生までは東京の23区内の学校に在籍していたのですが、今はさいたま市の小学校の支援学級に通っています。東京からさいたまへ引っ越した理由の一つに、知的障害のない自閉スペクトラム症などの発達障害を持つ子のための自閉症・情緒障害特別支援学級が各小中学校に設置されているということがあります。意外に思われるかもしれませんが、東京は公立小学校の自閉症・情緒障害特別支援学級の数が全国でも最小で、令和2年度の段階で0.5%の学校にしか設置されていません。設置ゼロの市町村も多く、私の在住していた区にもありませんでした。東京以外のほとんどの自治体は設置割合が約5%以上となっているので、東京は極端に少ないようです。東京の発達障害の子は通常学級で皆と一緒に学ぶか、知的障害の子のための支援学級に入る選択肢しかありません。

 うちの子の場合、就学前に自閉スペクトラム症の診断が下りていたことと、通常学級で学ぶのは難しいと教育委員会に判断されたことから、東京では知的障害の支援学級に入っていました。その後、知的障害の手帳を取ろうと児童相談所で知能テストを受けたら、知的障害ではないから手帳は取れないと言われて、すごく悩みました。知的障害じゃないのにこのまま支援学級にいていいのかと。

 さいたま市の支援級は東京の支援級と待遇が全く違っていて、私としてはさいたま市のほうがかなり理想に近い感じです。

有森 どのような点が「理想に近い」と感じましたか?

堀越 一番大きかったのは、本人が望めば通常学級の授業にも参加できるということです。東京在住時は、私の子がいた学校だけかもしれませんが、支援学級に通っている子は、通常学級の授業に参加させてもらえませんでした。通常学級の授業に出たいのであれば、完全に移籍しなくてはならず、合わなかったからといって後戻りもできないと言われました。移籍したいなら、お母さんが覚悟しなければダメだと。

 子供が適応できるかできないかは本人次第なのに、親が覚悟を決めるというのもヘンな話ですが、結局転級はあきらめてタブレット教材などを使いながら私が家で勉強を教えることにしました。また、私が在住していた区では、支援級にいると検定教科書が給与されませんでした。年度末に幼児向けの絵本が手つかずのまま配付されるので、それが教科書の代わりだったようです。知的障害の子供に教科書を与えてもムダだと思われていたのかもしれません。

 ただ、実際に知的支援学級に通っているのは軽度からグレーゾーンの子供たちで、遅れてはいるものの勉強もしているので、絵本を授業で使うことはありません。普通の教科書が欲しいという保護者がほかにもいたので、先生に教科書が必要だと伝えたのですが、教科書専門店に行って自費で買うように告げられただけでした。このことを他の地域の方に話すと、憲法第26条に掲げられている義務教育無償の精神に反しているのでそんなことが許されるのか、とびっくりされます。

 東京では、知的グレーゾーンの発達障害の子の勉強する権利を確保するのが難しいなと思いましたね。さいたまでは通常級と同じ検定教科書がもらえてほっとしました。もっと早めに引っ越せばよかったと思いますが、住んでいる地域で公教育を受ける権利が左右されるのもおかしいですね。

有森 授業ごとに参加することもできなかったのですか?

堀越 東京の学校ではムリでしたね。通常学級と一緒に行動するのは卒業式や運動会など、外部の方が集まる大きなイベントや旅行の時だけです。うちの子は通常学級に完全参加することは難しいですが、向学心はそれなりにある子です。さいたまでは通常級の一部の授業に参加させてもらえるので、すごく楽しいと本人は言っていました。今まで一斉授業を経験したことがなかったので、よかったなと思っています。障害があるからといって、必ずしも勉強したくないというわけではないのです。転校前に各教科の進み具合を詳しくヒアリングしてもらった結果、子供に合わせた時間割を組んでもらえたので、今のところ療育と勉強を両立しつつ楽しく学校に通えています。

有森 実際に参観日などで通常学級の授業は見られましたか?

堀越 私が参観した社会の授業は、先生が答えが一つに決まっていないオープンクエスチョンを投げかけて、皆が一斉に手をあげる活発なものでした。真面目な答えが続いたかと思えば、たまにふざけた答えを出す子もいて、そこでどっと笑いが起きて、「間違ってもいいからとにかく発言しよう」という明るい雰囲気がありました。うちの子は自分が手を挙げなくてもそうした雰囲気が楽しいようです。なぜそんなに通常学級の授業に参加したがるのかわからなかったのですが、授業を見て納得しました。皆が次々に手を挙げるから、出来のいい子だけが目立つわけでもなく、手を挙げない子が目立つわけでもない。間違ってもいい空気感ってすごく重要だなと感心しました。

 

向学心が満たせる喜びと広がる出会いの幅

有森 転校されて、お子さんの様子に変化はありましたか?

堀越 生まれて初めてテストを受けて、すごく嬉しかったみたいです。スキップしながら帰って来て、かわいいなと思ったんですけどね。「普通のテストを受ける」ということが、本人にとってこんなにも励みになるとは思っていませんでした。

有森 東京の学校ではテストは支援学級内で受けられていたのですか?

堀越 テスト自体なく、そもそも点数をつけることがなかったと思います。通知表も通常学級では三段階評価がつけられますが、支援学級の通知表は先生の記述による所見のみです。点数もつきませんし、評価というものが徹底して排除されている感じでした。それはそれでありがたい面もあるのですが、うちの子にすると、自分がどの程度進歩したのか点数をつけてもらって知りたいという気持ちがあったようです。

有森 家の中での様子の変化はありましたか? 

堀越 友達ができて、放課後に遊びに行くようになりました。友達になったお子さんも、さいたま市の学校には情緒の支援学級があるということで、引っ越してこられた方なんですよね。似たような感じのお子さんに出会えて、友達になれて、本当によかったと思っています。情緒学級のおかげですね。

有森 お子さんが支援学級に通うなかで、たいへんだったことはありますか?

堀越 最初のうちは送迎が大変でした。東京時代の支援学級は親が送迎するという決まりがありましたから。東京には支援学級がある学校がそもそも少ないので、遠くから通っているお子さんもいて、本当に大変な思いをしている保護者もいらっしゃると思います。同じ支援学級のお母さんたちの中には子供が小学校に上がって仕事を辞めている人もいました。仕事をしているという人でも、給食調理員のパートやコンビニのアルバイトといった短時間の仕事に限られていました。これは発達障害や知的障害に限った話ではありませんが、子供に障害があったら母親が仕事を辞めるのが当たり前という風潮は、社会問題でもあると思います。

 送迎が必須ということであれば、子供の送迎のために仕事を中抜けしても許されるような社会になってほしいですね。

有森 『公研』2020年1月号の「めいん・すとりいと」に執筆された「運動会とダイバーシティ」という記事を拝読したのですが、支援学級の生徒による運動会はどのようなものでしたか?

堀越 東京時代は区の小中学校の支援学級が集まる運動会が、小学校の運動会とは別にありました。内容自体は通常の運動会とそう変わりありません。

 ただ、皆と動きを合わせなければならなかったり、騒々しかったりする運動会は、自閉スペクトラム症の子供にとってはストレスが大きいようです。体操の最中、ストレスからくる常同行動(注・手をひらひらさせる、ぐるぐる回転するなどの反復的な行動)をとっているお子さんもいらっしゃいました。小学校の運動会では、高学年になったら通常学級の子供に混じってリレーに参加させられるのが怖いと他の保護者がこぼすのを耳にしたことがあります。支援級には体の弱いお子さんもいるので、運動なら問題なくできるというわけでもないのです。いずれも参加は強制ですし、年に二回も運動会があることで、つらい思いをしているお子さんも多いのではないでしょうか。先生に伝えたのですが、区が主催しているので先生にもどうにもならないみたいでした。情緒学級の少なさも含め、東京は障害に理解がない人たちが特別支援教育のいろいろなことを決めているのだなと感じましたね。

有森 さいたま市の学校の運動会はもう参加されましたか?

堀越 はい。コロナ禍で短縮されていて、種目は二つか三つしかなく、2時間ほどで終わりました。練習期間が少なかったのがありがたかったですね。東京はダンスがあるため練習時間が長く、自閉スペクトラム症の特性で協調運動が苦手なうちの子は、その時期になるとストレスを溜めて大変でした。今の学校はそれぞれの障害に理解があって、まず個別の種目ごとに参加できるかできないかを聞いてくれるのでありがたいですね。

 リレーが難しいお子さんにはお手伝いでの参加を認めるなど、その子に合った参加の仕方を考えてくれているようです。さいたま市は支援学級だけの運動会がないのもホッとしました。なるべく一人ひとりに配慮しながらイベントに参加させてあげようという姿勢が感じられます。

有森 今の運動会に新たに入ってほしい要素はありますか?

堀越 コロナ禍で短縮されている今の運動会が最高なので、今後も短縮し続けてほしいです。なので、何も足さなくていいです(笑)。お子さんに障害がなくても、ひそかにそう思っている保護者も多いのではないでしょうか。もちろん、運動が得意なお子さんが輝ける場は必要だと思いますが。

 

緩い繋がりをきっかけに交流を深める

有森 これまでに疑問を抱いた行事はありましたか?

堀越 東京の学校では5年次と6年次に宿泊学習があるのですが。その際、支援学級でグループをつくるのではなく、通常学級の子のグループに支援学級の子が一人ずつ入らなければいけない決まりがありました。通常学級の子からしたら普段親しくしていない子とグループを組むのは気まずいでしょうし、お世話係を押し付けられたような不満もあるでしょう。支援学級の子も、すでにできあがっているグループにひとりぼっちで入れられてしまうつらさがあります。お互いにつらいですよね。運動会もそうですが、普段の授業には参加させないのに行事の時だけ無理やり通常学級の中に入れて、うわべだけ交流している風に装うのは溝を深めるばかりだと思います。今の学校では、いつも仲良くしている支援学級の子供たちのグループで宿泊学習に参加できたので、とても楽しかったようです。

有森 自身の学校生活を振り返ると、行事や帰りの会に支援学級の子が参加していましたが、十分な交流は出来ていなかったように感じます。

堀越 どうしてもかたちだけの交流になってしまいますよね。障害によってどのように交流すればいいかは千差万別なので、普段接していない障害者といきなり仲良くするのは、大人でも難しいことです。完全に隔離するのもよくないでしょうから、なんとなく同じ場にいる程度の緩い繋がりで十分だと思っています。

 例えば、運動会でたまたま隣になって少し話すとか。ちょっとしたやりとりができたら、そこから理解が生まれるかもしれないですし。逆に、思いやりを育てるためというような教育目的で、障害のある子のお世話係を通常学級の子供にさせてしまうような無理な交流は、どちらにとってもわだかまりを残す結果につながりかねません。お世話はあくまで大人の仕事だと思います。

有森 通常学級の子が支援学級の子の特性を知る機会があれば、より交流が深まると思うのですが、どう思いますか?

堀越 確かに。今の学校はそのような機会を設けてくれましたね。何が好きで、どういう話題を振られたら喜ぶかについて、通常学級のお子さんの前で紹介する機会がありました。どういうふうに紹介してもらいたいかを、保護者があらかじめカードに書いて先生に渡しておくのです。子供自身は何を言えば通常学級のお子さんに共感してもらえるかわからないと思うので、親の方で準備させてもらえてありがたかったです。コミュニケーションの取っ掛かりになるような自己紹介の機会があるのは良いですよね。

有森 今後、支援学級と通常学級の間でどのような交流を望みますか?

堀越 ついていける科目については、同じ授業を同じ空気の中で受けることができたら十分かなと思っています。それ以上の交流は子供たち次第なので。自閉スペクトラム症の子どもの場合、そもそも大勢との交流自体が難しいですから。

有森 今後、支援学級に在籍するにあたって、もっとこうしてほしいと思うことはありますか?

堀越 小中学校を支援学級で過ごした子供が進学するうえで、ネックになるのは中学の内申制度です。高校受験で内申点が大きなウエイトを占めるため、そもそも通常の通知表がない支援級の子供は、多くが特別支援学校高等部か単位制高校の道筋しか示されないと聞きます。子供自身に向学心があっても、普通高校への進学はかなり厳しいというのが実情です。高卒以上の資格を求める職業が大半である以上、職業選択も難しくなってしまいますから、支援学級に在籍する子供を包摂する受験制度になってほしいと思います。

有森 支援学級がある高校は少ないと思うのですが、どのようにお考えですか?

堀越 私が知る限りはないですね。コミュニケーションを苦手とする障害のある子が普通高校に受かる学力を身につけたとしても、定型発達の生徒に囲まれて二次障害を発症してしまうかもしれません。義務教育は中学までかもしれませんが、ほとんどの子供たちが高校に進学する時代なのですから、普通高校にも支援級を設置してほしいです。

 

能力別のクラスで誰もが馴染める・ケアされる学校に

有森 インクルーシブ教育の実現についてどう思いますか?

堀越 理想としては、通常学級と支援学級にハッキリ分かれるのではなく、水泳教室のように、進度に応じて細かく分かれたクラスが科目別に用意されるといいのかなと思います。

 うちの子は一般の子供向けの水泳教室に通っていたのですが、背泳ぎで12.5メートルが泳げたら、次はバタ足で25メートルという風に級が細かく分かれていたんです。そうすると、障害がある子でもみんなと一緒に授業を受けられるので、普通のお子さんよりは上達が遅くても自分のペースで通えていました。

 学校もこういう風になったら、障害の有無にかかわらず、色々なタイプのお子さんを包摂できるようのではないかと思うのです。誰もが自分にちょうどいい勉強をできるようになれば、障害のある子も、通常学級で少し落ちこぼれている子も、学校の勉強が簡単すぎて退屈している子も、固定クラスでいじめに遭っている子も馴染みやすいのではないでしょうか。クラスの団結がなくなったら困るという意見も根強いでしょうから、今の学校では難しいとは思いますが。障害が無くても、今の学校でつらい思いをしているお子さんみんなが救われることが、本当のインクルーシブなのかなと思います。

 今のような学年ごとのクラス編成で、この学年はこれだけのことを全部できなければいけないと決まっていると、どれか一つでも落ちこぼれたらつらいではないですか。たとえば通常学級では、大縄跳びができないだけでも、みんなから白い眼で見られてしまうということがあるようです。競争や同調圧力でプレッシャーをかけるのではなく、それぞれが自分の能力に応じて自分のペースで能力を伸ばせる。それがまず、インクルーシブに必要だと思います。ゆくゆくは学校がそのように変わったらいいですね。

有森 確かに、同一性が求められて、「みんな一緒」が当然だと、みんなと何かが違うとそれが際立ってしまいますね。

堀越 「誰かが違う」ではなく、「誰もが違う」という認識を子供たちが持つ必要があると感じました。大縄跳びがいい例ですが、通常学級では集団で行動することが多く、みんなが同じようにできないと足手まといになるという圧力が今でもあります。そんなところにいきなり障害のある子を入れても、どう関わっていいかわからず、はれものを触るような扱いになってしまうのは仕方がないのかなと思います。

有森 運動会のダンスは、揃えることによる達成感や楽しさを感じることが目的で実施されていると思うのですが、バラバラだとそういった達成感を感じにくく、今の学校ではその点が難しいのかなと感じます。

堀越 みんなで一緒に同じことをした先の達成感を重視すると、「みんな違ってみんないい」という風にはならないですよね。障害があって揃えるのが難しい子には苦痛でしかないでしょうし、通常学級の子からしたら、自分たちは揃っていないと怒られるのに、できなくても許される支援学級の子にイライラしてしまうかもしれません。普通になれないとダメという圧力をなくさないと、本当の意味での交流は難しいと思います。

 まず、通常学級のお子さんが「普通」の枠に押し込められることなく、個人として尊重されているという感覚を持てるような環境が大前提として必要だと思います。

有森 学校生活を通して、今後どのようなお子さんになってほしいですか?

堀越 勉強や体を動かすことを嫌いにならないまま、少しずつ進んでもらえたら嬉しいです。そして、それを許してくれる学校の制度であってほしいと思っています。今のところは、支援学級の中で向上心や好奇心が満たせて、勉強の楽しさを感じられるように育ってもらえたら十分です。

 

 

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