鈴木 一人 『公研』2017年9月号「めいん・すとりいと」

 先日、私の住む北海道でも堀江貴文氏(ホリエモンと言ったほうが通りが良いか)が出資するインターステラテクノロジズの小型ロケットが完全な成功ではなかったが打ち上げられた。これまで宇宙開発と言えば、アポロ計画や国際宇宙ステーションといった巨大プロジェクトのイメージが強く、大規模な資金と複雑な科学技術を扱う天才しか関与できないもののように思われてきた。しかし、スプートニク1号が1957年10月に打ち上げられてから60年が経ち、北海道でベンチャー企業がロケットを作る時代になったのである。

 すでに2014年9月号(「宇宙開発の地殻変動が始まった」)でも紹介したように、アメリカではベンチャー企業によるロケットが実績を積み上げており、政府系のロケットよりもはるかに廉価で、高い成功率を誇っている。また、小型の衛星を数百機から数千機打ち上げて連動させ、地球全体をリアルタイムで撮影するサービスや、携帯電話が普及していない地域でも高速インターネットサービスを提供するベンチャーもすでにサービスをはじめている。

 日本でも徐々に宇宙ベンチャーが現れつつある。北海道のインターステラだけでなく、東京大学発の小型衛星ベンチャーで、お天気専門テレビ局のウェザーチャンネルの衛星を納入したアクセルスペース、月面探査賞金獲得レースに参加するHAKUTOという月面探査ローバー車を開発しているispace、人工の流れ星をイベントに合わせて生み出す宇宙エンタテイメント企業をめざすALEなど、欧米の大規模なベンチャーキャピタルをバックにした大がかりなシステムを開発するベンチャーとは異なり小規模ながらニッチな市場をめざし、個性のあるサービスを提供することをめざすベンチャーが多い。

 中でも注目度が高いのが、民間企業ながら宇宙デブリを除去することをめざすアストロスケールという会社である。この会社はシンガポールに拠点を置くが、日本人である岡田光信氏が経営し、衛星の開発拠点も日本にあるベンチャー企業である。宇宙デブリとは寿命の尽きた衛星やロケットの上段部分など、ゴミになってしまったけれども宇宙空間を漂うものである。漂うといっても宇宙空間では時速27000kmという猛烈なスピードで移動しており、これが稼働中の衛星にぶつかると大惨事となる。そのため、デブリの除去が大きな課題となっている。

 しかし、市町村が税金を使ってゴミ回収をするのとは異なり、宇宙ではゴミ回収をするのにお金を払ってくれる公的機関は存在しない。そこでアストロスケールは、民間企業に自らの技術とサービスを売り込み、寿命を終えた衛星を軌道上から撤去して他の衛星との衝突を回避し、衝突した際の賠償請求を避けるという「衝突回避保険」としてのビジネスをはじめた。これにより、誰もお金を出さない事業から一気に企業ニーズに応えるサービスになり、世界的な注目を集めているのである。

 このように、日本の宇宙ベンチャーは資金規模や企業数こそアメリカには及ばないが、キラリと光る存在感を発揮している。欧米では一種の流行のように宇宙ベンチャーが花盛りだが、どれも似たようなサービスや提案ばかりで、いずれ大規模な再編が起こるであろう。その中で生き延びていくためには市場のニーズを見極め、他では真似できないアイディアを提供することが不可欠である。しばしば日本では欧米のような宇宙ベンチャーが出てこないと批判されることもあるが、今や日本のほうが豊富なアイディアを活かしてニッチ市場をめざしており、ベンチャーとしての生存率が高いのではないかと思える。 北海道大学教授 

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