鈴木 一人 『公研』2017年3月号「めいん・すとりいと」

 2017年1月の世界経済フォーラム(ダボス会議)で習近平主席が経済的なグローバル化を推進し、開放的でWin-Winになるようなグローバルガバナンスのメカニズムが必要と主張したことは多くの人を驚かせた。折しもトランプ政権の発足直前で、TPPは事実上廃案となることが確実視されている中で習主席がこのような演説をしたことで、内向きになるアメリカに変わって中国が国際秩序の守護者になるのではないかという憶測さえ流れた。

 確かに近年の中国の動きを見ていると、国際秩序を受容し、積極的にリーダーシップを発揮しようとしているかのように見える。地球温暖化に関するパリ協定にオバマ政権のアメリカとともに早期批准を進め、日本などを置き去りにしたのは記憶に新しい。これまで中国は経済発展を優先し、環境問題や地球温暖化の政策優先度は著しく低かったにもかかわらずである。また、アジアインフラ投資銀行(AIIB)の創設では国際的なイニシアチブをとり、IMFでも副理事の地位を得て人民元を通貨バスケットに含めるなど、国際通貨金融の分野でも国際システムの中で責任ある地位を引き受けるようになってきている。

 これは筆者が国連で勤務していたときも感じていたことであった。中国は拒否権を持つ安保理常任理事国であるが、拒否権の行使は2000年以降7回に限られ、常にロシアと共に行使している。そのうち5回はシリアのアサド政権を非難する決議であり、2回はミャンマー・ジンバブエの人権問題である。アサド政権の正統性や人権問題の非難に反対するのは中国の国連外交の原則であり、想定内の行動である。ちなみに同じ時期に米国は11回、ロシアは13回の拒否権行使を行っている。

 中国の国連での交渉スタイルは、最初に自国の立場を主張し、その主張と矛盾したり、対立するものでなければ一切口を出さないというものであった。それが顕著に表れたのがイラン核合意を巡る交渉であった。ウィーンでの交渉の最終局面で、米英仏の外相は何日間もイランと交渉したのに対し、王毅外相は最後まで姿を現さず、最後の調印の段階になって初めて顔を出し、調印後はすぐに帰国してしまった。また中国の官僚制や政策決定の仕組みを考えると、柔軟に交渉を展開するよりは、原理原則を前面に出し、それが守られる限りは何が起きても構わないという姿勢であるとも考えられる。

 日本から見ると中国は南シナ海、東シナ海で力による現状変更をもくろみ、国際仲裁裁判所の判決も受け入れない、傍若無人な振る舞いをする国とみられがちである。しかし、国際社会での中国の評価はかなり違う。途上国は援助の提供国として、また欧州はビジネスパートナーとして中国を見ており、グローバルな秩序に従い、その秩序を維持する立場であると見ている。

 果たして中国は国際秩序の守護者なのか、それとも破壊者なのか。明らかなのは、中国は自らの国益に合致するときは国際規範に適合的な行動をとるということである。また、グローバルな大国としての認知を得ようとする中で、大国の権利として自らの利益を前面に出しつつ、それなりの責任も負っているという自覚を持っているということでもあろう。しかし、こうした自覚は自国の「中核的利益」の前では影を潜め、国際社会の干渉を排除しようと躍起になる。この限りにおいて中国がアメリカに代わる国際秩序の守護者になる段階に来たとは考えにくい。北海道大学教授

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