根っこのところから考える必要がある

──弊害が顕在化しているのであれば制度の歪みを認めて、それを改善すべきですよね。

竹詰 難しいですね。私も国会を通じていろいろな質問をしましたが、電力の自由化を推進してきた経産省やエネ庁からすれば、「政府がちょっと間違っていました」とは言えないのでしょうね。それで、問題が顕在化すれば対応していくというかたちで、根本的な解決ではなくて絆創膏を貼るような対応をしています。

 今はもう電力の自由化は前提になって、その大前提は変えられないような雰囲気です。容量市場の改善や脱炭素電源オークションといった施策は示されていますが、私はもっと根っこのところから考える必要があると思っていて、そもそも「電力を自由化する必要がありましたか?」「電気は自由化すべき公共財だったのか」という疑問があるんです。自由化を始めた他国の例を見ても、必ずしもうまくいっている国ばかりではないですよね。むしろ電気料金は跳ね上がっていたりする。

 日本の場合は、石油、石炭、天然ガスもほとんど採れないし、周囲を海に囲まれているから隣国と電線を繋いで電気を融通し合うこともできないという独特な条件があります。ドイツは脱原子力に再び舵を切りましたが、お隣のフランスなどから電気を買うこともできるわけです。いろいろな国際的なルールや潮流にアジャストしていくことも大事ですが、それによって我が国の電力の安全供給が脅かされて結果的に国力が失われていくようであれば、国家を守るとは何なのだという話になるわけです。エネルギー政策に関して言えば、「日本は日本である」というスタンスからかけ離れてしまっている。

 ですから私は、すでに前提条件のようになってしまっている電力の自由化は本当に必要だったのか、という疑問に立ち返らなければならないと考えています。そこに切り込まなければ、根本的な解決にはならないはずです。

──そうした危機感が広く国民には伝わっていない気もしています。行政や政治も電力業界の声に真剣に向き合っていないのではないでしょうか。

竹詰 大震災の前であれば、電事連(電気事業連合会)や電力各社が「ちょっと待ってくれ」と声を上げれば、弊害の目立つ政策がそのまま推し進められることはなかったんです。けれども、あの震災をきっかけにして、電力会社側の力を弱められてしまった。規制する側とされる側、ルールをつくる側とそれに従う側のパワーバランスが一気に崩れてしまった。

 それでも大停電になることはなくて、何となく電気はキープされていますよね。電力会社側や働く人は大きな負担のなかで踏ん張っています。けれども、それはもう限界に来ています。実質的にはもう崩壊していると私は思っています。会社発足して以来最大の赤字という会社だってある。インフラを担う公益事業でありながら、こんなことはあり得ないですよ。けれども行政はそれをやらせてきたんですよ。電力会社も我慢せざるを得ないと必死に耐えてきましたが、それも限界に来ています。

 今までも問題であることはわかっていたのに、世論喚起も十分とは言えなかったし、政治も騒いでいない。それは、おおよそ電力会社が我慢することで吸収してきてしまったんですよ。電力会社も今はギリギリ留まっていますが、それがパンクしたらどうするのか。その時は、電気が送れずに本当に停電する事態になってしまう。

 そうなった時に初めて、電力会社が騒がなくても状況の深刻さに気がつくことになるのかもしれません。今は何とか供給しているから何にもないように見えるので誰も騒がない。けれども、本当はもう限界の状況です。もちろん、電力会社も働く人も決して停電が起きてほしいわけではないんです。ここはものすごく歯がゆく感じるところですね。

 

最優先に考えるべきは安定供給

──停電が起きることは滅多にないから深刻さを意識することは難しいのかもしれませんね。

竹詰 議員になっていろいろな方の意見を聞きましたが、電気料金が少し安くなるよりも電気が止まらないことを希望される人のほうがずっと多いんです。

 今の電気事業には三つの大事なポイントがあります。一つは、できるだけ電気料金を安くすることです。これは当たり前ですよね。家庭にとっても産業にとっても電気代は安いほうが助かります。二つ目は、安定供給です。当然、電気は止まらないほうがいい。三つ目がこのご時世に新たに加わった環境への配慮です。2050年までにカーボンニュートラルを達成することを掲げています。

 電気事業者は、この三つを同時に達成させるというとても厳しい課題を突きつけられています。意図的に優先順位を付けたわけではないでしょうが、今は三つのなかで安定供給が後回しにされている状況だろうと思います。

 つまり、まずは電気を売る会社を競争させる。一方で環境対策でもあるFIT(固定価格買取制度)という制度を入れて再生可能エネルギーを政策的に普及させています。さらにはCOをたくさん排出する石炭火力などについては、非効率な発電所は「フェードアウト」という言葉を使って廃止に追い込もうとしている。今はこの競争原理と環境対策を優先していて、安定供給はその二つの次にきてしまっている。

 火力発電は環境に悪いと言っても、需給逼迫の際に活躍しているのは火力発電です。ダムを建設して水力発電所を設置しようとしても、完成までに何年もかかりますからね。一時的に休止している火力発電所がまだあるので、緊急事態になれば点検をして燃料を入れて急遽立ち上げられる。それで需給の逼迫を何とか綱わたりで解消しているんです。

 電気が足りなくなりそうな時は、役所は「誰か電源を起こしてくれるところはありませんか」と公募するんです。けれども、これは内々には指名だと思っています。「〇〇電力△△火力発電所□号機を動かしてほしい」という具合ですね。それぞれ理由があって停止させている発電所に、公募というかたちで自由化の体裁を保っているように見せて実際は指名している。それで火力発電を動かすと今度は、「COを出すな」と言われることになる。結局「何がしたいんだ」と言いたくもなりますよね。一つひとつの制度はよく考えられたルールだなと思いますが、トータルで見たらすいぶん矛盾してしまっている。

 本来は、経済性や環境よりも安定供給を優先すべきなのに後ろ側に回してきてしまったために、そのしわ寄せが出てきてしまっている。

 

エネルギー政策はどのように決まってくるのか

──政策というのは実際どういった流れで決まっていくのでしょうか?

竹詰 経産省や資源エネルギー庁が設置しているいろいろな審議会──メンバーは官僚が選んでいます──が実際の政策を動かしていますよね。そこでほぼ勝負あったという感じなんですよ。私は野党だから、その最初のところに関与することはできないわけです。内閣が法案として仕上げたものが国会に提出されて、本会議や委員会で議論をする。しかし、今は政権与党が衆参で圧倒的多数派を形成していますから、ほぼそのまま通過していくことになってしまっています。

──与党の政治家も積極的な態度が見られない気がしています。問題が表面化しつつあるにも関わらずそこには「触れたくない」といった印象があります。

竹詰 「触れたくない」というのはズバリじゃないですか。私もそう思っています。政治家は、事件が起きていないことにはあまり触れたくないものです。電力会社からすればすでに大きな問題が起きていますが、表向きには大停電が発生するような「事件」は起きていない。なので、あえて「大停電が起きそうだから対応が必要だ」と踏み込むことは、政治的にメリットが薄いと思われているのだと思います。大手電力会社を慮ったように映る発言や制度の見直しは、政治的なウケもよくないのでしょう。だから与党の議員もやらない。

 けれども、与党の議員の方々がエネルギーや電力をわかっていないのかと言えば、そんなことはありません。いろいろな議員と話をしましたが、今の電力のシステム改革がうまくいっていないと思っている方は一人や二人じゃないんですよ。

 

エネルギー政策は日本だけで決定できるわけではない

──野党の議員のエネルギーへの理解はどうですか?

竹詰 野党議員のなかには、根本的にわかっていない方がいる印象を持ちました。電気事業やエネルギー政策については正確に把握していないというのが、私のこの1年の見立てです。民主主義ですから、いろいろな政党があって多様な考え方があってもいいのでしょうが、エネルギーや電力に関しては仮に政権が変わったとしても一貫性が求められる領域だと考えています。なぜなら日本には残念ながら化石燃料がありませんから、エネルギーの問題は日本だけでは解決できないんです。

 そうすると、例えば原子力一つとってみても政権が変わったからと言って、「原子力をやめます」と簡単にはいきません。アメリカと日米原子力協定を結んでいるし、核燃料の扱い方にしても国際的な約束をしているんです。再生可能エネルギーを重視して火力発電をやめようとしても、カタールやブルネイとLNGの長期契約を締結しています。それらをいきなり反故にはできません。エネルギー政策は、日本だけで決定できるわけではないんです。

 安定供給を実現するいわゆる発電のベストミックスは、他国との関係も含めた日本の国際的な位置付けによって成り立っていることは、常に意識してほしいと思っています。エネルギー政策については、いろいろな議論があってもいいのですが、外せないポイントがあるんです。そこの認識の違いについては、国民民主党と立憲民主党とは分かれざるを得ないと考えています。

 国民民主党は、原子力で100%電気を賄うなんて言ったことはないんです。原子力は短時間での出力調整が難しいですから、常に需要と供給を一致させなければならないという電気の大前提を考えると、原子力100%は不可能です。柔軟にバランスを取れる電源が必ず必要になります。また、再生可能エネルギーの比率を100%にすると主張している政党もありますが、どう考えてもムリです。太陽光発電は夜は発電できませんからね。国際的な事情でLNGや石炭が輸入できない事態も想定しなければなりません。

 そう考えると、安定供給を実現するためにはいろいろな電源をミックスさせるのが日本がとるべき選択です。よくエネルギーミックスと言われますが、これは現実的にそうせざるを得ないんです。

 

自由化は無条件で良いことだという風潮に流された

──しかし、なぜ電力の自由化は十分な検証もされないままに推し進められてしまったのでしょうか?

竹詰 規制改革、規制緩和、自由化という流れが日本の政治ではできあがっていて、電力もその流れに乗せられてしまったという感じですよね。自由化は無条件で良いことだという風潮がありますから、電力のことを心得ている政治家だとしても、それに抗うのは難しいところがありますね。「規制を強化するのと、緩和して争わせるのとどちらがいいですか?」「古いままで良いか、新しいことを始めたら良いか?」と単純に聞かれると、自由化させたほうがいいのかなという話になってしまう。

 繰り返しになりますが、私は電力は自由化すべきではなかったし、変えていく方向性も間違っていたと思っています。それに福島の事故を起こした東京電力への制裁的なかたちでの自由化だったと思うんですよ。スタートがそこにあったから全体の方向性も間違ってしまったと。例えば、電源を持っていない新電力は、マーケットから買うしかないわけですが、その電力市場で電気を安く買える環境をつくるために電力会社には、固定費を乗せないことを求めました。限界費用で卸取引所に玉(発電した電気)を出すことが命じられていますが、これは「え!? 何の理由があるんですか?」という話です。コストを乗せられないのなら市場には出したくないですよね。

 電力小売りには約730社の新電力が参入しましたが、その多くは自前の電源を持っていません。それでどうやってビジネスをしているのかと言えば、売り買いをして利ざやを稼いでいるんです。そのマーケットに電力会社はコストを乗せずに電気を提供させられているわけですから、限界があるだろうと思います。そもそも電気は、取引市場での売り買いだけで扱う商品ではないと私は考えています。

──具体的に政策を動かし、国民的な理解を深めていくためにはどういった戦略、道筋があるでしょうか?

竹詰 国民民主党は、議員立法として法案を提出したり、具体的提案を政府に申し入れたりしています。最近では、再エネ賦課金を一時徴収停止にする法案の提出や、エネルギーの高騰対策として政府が出している補助金の期間延長を「緊急家計支援パッケージ」の一つとして提起しました。口で主張するだけではなく、法案や具体的提案というかたちにすることで公に出しているんです。

 国会の質問の場でも繰り返し、電力を自由化したことによる弊害について訴えています。国会はインターネットやテレビでも中継されることがあるし、議事録が残りますからね。それ以外にも、少しでも多くの国民の皆様に実情をわかっていただけるように、あらゆる機会を通じて発信することを粘り強く続けることだろうと思っています。

 私は電気事業の現場で起きていることを知っている自負があります。現場には嘘がないから、現場は現実なんですよ。「今日はこんなオペレーションをしました」「こんな苦情が来ました」「地元とこうしたいざこざが起きました」という現場の声は、常に現実なんです。それらを紐解いてみると、現場に問題があったのではなくて、ルールや制度に問題があったりするわけです。その視点を持てるのは私の強みです。役所の人たちは現場で働いているわけではないから、そこはわからないですよね。

 

自信と誇りを取り戻して欲しい

──電力関連産業で働く方々に向けてメッセージをお願いします。

竹詰 全国の職場を歩いていてよく聞いたのが「私たちの会社は大丈夫でしょうか」「私たちの働く場所はなくならないでしょうか」といった心配の声でした。大震災以降は、ずっとコストダウン、コストカットが続きましたから、業界全体が萎縮してきてしまった。このマイナスのプレッシャーが積み重なってきたことがその背景にはあるわけです。

 けれども、電気がなくなることはあり得ません。地味な仕事かもしれませんが、日本の経済・社会・文化、それから国民の健康や安全も支えているんです。だから、自信と誇りを取り戻して欲しいですよね。

──ありがとうございました。

聞き手・本誌 橋本淳一

 

たけづめ ひとし:1969年山形県生まれ東京都育ち。慶應義塾大学経済学部卒業後、東京電力に入社。2000年以降は労働組合の専従となり、電力総連副会長、東電労組中央執行委員長、連合経済政策局長などを歴任する。22年第26回参議院議員選挙の比例代表に国民民主党から立候補し、初当選。学生時代から卓球に打ち込み、慶應義塾大学では卓球部主将、東京電力でも卓球部部長を務めた。

 

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