『公研』20243月号「めいん・すとりいと

 

 2024年は選挙の年である。先進国でいう民主主義的な選挙が行われてはいない中国は、これらの選挙に関する情報を国内で統制し、国民が「選挙をしてみたい」と思わないように仕向け、可能であれば外国での選挙結果が中国の国益に適うものとなるように、選挙に関するフェイクニュースなどを当該国に送り出したり、アジア、アフリカなどの選挙に対しては直接的に「介入」したりする可能性もあろう。ただ、その中国が今年、特に注目している選挙は、やはり台湾、そしてロシア、アメリカの選挙であろう。

 2024年1月の台湾の総統選挙、立法委員選挙では、中国発とされるフェイクニュースや立法委員立候補者への資金提供など、さまざまな関与が指摘された。また、フォックスコン(鴻海)の創業者である郭台銘が総統選挙に立候補しようとすると、野党票の分裂防止のため、中国が鴻海系統の在中国企業に圧力をかけたとされている。原因は明確ではないが、郭は立候補を取りやめた。選挙の結果は、中国が非難する与党民進党の頼清徳が40・1%の得票で当選したが、立法委員選挙では与党民進党が議席を大きく失い、野党国民党が過半数に届かないながらも第一党になった。中国は、意にそぐわない結果となった総統選挙については、当選者の得票率が5割に満たなかったことなどを批判し、民進党、頼候補が台湾の民意を反映していないなどと非難した。

 ロシアの大統領選挙はいわば結果が見えている。だが、中国はロシアの選挙に対する先進諸国による批判的な言論が中国国内に流入することを防ぎつつ、ロシアの選挙の「公正さ」を強調することになる。また、必要であればプーチン候補者を支援する動きをするだろう。中国にとってロシアは同盟国ではない。だが、対米「競争」の上で最も重要なパートナーである。中国にとっての「悪夢」はプーチン政権が瓦解してロシアが混乱すること、また政権転覆が起きてロシアがNATOと親和的になったりすることだ。中国としてはプーチン政権を支えていくであろう。

 11月のアメリカ大統領選挙は、中国から見ても最大の関心事だ。アメリカの選挙が混乱すれば先進国の民主主義の問題性を発信し、どのような結果になろうとも米中関係は安定し、中国に有利な国際環境が形成されていると強調するだろう。他方、選挙結果によって米中関係が大きく変容する可能性もある。共和党が勝利すれば、香港や新疆ウイグル自治区での人権問題、台湾問題などへの圧力が軽減される可能性があるし、NATO、あるいはそのほかの同盟国との関係性が見直されるならば、中国に有利な安全保障環境が形成される可能性もある。また、アメリカの新大統領が経済的利益を優先すれば、中国としては妥協、取引の余地もある。

 しかし、予測可能性が立たないという根本的問題がある。他方、民主党候補者が勝利した場合、安全保障、技術、価値などの面での厳しい競争関係が継続する。だが、2023年末の米中首脳会談でコミュニケーションを回復し、台湾問題などでもボトムラインの確認を行なったようでもあり、関係を管理できると中国は考えているかもしれない。また、予測可能性が高いことも魅力である。

 世界的な「選挙の年」は、「埒外の」中国にとっても極めて機敏な対応を求められる一年だ。中国は、中国共産党の統治の国内での正当性を維持すること、また選挙結果が中国の国益にかなうものになるように仕向けることを念頭に対応していくことになろう。

東京大学教授

 

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