『公研』2024年2月号「めいんすとりいと」

 

 今年は世界的な選挙イヤーであり、すでに終わった台湾総統選挙を皮切りに、インドネシアの大統領選挙、イギリスの下院総選挙などが予定されている。日本でも、今年中に解散総選挙が行われる可能性が高そうだ。そして、11月実施のアメリカ大統領選挙・連邦議会選挙は、国際秩序のあり方にも大きな影響を与えるだろう。

 選挙に深く関与するのが政党である。有権者が直接投票する先は、候補者個人である場合も、政党である場合もある。だが、選挙後の政権の枠組みや政策決定は政党を単位にするのが一般的なことは、改めて言うまでもない。

 それだけに、政党のあり方は政治の質に決定的な影響を与える。ここで質とは、直面する課題に適切に応答しつつ、中長期的な一貫性や合理性のある政策決定ができるか、それを相当数の有権者に納得してもらえるか、といったことを指す。政党間の競争が不十分だったり、個々の政党の運営が不適切だったりすると、政治の質は低下してしまう。

 民主主義体制下にある世界各国の政党政治は、今日ほぼ共通して苦境に立たされている。その大きな要因は、政党間競争と政党内運営の両方で健全性が確保しづらくなり、政治の質の低下に直面しているところに求められる。

 近年の政党間競争は、虚偽すらも辞さない相手への激しい攻撃や全否定をしばしば伴う。ある政党がそのような競争によって勝利を収めたとしても、その後の政策決定は適切さを欠きがちで、有権者の納得も得られない。何かへの否定や反対で一時的に結集できても、それだけで新しい方向性を生み出すことはできないからである。

 政権や多数派をめざす政党は本来、重要な政策課題について、相手との違いだけではなく自らの立場を明確にする必要がある。とくに大事なのが、万能のイデオロギーでも個別の法案への対案でもない、5年から最大30年程度先の国際秩序や社会経済を見通した、いわば中距離の構想力である。それを基礎に有権者からの信頼を獲得することが期待される。

 しかし、政党内をそのような構想力でまとめられる例は稀になっている。現代の政策課題はいずれも非常に複雑で、因果連関は錯綜しており、何らかの立場を決めた瞬間に各方面から反対論が殺到するようなものが多い。SNSの存在や統合の視点を欠いた極端な多様性礼賛は、その傾向を助長する。勢い、とくに野党であるような場合には、相手の攻撃や全否定による一時的な結束と勝利が追求されやすくなる。

 さらに厄介なのが、そもそも攻撃や否定しか目指していない政治勢力が存在することである。このような勢力は、大政党の内部の分派であったり、独立した小政党だったりするが、自らの規模拡大よりも政権・大政党・主流派などの足を引っぱり、その威信を低下させることが主たる目的であるため、党外であれば政党間競争の健全性を損ね、党内であれば政党内運営の健全性を損ねる。いずれも、政治の質に重大な悪影響を与える。

 構想力を伴った政党内結束と政党間競争にせよ、攻撃や否定のみを目的とした勢力の排除にせよ、容易でないことは明らかだ。それよりも、目先の小さな対応を積み重ねて当座をしのいでいくほうがよい、という考え方も成り立つ。高齢化した社会に相応しいということなのか、政治なんてそんなもの、という通ぶった姿勢も見え隠れする。

 だが、冷戦終結後の世界の基礎的条件が大きく変わった今日、それではリスクが高まってしまう。とりわけ、国内でも少子高齢化による負荷の極大化という条件が加わる日本にとっては、今がまさに政党政治の正念場であり、青くさい書生論があえて求められる局面なのである。政治資金についての改革も、党内派閥の解消も、この正念場を乗り切るためでなければ、意義は大きく損なわれよう。

京都大学教授

 

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