2050年までの脱炭素社会をめざすうえで、新たな二酸化炭素(CO2)排出削減技術の開発や、再生可能エネルギーなどへの転換が世界中で急がれている。一方で、化石燃料への依存を減らしながら移行期を乗り切るには、不確実性と隣り合わせの中でいかにエネルギーを安定供給するかという現実的な課題に各国は直面している。そこで確実に大量供給できるLNG(液化天然ガス)の重要性が高まっているのだ。第7次エネルギー基本計画においてLNGは、再生可能エネルギーや原子力の拡大が進む中でも、安定したエネルギー供給を確保する広範な取り組みの一環として、将来のエネルギーミックスにおける重要な構成要素と、引き続き位置付けられている。日本エネルギー経済研究所(IEEJ)によると、世界のLNG需要は2050年までに約74%増加する見通しで、そうした状況下でいかにクリーンなLNGを長期間、安定的に供給できるかが焦点となる。
そのような中で、マレーシア国営企業ペトロナス(Petroliam Nasional Berhad)の取り組みへの関心がこれまでになく高まっている。同社は、日本がエネルギー転換の目標を推進する中、LNG供給の多様化、LNGバリューチェーン全体の排出原単位の削減、企業との連携強化により、信頼できるパートナーとしての役割を強化している。
本記事では、ペトロナスの世界的なLNG供給体制拡大に向けた主な取り組みを紹介する。また、同社のガス・海運事業副社長(LNGマーケティング・トレーディング担当)のシャムサイリ・イブラヒム氏に、将来を見据えた戦略を伺う。

■ペトロナスと日本の協力関係
ペトロナスは、1983年にLNGを日本に供給して以来、協力的な関係を一貫して続けてきた。現在でも、日本の主要なLNG供給元の一角を占め、長期顧客にとっては主要な、場合によっては唯一の供給者としての役割を果たしている。また、進化する市場のニーズに応える、カスタマイズされたLNGソリューションも提供し続けている。
■LNG安定供給への取り組み
ペトロナスは、出資、長期契約、持続可能性を重視したインフラの構築を通じ、多様化された強靱な供給ポートフォリオを構築し、LNGの安定供給体制を強化するために積極的に取り組んでいる。供給拠点の多角化により、マレーシアの国内エネルギー安全保障と経済発展を支援すると同時に、アジア太平洋地域および世界市場の顧客の進化するニーズにも対応している。
同社のグローバル展開は、中核となるLNG事業を運営するアジアのマレーシアから始まった。世界最大級のLNG生産施設であるビンツルLNG基地をはじめ、浮体式のPFLNGサトゥ、PFLNGドゥアを擁し、現在は第3の浮体式LNG製造施設(FLNG)を建設中だ。オセアニアでは、オーストラリア・クイーンズランド州のグラッドストーンLNG(GLNG)プロジェクトに資本参加している。施設はカーティス島にあり、処理能力は年間780万トン(MTPA)。世界初の石炭層メタンからLNGへの転換プロジェクトの一つで、非在来型ガス処理施設として業界をリードする。
カナダ(北米)では、グローバルなLNG事業拡大の一環として、傘下のノースモントニーLNGリミテッドパートナーシップ(NMLLP)を通じLNGカナダに25%出資した。そして、2025年7月、日本向けに初のLNGを出荷し、信頼できるLNG供給業者としての評価を固める重要な節目となった。さらに、ペトロナスは南米スリナムやインドネシアなどで計画されている総合的な天然ガスプロジェクトでも権益を確保している。
近年では拡大するLNG需要を支えるため、出資だけでなく戦略的な第3者からの調達にも手を広げている。こうした調達取り決めのおかげでポートフォリオの柔軟性が増し、地理的な多角化を実現できるだけでなく、市場が不安定になっても対応できる能力を得られる。
ペトロナスのガス・海運事業副社長(LNGマーケティング・トレーディング担当)のシャムサイリ・イブラヒム氏は日本で学んだ経験を持ち、日本食では刺身が好きという親日家でもある。同氏に脱炭素への取り組みや日本とどのようなエネルギーの未来を築いていきたいかについて、話を伺った。

──LNGカナダは日本やアジアにどのような恩恵をもたらしてくれるでしょうか。
シャムサイリ LNGカナダは当社のグローバル供給ネットワークを強化し、供給拠点の多様化だけでなく市場動向への柔軟な対応力を高めます。カナダ太平洋岸という立地は、アジア太平洋市場への効率的な輸送経路を提供し、特に日本および周辺地域の顧客に恩恵をもたらします。持続可能性の観点では、当社の脱炭素化戦略に沿い、世界でも最低レベルの排出量を実現する設計です。これはLNGバリューチェーン全体でのCO2排出削減に向けた当社の広範な取り組みに貢献します。ペトロナスは合計6隻の新型省エネ型LNG船も専用に配備しました。 各船の積載容量は17万4000立方メートルで、当社船隊最大のLNG運搬船です。デジタル技術を最大限に活用した効率的な輸送を実現する最先端のスマートシップで、天然ガスと重油の両方を利用する二元燃料エンジンを搭載しており、従来のガスタービン式船舶に比べて燃料効率が大幅に向上し、排出原単位を55%低減しています。
──ペトロナス社全体としては、CO2排出抑制に対してどのような取り組みをしていますか。
シャムサイリ ペトロナスは2024年に、温室効果ガス(GHG)排出量をグループ全体で4283万トン(CO2換算、出資比率ベース)と、基準の2019年に比べ8%低い水準に抑制しました。メタン排出量は、天然ガスバリューチェーン全体で2019年比62%削減。これは2025年目標の50%削減を先取りした成果です。
また、ペトロナスは「2050年排出量実質ゼロ(NZCE2050)」という大きな目標に向けて、日常的なフレアリングやベンティングのゼロへの抑制、電化の推進、CO2回収・貯留(CCS)を重視しています。例えば、資源開発やLNG生産に必要な電力は、CO2排出量の少ないエネルギーや再生可能エネルギーに置き換えるよう努めています。ビンツルLNG基地では、旧式のガスタービンを順次新しい電気式システムに更新し、燃焼を伴う設備を電気式の代替設備へ転換するとともに、可能な限り再生可能エネルギーを使うようにしています。これらの取り組みは成果を挙げ、排出削減を加速して、年間50万トンのCO2排出削減目標の達成を支えています。
──貴社が掲げるエネルギー・スーパーストア構想とは?
シャムサイリ この構想は、ペトロナスが顧客のエネルギー需要の変化に応じて、幅広く総合的なソリューションを柔軟に提供することで、継続的に顧客を支援していくという姿勢を示すものです。ガス・海事事業においては、数十年にわたる信頼で結ばれたパートナーシップを基盤として、安定性と柔軟性を兼ね備えたLNGを供給するところから始まり、顧客の進化する業務や脱炭素化のニーズに対応する「LNG+(プラス)」と呼ぶソリューションに発展しています。
当社は顧客中心主義に基づき、LNG供給にとどまらずにパートナーと緊密に連携し、バリューチェーン全体にわたり需要に応じたソリューションを提供しています。柔軟なLNG契約や輸送、燃料補給、船舶間積み替えなどの専門サービスを提供するほか、CCS、バイオメタン、水素、アンモニア、再生可能エネルギーといった排出削減に向けた選択肢が広がっています。われわれは画一的なアプローチを取らず、各顧客が置かれた固有の状況や移行目標に適応するようソリューションを設計。それにより足元のエネルギー需要を支えつつ、進歩への対応も可能にします。
イノベーションも、この取り組みの重要な推進力です。当社の浮体式LNG(FLNG)技術は、従来は採算が取れなかった遠隔地や孤立したガス資源の開発を可能にし、他と一線を画したソリューションを提供する好例です。FLNGは洋上での処理・液化を可能にすることで、より効率的かつ持続可能なLNG供給オプションを拡大し、特に成長する経済圏のエネルギー安全保障を強化します。

──日本企業とは今後、どのような協力をしていきたいですか。
シャムサイリ 日本は最も重要な顧客の一つです。40年以上にわたり、政府機関やエネルギー企業と信頼関係を築き、日本のパートナーと協力し、エネルギー安全保障を支えつつ脱炭素化という共通の目標を推進してきた実績があります。協力の対象は、LNGバリューチェーンにとどまらず、大きく広がっています。日本との関わりには、東京ガス、JERA、三菱商事といった主要エネルギー企業との長年にわたるパートナーシップだけでなく、経済産業省やエネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)など政府・政府系機関との連携も含まれます。
これまでの協力の結果、13カ所に上るLNG受け入れターミナルが共同の取り組みにより稼働。これは、ペトロナスによる日本のLNGインフラと強靱性向上への揺るぎないコミットメントの現れでもあります。日本のパートナーとはLNG供給だけでなく、CCS、バイオメタン、メタン排出管理、水素、再エネ、その他の低炭素エネルギーソリューションといったペトロナスが取り組んでいるカーボンニュートラル技術分野で、幅広く協業中です。
──脱炭素をめざす中で、CCSは日本でも大きな鍵となっていますが。
シャムサイリ ペトロナスは、CCSをNZCE2050達成に向けた重要な要素と位置付けています。これに沿って、社内のCCS資産の活用と高CO2ガス田の商業化のほか、国内のCO2貯蔵能力を拡大するための複数のハブの設立を推進。さらに、世界的な機関と提携して最高水準の基準を採用し、国境を越えたCO2輸送と貯蔵のための国際的なバリューチェーン形成をめざしています。
また、費用対効果を高めることを狙い、最先端のCO2回収技術にも投資しています。
──今後の日本の顧客ニーズへの対応は。
シャムサイリ ペトロナスは、積極的に世界的なLNG供給体制の多様化を推進しています。それは顧客に信頼される安定したLNG供給を実現するためです。エネルギー業界関係者は、市場が急激に変動する環境下で、安全で信頼性の高いLNG供給がいかに重要かを理解しています。どのような市場環境においても、買い手と売り手の緊密な連携は共有の価値を実現していく上で不可欠です。従って、当社のLNG販売契約戦略は一貫しており、長期契約で供給の安定性を確保し、短期契約で需要変動に対応しています。日本のような成熟市場では、脱炭素とLNG供給源の多様化に重点を置いています。
また、双方の利益を損なわないかたちでカスタマイズされたソリューションを提供しつつ、短期契約や仕向地の変更にも柔軟に対応することも重要です。
──日本の国立高等工業専門学校でも学んだ経験をお持ちですが、印象に残ったことは。
シャムサイリ 規律と集中を維持しながらチームとして作業することの重要性を理解しました。本質に集中して余分なものを排除し、敬意と簡素さを重んじる生き方を学び、それがすっきりしたミニマリスト的なライフスタイルにつながりました。私は衝突を避け調和して生きることを大切にしています。
──日本で学んだ重要な言葉はありますか。
シャムサイリ ビジネスだけでなく自己成長にも適用される「カイゼン」という普遍的な向上の原則に感銘を受けました。カイゼンの哲学は、万物が絶えず進化し停滞しないことを示しています。日々、より良くなるかどうかの選択は私たち自身にあるのです。

──最後に、日本に向けてのメッセージをお願いします。
シャムサイリ 私たちは日本をパートナーとして、非常に尊敬しています。献身的な取り組みや緻密さ、先見の明といった価値観に強く共鳴するからです。2026年の新たな年を迎えるにあたり、協力を強化し、より強靭で持続可能なエネルギーの未来に向けて共に進むことを楽しみにしています。
──ありがとうございました。
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マレーシアに本社を置くペトロナスは、エネルギーで脱炭素を支える新たな技術を推進しつつ、安定した供給の確保に努めている。世界的にエネルギー需要が増加し続ける中で、こうした取り組みは注目を集めている。エネルギー転換の重要な局面にある日本にとって、同社の信頼できるパートナーとしての役割はますます重要になっているのだ。
