公研2025年12月号「issues of the day」

 トランプが米国大統領として傍若無人に振る舞う姿を見ると、ポピュリスト政治家が大国の政権を握る事態も、もはやノーマルな世界の一部と化した感がある。ただ、ドイツやフランスといった欧州連合(EU)の主要国がポピュリストの手に落ちると、トランプとはまた別の意味でショックとなるだろう。

 その潮流は欧州各国に波及しかねず、EUが機能不全に陥ると予想される。ロシア・ウクライナ戦争への影響も避けられず、もしロシアのナラティブに沿うかたちで米欧ロが緊密化するようになれば、国際秩序に致命的なダメージを与えかねない。

 ドイツはまだ、右翼ポピュリズム政党「ドイツのための選択肢」(AfD)への支持が旧東独地域に偏在しがちで、政権を近々握るとは考えにくい。フランスではしかし、マリーヌ・ルペン(57)を事実上の指導者とする右翼「国民連合」が着実に支持を広げ、1年半足らずに迫った2027年大統領選を制しかねない勢いである。

 フランスでのポピュリスト政権誕生は、現実の課題として語られ始めている。

「左翼ほど危険ではない」

 国民連合の前身「国民戦線」は1972年、ルペンの父ジャン=マリー・ルペン(1928─2025)を党首として設立された。当初は反共泡沫政党だったが、1980年代に移民を攻撃対象と定めて支持を拡大し、2002年大統領選では父ルペンが決選進出を果たした。ただ、彼に政権を狙う意志は薄かったと言われ、人々の奥底に潜む差別心や恨み辛みをくすぐって喝采を浴びる道化師的な役割で満足する感があった。

 しかし、2011年に党首に就任した三女のマリーヌは、国民戦線を政権政党に脱皮させようと試みた。党に根強い反ユダヤ主義の言説を封印し、ネオナチ系の党員を追放するなど、「Dédiabolisation」(脱悪魔化≒正常化)と呼ばれる改革を進めた。社会経済政策では福祉重視や市民の権利尊重をうたう左派リベラル路線を採り、大衆への浸透も図った。一方で、ロシア大統領プーチンの周辺と親交を結び、2014年には活動資金の援助も受けた。

 その結果、父の時代には高齢者や富裕クラスに偏りがちだった支持層を2010年代に労働者層に広げ、2018年の党名変更を経て、2020年代には農村への勢力拡大に成功した。2025年現在、パリ周辺以外のほとんどの地域で、国民連合への支持は他党を凌駕している。

 左翼の過激化も国民連合に有利に働いた。前回2022年大統領選で、ルペンは依然「最も危険な候補」と位置づけられていたが、ジャン=リュック・メランション(74)率いる左翼「不屈のフランス」の幹部から近年、暴力容認の言説が相次ぎ、「右翼より左翼のほうが危険」との認識が徐々に一般的になった。

 2024年8月に大手機関Ipsosが実施した世論調査によると、「不屈のフランス」について72%が「暴力を煽っている」、69%が「民主主義にとって危険」と答え、一方で国民連合についてはそれぞれ54%、53%にとどまった。国民連合は有権者の目に、「左翼よりましな政党」と映るようになったのである。

実情はルペン家独裁

 父ルペンが第2次大戦対独協力者の残党やカトリック強硬派ら伝統的な人脈に支えられたのに対し、マリーヌ自身が寄って立つのはいわゆる「新右翼」人脈である。イタリアのマルクス主義思想家アントニオ・グラムシ(1891─1937)の理論に触発された1968年発足の右翼学者団体「欧州文明調査研究集団」(GRECE)や、1974年に誕生した右翼系官僚集団「時計クラブ」を源流とし、思想や文化の普及を通じて権力掌握をめざす戦略論や、宗教性を脱した世俗主義、右派との積極的な連携方針などを掲げる一群である。父ルペンの時代には傍流だったが、マリーヌ時代になってその下に結集した。

 マリーヌ・ルペンは、移民の制限や二重国籍制度の廃止、イスラム過激派の取り締まりを声高に主張する。一方で人種差別を明確に否定し、文化の多様性や信教の自由の尊重を謳うなど、進歩的な面も持ち合わせる。これは「新右翼」の理念の反映だろう。どこまで彼女の本心なのかはわからないが、右翼への嫌悪感を和らげる要素となっているのは間違いない。

 なお、「国民連合」は表面上、民主的な党内制度を設けているものの、実際にはルペンの独裁政党であり、2人の姉の配偶者らとその取り巻きらによる「新右翼」系の家族人脈が、人事や資金繰りを牛耳っている。近年急速に党内で台頭し、2021年からは党首を務めるジョルダン・バルデラ(30)も、当初はルペンの金庫番役を担った元側近フレデリック・シャティヨン(57)の娘と、続いてルペンの姪の1人と恋人関係になることで、ルペン家に入り込んだ人物である。

 このようなネポティズム(縁故主義)は、やはり家族が決定権を握る米トランプ政権、同級生や同郷出身者で周囲を固めるハンガリーのオルバン政権など、ポピュリズム組織の多くに共通する。

 通常だと批判の対象となるこのような特性が、ポピュリズムの場合には時にプラスに作用する。能力主義の世界で成果を上げられなかったポピュリズム支持者には、家族のように競争のない社会を希求する傾向が強いからである。彼らにとって、縁故主義は否定すべきものでなく、むしろ助け合いの精神を具現化していると見なされる。

「サイボーグ」大統領?

 ただ、ルペンは2025年3月、欧州議会議員時代に公設秘書の給与を党資金に流用したとして有罪判決を受け、被選挙権を停止された。上訴審での逆転はありうるものの、立候補できないまま大統領選を迎える可能性も大きい。

 このため、国民連合の幹部らは国民議会(下院)を解散に持ち込み、総選挙で過半数を握ったうえで、ルペンに事実上の恩赦を与える法案づくりを画策していると言われる。

 その試みが不発の場合、党首のバルデラが傀儡候補として立つだろう。バルデラは、堂々とした立ち振る舞いと若々しさが評価を受け、右翼支持層以外にも人気が高い政治家である。ルペンの左派的な経済政策を不安視するフランス財界には、バルデラに期待する声が根強い。

 運輸最大手「ボロレ・グループ」総帥で近年メディア支配も強めるヴァンサン・ボロレ(73)は、イタリアのメローニ政権をモデルに右翼と右派を糾合した政権樹立を画策するが、その中心にバルデラを想定していると言われる。

 ただ、バルデラに果たして国家元首が務まるか。彼は学業不振で大学を早々に中退し、定職も持たず、ルペンの覚え一つで台頭した人物である。役者としての才能には恵まれ、徹底的な訓練を受けて身のこなしや弁説を磨いたが、政策に関する評価は皆無に等しく、「空っぽの貝」「サイボーグ」と揶揄される。ジャーナリストのピエール=ステファン・フォールによる評伝『大いなる代理人 バルデラの隠された素顔』(未邦訳)の中で、バルデラのコーチングに携わったコンサルタントのパスカル・ユモーは「彼は読書をしない。新聞も読まない。情報を得ようともしない。マリーヌの言うことをそのまま繰り返す機械」と語っている。

 バルデラ政権となった場合、ルペンが院政を敷くだろうが、仮にもEUの盟主を自任する国連安保理常任理事国である。そんな小手先の取り繕いが通用するかどうか。

対抗馬がいない

 問題は、それでもルペンやバルデラに対抗しそうな人物がいないことである。

 調査機関「エラブ」が2025年11月、大統領選に関して公表した世論調査によると、ルペンとバルデラいずれの場合も34~37・5%の支持を集め、2位以下を大きく引き離した。続くのは中道の元首相エドゥアール・フィリップ(54)だが、15~19・5%にとどまる。元首相ガブリエル・アタル(36)は12・5%、右派の前内相ブリュノ・ルタイヨ(64)は8~8・5%である。

 フィリップ、アタル、ルタイヨの3人は、最近急速に支持を失った。大手機関Ipsosの10月の調査だと、9月に比べフィリップが3ポイント、アタルが5ポイント、ルタイヨが7ポイント減らした。フランスでは10月にセバスティアン・ルコルニュ(39)首班内閣が成立したが、その翌日に早くも瓦解し、各党の調整を経て4日後にルコルニュが再び首相に指名されるというドタバタ劇が演じられた。

 そのきっかけをつくったのが、副首相格の国務相兼内相に任命されながら他の新閣僚を批判して辞意を示したルタイヨであり、混乱に拍車をかけたのが、大統領マクロンの指導力を公然と批判したフィリップやアタルだった。有権者は彼らを、危機を煽る人物と受け止めたのである。

「ルペンやバルデラでも仕方ない」?

 フランスはあらゆる選挙が2回投票制であり、大統領選も第1回投票の上位2人が決選に進む。この制度下だと、1回目で右翼がいかに支持を集めようとも、決選で右翼以外の候補が逆転する。これまでそう思われてきたが、そのような安全弁はもはや機能しそうにない。右翼大統領阻止を掲げて有権者の支持を結集できる候補自体が見当たらないのである。

 「ルペンやバルデラでも仕方ない」

 フランスではそのような雰囲気が浸透しつつある。ただ、国民連合はこれまで、政権に参加したこともなければ、大都市の市政を担ったことさえない。統治経験を根本的に欠いているうえ、陰謀論に立脚した主張を繰り返し、他者を攻撃するばかりで、自らの欠点を見つめようとしない。

 プーチン政権との関係も完全には断てないでいる。政権獲得後に心を入れ替え、その地位にふさわしい振る舞いを見せるだろうか。待っているのはむしろ、大いなる混乱ではないか。

 米トランプ政権の迷惑が世界に及ぶように、フランスの右翼政権が与えるだろう被害も国内だけにはとどまらない。だが、フランスの有権者はそこまで考える余裕を失っているようである。(文中敬称略)

東京大学先端科学技術研究センター特任教授

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