『公研』2025年3月号「めいん・すとりいと」

 2020年代も半ばとなり、世界政治の風景は一層の変容を蒙っている。昨年(2024年)は、世界人口の半数が住む国・地域で選挙が実施されたとされる、まれにみる「選挙イヤー」だったが、そこで顕著だったことは、特に先進諸国、有力国を中心に、政権与党が軒並み敗北、ないし大幅な議席減少を蒙ったことだ。

 世界が注目したアメリカ大統領選挙では、民主党の現職副大統領ハリスがトランプに敗北した。イギリス総選挙では与党・保守党が地滑り的な大敗を喫し、労働党に政権を譲り渡した。フランスでは、マクロン大統領による国民議会の解散を受けて行われた選挙で、マクロン与党の中道勢力は一層縮小し、左右の急進勢力に事実上の主導権を奪われるかたちとなった。オーストリアでも与党が敗北し、右派急進政党が第一党となった。ベルギーでは与党連合が敗北し、第一党となった中道右派ポピュリスト政党が翌25年、初めて首相を誕生させた。そして欧州連合(EU)の加盟国では、EUの方針に重要な影響を与える欧州議会選挙が実施され、欧州統合の立役者だった穏健諸派が弱体化した一方、特に急進右派が議席を大きく増加させた。

 アジアに目を転じると、インドでは与党・インド人民党が過半数割れを喫した。韓国では大統領系与党が国会選挙で大敗した結果、政権運営に困難をきたした尹大統領が「非常戒厳」を宣布し、民主主義そのものが脅かされる事態となった。そして日本でもご承知の通り、衆議院選挙で自民党・公明党の連立与党が過半数割れを起こし、少数与党政権の多難な船出となった。特にここ数年、ウクライナ戦争や異常気象が続く中、世界的なエネルギー価格や食料価格の上昇が庶民の生活を直撃し、その不満が政権与党に向かっていったことが、各国の与党敗北の背景にあることは確かだろう。

 しかしこの「与党はつらいよ」現象において、特に注目すべきことは、20世紀の各国政治の中軸となってきた、中道右派・中道左派を双璧とする二大政党の衰退である。特にヨーロッパ諸国では近年まで、キリスト教民主主義政党をはじめとする中道右派、社会民主主義政党を軸とする中道左派の二大勢力が長きにわたり政治の表舞台を占め、議会で圧倒的多数の議席を占めてきた。各国の首相・大統領もほとんどがこの二大勢力の出身だった。そもそもかつての日本の政治改革論議で理想とされたのも、かかるヨーロッパ型の「政権交代可能な二大政党制」だった。

 しかし今、20世紀の政治の主役を張ってきた二大政党に、昔日の面影はない。中道右派政党を支えてきた中間団体や信徒層、中道左派政党を支えてきた労働組合はいずれも弱体化し、政党組織自体も先細りしている。左右の急進派に挟み撃ちにされ、近年の既成政治・既得権益批判の波を直接かぶるなか、第三党以下に転落する「二大」政党も出てきている。もはや「20世紀型政治」を支える構造そのものに変容が生じている、と言わねばなるまい。

 なお、本稿の原案を作成したところで、ドイツ総選挙(2025年2月23日)の結果が飛び込んできた。選挙イヤーだった2024年の流れを、そのまま受けつぐ展開である。ドイツ社民党を軸とする与党連合が大敗する一方、移民排斥を掲げる急進右派の「ドイツのための選択肢」(AfD)が得票率を倍増させ、第二党に躍進した。特に旧東ドイツ5州すべてでAfDの得票率3割を超え、第一党となったことは衝撃的だった。しかも第3党に転落した社民党の得票率はわずか16%、実に19世紀末以来最低の水準に落ち込んでいる。まさに「20世紀型政治」の成立以前の状況に、先祖返りしたとの感もある。

 既成政党における「与党はつらいよ」状況は、今の日本も含め、まだしばらくは続きそうだ。千葉大学教授

 

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