2022年12月号「issues of the day」

 

 

 「復帰50年」である2022年は沖縄にとってどんな年だったのか。次の50年を見据えて沖縄はどうあるべきか。本稿では、沖縄県出身の30代(1972年以降に生まれ、沖縄戦の生存者から直接話を聞き、米軍施政権下の沖縄を体験していない世代)が沖縄の米軍基地と経済・振興をどのように見ているか、一視点を提示する。基地問題については国際関係を専門とする研究者が、経済と振興については県内ベンチャー企業経営者が論じる。

 

基地問題の論じ方にも変化が

 ここでは沖縄からの基地問題に関する問題提起・アピールの発展に注目したい。まず、アピールする内容について、単に被害を訴え、現状の改善を要請するだけでなく、近年は国際情勢を沖縄の視点で評価してロジックを組み立てたり、人権や民族自決など国際的な規範を用いて主張したりしている。例えば、県が設置した万国津梁会議(基地問題を含む5分野について議論する沖縄県の諮問会議)による提言書では、米国と中国の戦略的競争や日米のインド太平洋戦略、さらに米海兵隊の新構想を踏まえた上で在沖米軍基地の負担軽減策が提示された。

 また、アピールする相手・場も拡大した。沖縄県は日米の政府および国民に対してだけでなく、国連でも訴え始めた。この傾向は、沖縄が被害者として援助や共感を求める姿勢から、論理的に主張し多方面に働きかけて理解者を増やす積極的な姿勢への転換を示している。ただし、国際的なアウェアネスを高め「外圧」を利用するのは一つの方法であろうが、この問題を解決するには当事者である日米両政府の関与が必須である。今後は「沖縄からの提案には双方(沖縄と日米)にとってメリットがある」という見せ方を工夫していく必要があるだろう。

 

意見の二分

 沖縄に住む人々は基地に対してどのように思っているのか。今年沖縄県が発表した「在沖米軍基地から派生する諸問題等のアンケート」及びNHKの「復帰50年の沖縄に関する調査」では、基地の必要性について意見が割れているように見える。前者では米軍基地の必要性について、肯定派が約48%(とても必要である16.3%、やや必要である32.0%)、否定派が約42%(あまり必要ではない27.7%、全く必要ではない15.0%)で拮抗している。後者の調査では、少し設問が異なるが、復帰後も沖縄には米軍基地が残っていることについて、肯定派が約61%(やむを得ないが5割)、否定派が約37%である。

 必要または不必要の理由がさらに興味深い。沖縄県の調査によると、基地は必要だと答えた人の多くが①国際的な緊張や対立があり、抑止力や対応能力が必要68.3%、②日本の自衛力が不十分53.5%、③中国が沖縄を攻めてくる恐れ53.2%を挙げる。一方、基地は不必要と答えた人は①基地があることによる日本が戦争に巻き込まれる危険性65.4%、②国際的な緊張や対立は平和的な対話で解決すべき38.5%、③日米安保条約自体が不要27.5%をその理由とする。注目すべきは、両者とも中国の沖縄への侵略の可能性を認識しつつ、「だからこそ基地が必要だ/不要だ」という正反対の意見を持っていることである。米軍基地は戦争を抑止するのか、もしくは攻撃されるリスクを高めるのか、県全体でジレンマを抱えている状況だ。沖縄を取り巻く国際情勢が緊迫するほど、意見の対立は大きくなるだろう。

 対立する意見を持つ人々が話し合うことは容易ではないし、自分の意見に近い情報しか選好しないのが最近の傾向である。一方で、多様性を認めようとする価値観も広まりつつある。基地について立場や意見が違うことを前提に、多様な考えを認め合う作法や場が求められている。そのような試みは県内の教育の現場で実施されている。こうした地道な対話の蓄積が、将来の建設的な議論に繋がることを期待したい。

 

基地研究のトレンド

 ここで、沖縄の言論の形成や牽引の一翼を担ってきた基地関連の研究にも焦点を当てたい。米国の対沖縄、日本、アジア政策についての研究や日米安全保障体制に関する研究は外交史研究者によって脈々と続いている。一方で、2000年代に入って、比較政治の視点から海外の研究者が沖縄にフォーカスする研究が出てきた。それに呼応して、日本においても基地問題を国際比較し沖縄を相対化する研究が進んでいる。日米関係に縛られない、他国の事例から導き出される解決策も検討されている(川名晋史編『世界の基地問題と沖縄』明石書店、2022年)。さらに、社会学や文化人類学などのアプローチにより、基地を取り巻く沖縄の人々の動きや営み、思考が描き出されており、多層的な理解の一助となっている。

 また、平和と安全保障をテーマとした調査・分析、政策提言を行うシンクタンクやブレーン機関の設立を求める声が沖縄で高まっている。沖縄、ひいては東アジア地域の平和と安定に資する独立研究・調査機関ができれば、県内の議論もより進展し、また知的交流の場として沖縄の価値も向上するだろう。

 

沖縄経済のための「三つの脱却」

 沖縄に関する議論の中で、無意識に置いている/置かれている「前提」を見直す必要性を感じることがある。沖縄振興計画もそうだ。同計画は、沖縄の歴史的・社会的・自然的・地理的な特殊事情を鑑み、国の責任で沖縄振興に取り組むために策定されたもので、1972年から50年間継続・更新されてきた。県内リーダーなどの発言では、同計画が今後も更新される前提で各種計画を策定しているように見られる。その前提があるからこそ、次期計画に関する徹底した議論が行われず、2021年1月に県が策定した次期振興計画骨子案に県民が望む沖縄の未来像やその実現に向けた具体案を盛り込むことができなかったのではないか。

 その結果が、同年4月の自民党沖縄振興調査会での小渕優子会長の「振興計画の単純延長はあり得ない」発言や、2021─22年を通して露呈した県政と県経済界の足並みの乱れ、22年4月に施行された改正沖縄振興特別措置法に振興計画の「5年以内の検討・見直し」が盛り込まれることに繋がったと考えられる。このような現状に一沖縄県民として、悔しさ・恥ずかしさ・少しの怒りを抱きつつも、次の50年の振興に寄与すべく前提を見直し、動き続けねばという想いを一層強くした。

 

3,000億円の呪縛」からの脱却

 近年の沖縄振興に関する議論で頻出する数字が3,000億円だ。例えば、県は3,000億円規模の振興予算をいかに獲得するか、民間企業等は3,000億円のうち国の公共事業や、県市町村が自由度高く使える一括交付金をいかに受注・獲得するかを検討する。前述の「振興計画は今後も継続する」という前提が生む「与えられることへの慣れによって引き起こされる貪欲さの欠如」も問題だが、真に危惧すべきは振興計画に関して国と折衝をする沖縄県が、意図せず、沖縄振興に3,000億円規模のキャップを設定してしまい、その金額の枠中でしか沖縄振興を考えられなくなってしまうことである。

 この呪縛から脱却するのに重要なのは、具体的かつ解像度の高い沖縄の未来像を行政・民間企業・市民で議論し描くことだろう。そして、その実現に必要な予算規模、沖縄県民が独自でやるべき領域、国の支援が必要な領域を示していくことだ。沖縄の可能性に自らキャップを被せるのは勿体ない。

 

「基地と振興はリンクしない」からの脱却

 沖縄では、基地と振興のリンクは「避けるべき」という前提で多くの議論が進む。これは、基地問題に対する地元の協力姿勢に応じて沖縄関係予算が増減する政府のアメとムチ戦略に対して、土地接収による基地整備が進められた米軍統治時代の歴史的な背景から、そのような戦略はおかしいと憤っているためだ。しかし、この前提を疑い、基地と振興をリンクさせることは沖縄振興に新たな可能性を生むのではないか。沖縄は日本の安全保障にとって重要な役割を平時から担っている。そして、台湾危機が発生するなどの有事の場合、沖縄への短中長期的影響は計り知れない。沖縄が今後も日本の安全保障にとって重要な役割を担うことは避けられないという認識に立てば、基地と振興をリンクさせ、それを加味した沖縄の未来像の実現に必要な投資・補償・規制緩和を日本政府・国民に求めるのは当然のことでないか。安全保障の役割を明記した沖縄の未来像を描くことで、アメとムチの主従の議論から、日本の発展と安全を担うチームとしての議論に変わっていくと考える。

 

「埋立て開発」からの脱却

 沖縄に限らず、埋立てを前提とした開発は世界中で行われてきた。前出のNHKの調査で沖縄の誇り・魅力について県民の71%、全国民の83%が「豊かな自然」と回答したことを考えると、沖縄は早急に埋立てに対する姿勢を見直す必要があるだろう。特に、普天間飛行場の代替施設(埋立面積約153ヘクタール)建設に反対する論点として自然環境破壊を訴えてきた裏で、同飛行場を含む県内の米軍基地返還を約束した日米合意が発表された1996年から今日に至るまで、沖縄の面積が約1,530ヘクタールの埋立てによって増えている事実を県民はどう捉えるだろうか。また、普天間基地の辺野古移設に反対する一方で、経済効果が期待される那覇軍港の浦添ふ頭への埋立てを含む移設を容認する県の姿勢はあまりにも苦しい。このタイミングで、世界トレンドを加味し、沖縄に埋立て開発を認めず沖縄独自の景観を守り育む姿勢に改めることで、沖縄の魅力が増し世界中の人々が訪れたい目的地になる可能性が高まるだろう。

 

国と県への要望

 基地と経済のいずれの問題についてもこれから求められるのは、①前提を疑って建設的な議論を組み立てること、②それを腹を割って話し合える国と県のパイプを構築することである。これまで暗黙のうちに踏襲されてきた「前提」を問い直し、データやエビデンスをもって沖縄側から議論を組み立て展開することが重要である。その根幹となる沖縄の価値や利益を見極める作業も欠かせない。

 そして、国と沖縄の間の政治、行政、経済面のパイプ、すなわち人的ネットワークなくして物事を進めることはできない。国側には沖縄の声を受け止める姿勢も求められる。基地の必要性について「所与」や「地政学的に」などと曖昧にせず、日本の安全保障について全国民に向けて丁寧に説明することが今後ますます重要になるだろう。

 

 沖縄国際大学特別研究員 波照間 陽(はてるま しの) 
Global Shapers Community Okinawa
共同創設者 下地 邦拓(しもじ くにひろ)

 

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