『公研』2021年12月号「めいん・すとりいと」

 コロナの年2021年も年の瀬を迎えた。米国内ではすっかりアフターコロナのムードになってきた。筆者が教鞭を執るサザンメソジスト大学(SMU)もこの秋学期からは全面通常授業に移行している。

 やはり、コンピューター・スクリーンではなく、全員が教室に揃って、学生を前に授業をするのは格別である。あとは隔離などの国境を越えた移動に対する制約が撤廃されて、その国の人と直接会って話ができるときが到来することを祈るばかりである。筆者は例年6月から7月にかけてSMUのサマープログラムを関西学院大学で行ってきたが、残念ながら昨年、今年とコロナ禍の影響で中止となってしまった。米国人の日本への渡航が解禁になって来年夏のサマープログラムが実施できることを願い、準備を進めている。2年続けて夏休みを棒に振った大学3年生にとっては最後の夏になる。「もう一年待て」というわけにはいかないのである。

 それにしても、コロナ禍への対応に失敗した欧米諸国がワクチン接種を条件にして外国人の入国を原則として認めるようになったのに、日本が依然として国境を閉じているのは皮肉なものである。人口100万人あたりの累計死者数(11月28日現在)は、日本の146人に対して、米国は2395人、英国は2117人、対応が比較的うまくいっているドイツでも1205人、SMUがこの秋学期から学生派遣を再開したスペインとフランスはそれぞれ1880人と1816人、来年夏のプログラム再開がすでに決まっているイタリアは2215人にのぼる。にもかかわらず、欧州諸国でのプログラムがすでに再開している一方、日本でのプログラムは未だに実施の目処が立っていない。

 日本で最近コロナが収まってきたのにはそれなりの理由がある。感染症による死者数というのは、ウイルスに接触する確率(O:Opportunity)、ウイルスに接触したときに感染する確率(T: Transmissibility)、感染したときに重篤化する確率(S:Susceptibility)の掛け算で決まる。Oを下げるにはロックダウン、Tを下げるにはマスク着用、Sを下げるにはワクチン接種が有効といえる。マスク着用が当たり前の日本社会でワクチン接種が進めばOTSの掛け算の値が下がるのは自然な流れであろう。また、肥満や糖尿病はSを上げることになり、欧米や中南米諸国の死者数が多いのも宜なるかなである。

 こうした好状況下にもかかわらず、日本政府は入国制限と水際対策を緩和するのにきわめて慎重である。確かに、強制されない限り何をやってもいいと思い込んでいる輩が、強制されないのをいいことにマスクなしで街中を歩き回るのを心配するのは理解できる。しかしながら筆者は、米国の若者が日本に行き、日本人はペナルティがあるわけでもないのになぜ公共の場でマスクを着用しているのかを考え、その姿勢を「学んで」ほしいと思っている。日本人には、なぜ強制されなくても日常的にマスクを着用するのかを彼らに説明してほしい。米国でワクチン接種を拒否する人はしばしば「個人の自由」を持ち出す。マスク着用も然り。しかし、OTSを下げるために、個人の自由を持ち出す前に各人のレベルでできること、各人の社会的責務を果たすために何ができるかを考えてほしい。TとSが下がればOを下げる必要がなくなるので、ワクチン接種やマスク着用は経済の活性化にもつながることを彼らに知ってほしい。

 昨今日本の大学では「グローバル教育」をめぐる議論が喧しいが、グローバル教育が一番必要なのは米国の大学生である。外国から学ぼうとしないのは、自分たちの選択が世界中に影響を及ぼすということを全然わかっていない米国人の性ともいえる。しかしながら、オートメーションとグローバリゼーションで激変する世界で生きていかなくてはいけない米国の若者にとって、米国がコロナ禍への対応に失敗した今こそ「外国に学ぶ」姿勢に転換する好機ともいえる。そのためにも、日本政府には早期に入国制限と水際対策の緩和をお願いしたい。ワクチン接種を義務付けた上での外国人受け入れは、回り回って立派な「国際貢献」にもなると確信する。

サザンメソジスト大学(SMU)准教授

 

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