『公研』2021年12月号「めいん・すとりいと」

 

 この1年間、新型コロナウイルスを体験して私たちの生活は大きく変わった。とりわけ働き方とお金の使い方が変化したと思う。これまで家と会社を往復して暮らしていたが、テレワークが可能になってずっと家にいられるようになったし、ワーケーションで趣味を兼ねて出かけた先で仕事ができるようになった。スーツやネクタイは不要になって、普段着で過ごせる。会社の帰りに飲み屋で騒ぐこともなくなり、結婚式や同窓会、忘年会など各種の集まりが途絶えたせいで、社交にお金を使わなくなった。

 そうすると、今まで自分が買いためたものに注意が向くようになったのではないだろうか。服も靴もこんなに要らないし、調理具や家具なども同じようなものがたくさんある。買ってはみたものの、使わなかったものが結構ある。この中で本当に必要なものはどれだろうか。ずいぶん無駄遣いをしたなあと思う。

 これまで私たちの社会は、3つの自由によってつくられてきた。動く自由、集まる自由、語る自由である。それがコロナウイルスの感染を防ぐために3密を避けようということになって、大幅に制限を受けた。オンラインで対話する自由は保たれている、と思う人がいるかもしれない。しかし、この3つの自由はセットである。私たちは出会いを通して気づきを得る。その気づきこそが生きる力と未来への見通しを与えるのだ。オンラインでは身体の共鳴が起こりにくいのだ。

 これからも私たちは3つの自由を行使していくだろう。だが、その内容はこれまでとは異なったものになる。これまで労働は人々が集まって、お金を稼ぐだけでなく、生きる目的を共にする行為だった。しかし、これからの労働は常に集まる必要はなく、個人単位でこなせる作業が多くなる。

 集まりは労働とは違う目的で、スポーツや音楽など、趣味を共にする仲間たちと寄り合うことが多くなるだろう。生きる目的も労働ではなく、お金を稼ぐ以外の活動に見出すようになる。

 現代は非正規雇用が4割を超える時代だ。新入社員も入社後の1年間で3割が離職や転職をする。これまでのように一生同じ会社に奉職しようとする気持ちが薄れ始めている。日本の経済はこの30年低成長を続け、社員の平均給与は上がっていない。戦後に猛烈社員によって経済の大成長を成し遂げた時代はもうやってこないのだ。であれば、社縁によって人生を設計するよりも、個人の能力に従って仕事を変えていくほうが生きる目的が得られる。

 そういう個性的な生き方を後押しするのが、シェアとコモンズ(共有資源)の拡大だろうと思う。めったに使わないものを貯め置くよりも、使いたいときに他人から借りればいい。労働現場に縛られずに動くことが可能になれば、なるべく所有物は少ないほうがいい。現代の配送システムを使えば、必要なものはいつでも手に届く。情報通信技術を使ってあらかじめ連絡を取っておけば、現場で必要なものは手に入る。しかも、持ち続ける必要はなく、また必要な人に譲ればいい。さらに重要なことは物をシェアすることによって、人々はつながれるということだ。インターネットはすでにそういうシェアの舞台になっている。

 政府や自治体は人々が気軽に集まれる場所をたくさんつくる必要がある。そして、学校、病院、交通、美術館、博物館などを公共財として無料化すれば、人々はたくさんの出会いを経験できるだろう。これからは共助の時代であり、それを後押しするのがシェアとコモンズの拡大なのである。

総合地球環境学研究所所長

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