『公研』2024年9月号「めいん・すとりいと」
コロナ以降、海外で数ヶ月ずつ過ごすようになりました。夫や両親など身近な家族が日本にいなくなったことから、最初はその身軽さを活かして世界3拠点生活を考えました。コロナで日本を出られなくなって、かなりのフラストレーションが溜まっていたこともあり、世界の拠点を3つ選び、それぞれ数ヶ月ずつ滞在することにしたのです。 3拠点の候補としては、ここ30年近く夏を過ごしているカナダのウィスラーと、タイムシェア(アパートやホテルを短期間使うことのできる権利)を持っていて家族のいるニューヨーク周辺はすぐ決まりましたが、3箇所目が思い付かず、ヨーロッパのあちこちにいる友人を訪ねて、チューリッヒ、ブリュッセル、アムステルダムや、南半球の可能性もあるかと考え、それまでに行ったことがあるニュージーランドとオーストラリアも試してみました。それぞれなかなか魅力がありましたが、生活コストが高い、プログラムやセミナーの企画運営などの仕事やプロジェクトの可能性が少ない、何となく相性が悪い、などの理由で「ここ」と決めることができませんでした。 そうしているうちに、どうしても三つ目を探さねばという気になっている自分に気がつき、少しリラックスして考え、世界各地を旅行している中で、気にいったところがあったら、そこにしばらく滞在すれば良いと考えを変えました。
今年の夏はカナダのウィスラーに3ヶ月滞在しています。ウィスラーは北米最大のスキー場のある山岳リゾートであり、海抜1000メートルくらいのところにある山小屋を借りています。酷暑で台風が続く日本と違って涼しく、空気が乾燥していて過ごしやすく、今年は山火事もこの地域では少ないので、とても快適な生活をしています。 野菜果物などは豊富で安いし、サーモンなど魚の種類も多く、料理がとても好きな私にとっては大変暮らしやすいところです。バイク、ジョギングなどアウトドアの活動もすぐできるし、近隣のスポーツセンターにはジム、プール、アイススケートリンクなどがあり、毎日のように運動のクラスが開かれているので、それを活用して体力維持を図っています。 以前は毎日のようにやっていたゴルフはちょっと熱が冷めたことと、膝や腰が痛いこと、いつも一緒にプレイしていた友人が体調を壊して歩くのも苦労するほどなので、最近はほとんどやっておらず、もっぱら朝の散歩とジムでの運動のクラスが中心です。毎年夏に来て運動クラスに参加しているので、知り合いがかなり増えて、毎日楽しく(時々はハードなクラスなので、フーフー言いながら)続けています。運動や英語などのスキル習得は毎日続けることが大事ですが、友人がいるクラスがあると継続しやすいと言えます。 運動を継続するのは良いのですが、団塊の世代であり後期高齢者になった私は年々体力が落ちていること、昨年まではできたことが次第にできなくなりつつあることに気が付いて愕然とすることもあります。こうしたことは以前全く想像もしなかったことなので、これが歳をとるということか、と今更ながら認識しています。 ただし、こうした体力の低下をただ嘆くのではなく、自分の体力でできることを探しながら、続けていくことが大切のようです。自分の能力をしっかり捉えて、できることをするという意味では。
また、こうした体力低下をカバーする一つの方法が、毎日新しいことを何か探して実行するというアプローチです。同じ活動ばかり続けていると、毎日の生活が「マンネリ」になってしまうので、実際に私も、最近は毎日新しいことを必ず何か一つはすることに決めています。新しいことと言っても毎日の散歩の時間やルートを変えるなど簡単なことで良いのです。特に歳を重ねるとそれまでにやったことが多くなってきて、あれもやったこれもやったと考えがちですが、そこで、あえて何か新しいことを探してチャレンジするのです。
プログラミングのようにやりたいと思っていたけど、ハードルが高くて手がつかなかったこと、水彩画を描くなど、子どもの時に試したけれど、素人に優しく教えてくれる人がいないと、どこから始めたら良いかわからないことなど。これらは大袈裟に考えず、何でも良いのですが、大事なのは、新しい側面を意識することでしょう。以前試したことでも「また」と思わず、新しい点をみつけ、それを自分と周囲に説明してみることによって、それまでは自分でも気が付かなかったけど、やってみたら、とても気に入ってしまう、といったことが起こります。それが新しい自分の発見となり、自分のネットワークに共有する仲間を加えて、自分のストーリーの新しいチャプターのきっかけになることなどを実感しています。
一橋大学名誉教授