2021年12月号「issues of the day」

 ターリバーンが2021年8月15日に首都カーブルを制圧し、実権を掌握したことが世間の耳目を集めた。変数が多く存在するため、今後の展望を述べることは難しい。そうした中、「ターリバーンとは何者か?」を考察することは今後を見通す第一歩となる。

 

ターリバーンの起源
 ターリバーンを理解するには、設立の背景となった1994年当時のアフガニスタン情勢を理解する必要がある。1992年、ナジーブッラー共産主義政権が崩壊し、カーブルでムジャーヒディーン各派による連立政権が成立したものの、権力闘争が始まり、国内はさながら戦国大名が群雄割拠するかのような混乱に陥った。平和の訪れを期待していた民衆にとり、こうした権力闘争は聖戦の意味を消し去った。

 国内は、軍閥と化した各派による暴行や略奪が横行する無秩序状態に陥った。創始者のウマル師らは、南部カンダハール地方で10代の娘を誘拐した軍閥司令官を討伐するため武装蜂起し、この人物を絞首刑にした。その後、ターリバーンは瞬く間にカンダハールを制圧し、燎原の野火のごとく支配領域を拡大させた。1996年9月27日にカーブルを陥落させ、1997年10月には「アフガニスタン・イスラーム首長国」の建国を宣言した。つまり、ターリバーンは「世直し運動」としての側面を有していた。国民の多くは、シャリーアに基づき治安と秩序を回復したターリバーンを支持したという。

 ターリバーンという呼称は、ターリブ(求道者が転じて神学生を指す言葉)を現地語で複数形にしたもので、他称として用いられたものだ。ウマル師は、対ソ連戦にムジャーヒディーンとして参戦し、激しい戦闘で幾度も負傷し、片目を失ったといわれる。構成員の多くは、パキスタンとの国境地帯にあるマドラサ(神学校)で教育を受けており、北インドで勃興した復古主義的な色彩を帯びているデーオバンド派(スンナ派ハナフィー学派に属する)を信仰する。

 

戦乱続きという歴史的脈絡
 もう一つターリバーンの台頭を理解する上で重要なのが、戦乱が続いたアフガニスタンの歴史的脈絡である。1973年にはザーヒル国王の従兄弟ダーウードが無血クーデターを引き起こした。その後の1978年には、共産主義革命が勃発し、アフガニスタンでは共産主義者による政敵や知識人の投獄や処刑が始まった。

 1979年に、共産主義政権は、王党派に近いといわれるムジャッディディー一族を逮捕し、その一族の男のほとんどを処刑した。80年代のソ連侵攻でも、官僚と聖職者と知識人の多くが粛清され、一部は海外に逃れた。こうした歴史・社会的背景の只中で、共産主義政権とそれを後押しするソ連に対する激しい抵抗運動が、反政府勢力各派の指導者や、民族・宗教ネットワークによってつながった人々によって始められたのである。

 つまり、アフガニスタンの分裂のプロセスはターリバーン台頭によってはじまったわけではなく、それに先立つ70年代の政治的混乱とその後のソ連軍侵攻を通じた社会的混乱を起点としていた。1996年にカーブルを制圧したターリバーンは、ナジーブッラー元大統領を捕え処刑したが、その遺体は市内のラウンドアバウトにある信号機から見せしめのため吊るされ、ナジーブッラーの口とポケットには、アフガン貨幣がねじ込まれていたという。「抑圧者」である共産主義者に、「金亡者」とのラベルを貼ったのだ。

 

巨大化する組織
 ターリバーンは20年間に及ぶ武装抵抗活動を経て、内部対立も抱える巨大な組織に成長した。ターリバーン初期の構成員だけではなく、二度にわたる全国制覇の過程で新たに参入した様々な政治勢力(非パシュトゥーン人含む)も参入している。

 国際テロ組織との関係も見逃せない。90年代後半、ウマル師は、アル=カーイダの思想的影響を強く受けたという。ターリバーンは兵力不足に直面したことから、当時のターリバーン指揮系統にはアラブやコーカサス出身者の戦闘員も多く含まれた。2001年以降は、イラクからの影響もあり、殉教者作戦(自爆)を多用するようになった。このため、ターリバーンを一方的に正義の勢力と考えることは早計だ。

 ターリバーン統治の実態も、民衆を失望させるものだった。女性の教育・就労が制限され、音楽や踊りなどの娯楽は禁じられた。バーミヤーンにあった歴史的な仏像遺跡が破壊され、国際的な批判が強まった。ウサーマ・ビン・ラーディンの身柄引き渡し要求に対しても、ターリバーンは拒絶した。こうして国際的な孤立を深めたことは、9・11事件につながる下地となった。現在も、ターリバーン兵による処刑や人権侵害が報告されている。

 ターリバーンの実像を捉えることは非常に難しい。彼ら自身が、組織の綱領や活動指針を完全には明らかにしていない事情もあるからだ。今後、ターリバーンをより理解するには、彼らの行動原理を宗教・文化・慣習などの諸側面から包括的に解明する必要がある。

中東調査会研究員 青木健太

 

 

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