『公研】2021年6月号

北見工業大学教授 本間圭一

 アメリカでソーシャル・ネットワーク・サービス(SNS)が、投稿内容を規制できる程度を巡り、世論を二分する議論に発展している。ITジャーナリズムが表現の自由にどう対応するのかが焦点となっており、建国の理念も問われている。

 「トランプ氏の凍結期間は2年」──。今月4日、アメリカの大手SNS、フェイスブックは声明を発表し、今年1月に起こった連邦議会議事堂への乱入事件をあおったとして、無期限としていたドナルド・トランプ前大統領のアカウントの凍結期間を2年とする方針を明らかにした。フェイスブックは、大統領選で敗れたトランプが首都ワシントンで暴徒化する支持者に、「皆さんは特別だ」「偉大な愛国者だ」と書き込んだ行為を「我々の規則の重大な違反に相当する」と非難し、アカウントの凍結措置を決めていた。これに対し、フェイスブックの監視委員会は先月、凍結期間の再考を求めていた。フェイスブックは、2年後について、「治安への危険性がなくなったのかを専門家に委ねる」としており、その時点で期間を延長するか判断する方針だ。凍結期間の決断を事実上先送りした決定で、苦渋の選択だった点がうかがえる。

 2年間の起点は、アカウントが閉鎖された1月7日からとしており、来年11月に予定される中間選挙ではトランプのアカウントは凍結されたままだ。現在も支持者への影響力を持つトランプは、今回の決定について、「フェイスブックが検閲したり人を黙らせたりすることは許されない」と反発した。

 一連のやり取りが注目を集めたのは、フェイスブックの措置に世論が割れ、政界では激しい論争が演じられていたためだ。調査会社ピュー・リサーチ・センターが今年4月に行った世論調査によると、無期限凍結への賛成は49%、反対は50%と拮抗していた。乱入事件後、民主党と共和党はそろって、SNS事業者の責任を追及した。米下院のエネルギー・商業委員会は3月に公聴会を開き、フェイスブック、グーグル、ツイッターのトップを証人として召喚した。5時間を超える審議で、ツイッターのジャック・ドーシー最高経営責任者(CEO)は、誤った情報の拡散に「我々にも責任がある」と述べ、投稿を容認したことが事件につながったと認めた。ただ、フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOは、「我々には毎日数十億の投稿があり、(誤った情報を)見抜けないことで責任を問われるのは現実的ではない」と証言し、実際の対応での限界を吐露した。

 この公聴会で改めて明白になったのは、民主、共和両党の「同床異夢」ぶりだった。フランク・パロン委員長(民主党)は3人の証人に対し、「あなた方は単なる傍観者ではない」と迫り、不適切な投稿の規制が不十分と批判した。一方で、ボブ・ラッタ議員(共和党)は「巨大IT企業は保守の声に対する検閲を強めている」と指摘し、トランプのアカウント閉鎖を非難した。SNS事業者への批判を強める両党は、SNS事業者を守る通信品位法230条の改正に向かう。だが、各党議員の発言に表れるように、その思惑は異なる。民主党は、SNS事業者がネット上の誤情報や人権侵害を放置しているとして、事業者の権限強化を訴える。これに対し共和党は、SNS事業者が投稿を削除し、表現の自由を侵害しているとして、事業者の権限を弱めるべきだと主張する。

 通信品位法230条は、1996年に制定された電気通信法に追加された条文だ。SNS事業者を情報の発出者と同列視せず、投稿内容の法的責任を問わないとするとともに、善意に基づく投稿の修正を認めると規定する。直接の契機は、「証券会社ストラットン・オークモント社は詐欺だ」とする書き込みの掲示を放置したとして、プロバイダー会社プロディジー・サービス社の責任を認める判決が、1995年に郡裁判所で出されたことだった。230条には、インターネット・メディアの「継続的発展」や「競争的自由市場」を推進する政策が明記されており、ストラットン・オークモント訴訟のような判決が再び出されないように、投稿内容についてSNS事業者に免責を与え、自由で活気に満ちたネット空間をつくる狙いがある。インターネット上で個人主義と自由市場を実現する「サイバー・リバタリアニズム」が広がる時代の空気を反映していたとも言える。

 しかし、ピュー・リサーチ・センターの調査で、ソーシャル・メディア・サイトを利用する成人の割合は年々増加し、今年2月時点で72%に上った。利用者の中には公人も含まれ、社会を動かす投稿内容も多くなった。SNS事業者の影響力は情報の発出者を上回るようになったが、投稿を削除する場合の基準やプロセスは不明確なままだ。このため、SNS事業者の投稿管理を巡り、230条改正が叫ばれるようになった。トランプは昨年5月、大統領令を出し、自らの投稿内容に疑義を呈したツイッター社に対し、230条が保証するSNS事業者の免責を制限しようとした。グーグルのサンダー・ピチャイCEOは「230条は開かれたウェブの根幹だ。230条がなければ、過剰な規制か無規制かのいずれかになる」と述べ、改正の危険性を警告する。しかし、ニューヨーク・タイムズ紙は、米政界で「インターネットの包括的な規制が必要との認識が広がっている」と伝えており、サイバー・リバタリアニズムは転換点を迎えていると言ってよい。

 通信品位法230条の改正は、ネット上の表現の自由が問題となるため、この改正議論は、表現の自由を認めた憲法修正第1条の解釈と無縁ではない。米アリゾナ大学のドゥレック・バンバウア教授(インターネット法)は通信品位法改正について「憲法修正第1条が保証する言論の自由を擁護していないことを理由に、裁判所が改正点を認めない可能性がある」と指摘しており、改正作業では修正第1条に抵触するか否かが焦点となる。実際、近年では、インターネット上での表現の自由を巡り、合憲性を争う場面が目立つ。トランプが、ツイッターの自身のアカウントへの書き込みを防御した措置では、連邦高裁は2019年、憲法修正第1条に反するとの判断を下した。

 焦点となる憲法修正第1条は「議会は、国教の樹立を促す法律を制定することや、宗教の自由行使を禁じることはできない。表現の自由、報道の自由を制限することや、人々の平和的集会の権利、苦情救済のため政府に請願する権利を制限することはできない」と規定する。合衆国憲法は当初、議会、政府、裁判所に関する規定のみで、国民の権利に関する条文がなかったため、後で追加されたのが修正条項だ。修正第1条は独立宣言の15年後の1791年に成立し、アメリカの民主性を象徴する条文として位置付けられてきた。その解釈と重要性が注目される契機となるのは、1918─19年の「エイブラムス対合衆国事件」だ。

 この事件では、ジェイコブ・エイブラムスらロシア人移民がニューヨークで、アメリカのロシア内戦への介入を批判し、これに抗議するゼネストを呼び掛けるチラシをまいたところ、スパイ活動法違反に問われ、下級審で禁固刑の判決を受けた。連邦最高裁判事の過半数はこの判決を支持したが、オリバー・ウェンデル・ホームズ陪席判事は、エイブラムスらの行動は国家の安全保障に直接の脅威とはならず、「修正第1条は、政府の方針や目標に異議を唱える権利を認めている」と主張し、批判を認めない政府権力の危険性を指摘した。この反対意見は、政治的訴えが憲法修正第1条によって守られるとの考えが広がる根拠となった。

 憲法修正第1条はこれまで、表現の自由を巡る様々な事件で合憲性を問う役割を担った。条文は表現の自由を侵害する者として、政府や議会を対象としており、SNS事業者という民間企業が対象になる今回の場合、表現の自由の問題は発生しないとの議論がある。
ただ、民間事業者であっても、公共フォーラムのような公的な空間では、表現の自由が問われるとの判例がある。さらに、連邦最高裁のクラレンス・トーマス判事は、トランプが自身のアカウントへの書き込みを防止した措置に際し、デジタル・プラットフォームについて、「我々の法理をどのように適応させるのかに取り組む必要が出てくるだろう」と述べており、公共性を増すインターネットの事業者に一定の責任を求める可能性も出ている。

 特に、昨年11月の大統領選と同時に行われた議会選を経て、民主党は上下両院で事実上の多数派を獲得しており、今後は表現の自由を規制する方向で議論が進む公算が高い。民主党は、SNS事業者が人権侵害や名誉棄損の表現を放置しているとの批判を強めているためだ。5月には民主党の下院議員2人が、通信品位法230条を改正し、不適切な投稿を削除しないSNS事業者を連邦取引委員会が指導することを提案するなど、党内から具体的な改正案も出ている。

 今後の議論では、投稿内容を規制する場合の合憲性が焦点となり、憲法修正第1条に関連する判例がその判断基準となるに違いない。判例の一例としては、1919─27年の「ホイットニー対カリフォルニア事件」がある。この事件では、共産主義労働党の創設メンバーだったシャーロット・アニータ・ホイットニーが、暴力的手段で体制の変革を試み、カリフォルニア刑事労働組合法に違反したとして逮捕され、下級審で有罪判決を受けた。ホイットニーは同法が憲法修正第1条に違反するとして上訴したが、連邦最高裁は下級審の判断を支持した。この中でルイス・ブランダイス判事は、下級審判決に同意する意見として、民主主義にとっての表現の自由の重要性を指摘しながら、「自由な言論を抑制するためには、言論により深刻な害悪が即座に起こると信じるに足る合理的根拠が必要だ」と述べ、表現の自由が制約される具体的な条件を提示した。

 この意見は、表現を規制する要件として、「明白かつ現在の危険」や「差し迫った非合法な行為の扇動」といった解釈につながっていく。SNSへの投稿を規制する場合も、誰がどのような基準やプロセスで、こうした危険や扇動を認定するのかという議論が出るだろう。
表現の自由を巡る争いのたびにその解釈を問われた憲法修正第1条は、アメリカの民主性を実質的に守る役割を果たしているのかという検証にさらされている。今回の議論で、仮にそうではなかったとの印象を持たれれば、世界にも影響する可能性がある。表現の自由を国是としてきた民主国家が、合憲性を維持しながら、言論を規制する方向にかじを切れば、他国への波及効果が大きいためだ。

 その先例がドイツにある。この国では2017年、「違法投稿」を即座に削除することを義務付ける「ネットワーク執行法」が成立した。2015年ごろから増加した移民や外国人に対する誤った情報やヘイトスピーチ(憎悪発言)を阻止するため、登録利用者が200万人以上のSNS事業者に対し、苦情を受け付ける専用の報告サイトの設置や、明白な刑法違法の投稿は24時間以内の削除、それ以外の違法情報は7日以内の削除やアクセス制限を規定した。この義務を怠ると、最大500万ユーロ(法人・団体は最大5千万ユーロ)の過料が科される。

 ドイツでは、ユダヤ人虐殺の歴史的反省から、憎悪発言を抑えようとする傾向が強いが、問題となったのは、SNS事業者が投稿内容を審査する公正性や正当性だった。事業者のスタッフが違法性の審査を行うことの難しさや、削除しないリスクを回避するため、過度に投稿内容を制限する「オーバーブロッキング」の懸念が出ている。

 この法律は国際的な波紋を呼んだ。デンマークの研究機関・ユスティティアは「ドイツのネットワーク執行法の施行以来、EU(欧州連合)や13カ国が同様のモデルを採用したり提案したりした」と発表した。13カ国の中に含まれるのは、インターネット上で「明白に憎悪を煽る内容」の削除を求める法律を施行したフランスや、与党の要請を受け、野党政治家らのツイッターのアカウントが一時停止されたインドだけではない。「自由主義国家ではない5カ国」も含まれており、先進国での投稿規制が、非民主的国家で民主派弾圧の口実に使われる可能性があることを示している。

 世界では今、インターネット上での言論への規制が進む。人権団体アムネスティ・インターナショナルは「デジタル・コミュニケーションを妨害しようとする国が増えている」と警告している。アメリカの憲法修正第1条が規制強化を容認する方向で解釈された場合、他国への影響は少なくない。

 日本も無関係ではない。2002年にプロバイダ責任制限法が施行され、SNS事業者は、人権やプライバシーを侵害する投稿を放置しても責任を負わず、投稿を削除しても人権侵害といった相当の理由があれば免責される。しかし、女子プロレスラーの木村花さんが自殺し、SNS上での中傷がその理由とされる問題を受け、SNS事業者の責任を強化し、同法を改正すべきとの声が出ている。在日コリアンらに対する非難や中傷がネット上で相次いでいる現状も、こうした動きを後押ししている。

 ただ、事業者の監視機能を強化すれば、憲法21条に規定された表現の自由の保障や検閲の禁止に反するとの議論が出ている。憲法21条が、アメリカの憲法修正第1条の影響を受けて成立したことを考えると、憲法修正第1条を巡る議論の行方は、日本のインターネット規制にも無関係とは言えないだろう。(敬称略)

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