『公研』2022年10月号「めいん・すとりいと」

 

 9月初旬、コロナ禍での初の「対面」国際会議を主催した。会議はそもそも対面で、すなわち相手が物理的にそばにいる状況で行われてきた。しかし、新型コロナウイルスの性質上、他人どうしが距離を取る必要が生じ、会議はだんだんと電子化されていった。もちろん、電子化されたほうが良い会議も多い。定型的な議案に定型的に応答することが求められるような会議はどんどん電子化してしまえば良い。

 私たちの会議は、創造性を求める会議であった。言語の起源と進化について、人類学・生物学・心理学・民俗学・コンピュータ科学その他、とにかく誰でも良いので興味ある人々が集まり、議論する会議なのだ。言語というコミュニケーションの道具そのものの起源と進化についての仮説を生み出すための会議なのだ。私たちはこの2年半、コロナ禍のもとやむを得ず画面越しに議論してきた。それがダメだということではなく、それでもやらないほうがましだ。だから私たちは、隔靴搔痒ではあるが画面越しの議論に耐えてきた。

 私たちはしかし、もう耐えられなくなった。面と向かって話し合いたい。何かうまいものを食べながら議論したい。私は、酒は飲めぬが、酒を飲みながら議論するほうが良いアイデアが出る人々もいるだろう。場合によってはカラオケもありだ。そこで私たちは、2020年の後半から、対面で国際会議を行うための会議を、画面越しに進めてきた。多くの人々の協力を得て、金沢市文化ホールで言語の起源と進化のための国際会議がついに開催されることになった。

 憎きオミクロン株や、全く予想もしなかった東欧での野蛮な戦いにより、私たちの計画は何度も頓挫しそうになった。それでも私たちは見切り発車した。やるぞ! と。そして驚くべきことに、世界各国から140名が、日本国内からも同じくらいの人々が集まってくれた。残念ながら会場には来れず、オンライン参加になった方も170名ほどいたが、全体で450名、現地参加280名は画期的である。私は非常に嬉しかった。そして、参加してくれた方々は久しぶりの対面国際会議を心から楽しんでくれたと思う。会場スタッフの努力もあり、幸い、会議に関連したコロナ感染者はゼロであった。

 この会議をきっかけとして、たくさんの共同研究が生まれるであろう。現に、私のもとに留学を希望する学生も現れた。私は私で、自分の講演にいろいろな意見をもらい、新しい研究を始めようとしている。ヒトは画面越しには進化しなかった。ヒトは対面でこそ創造性を発揮できるのだ。画面越しに情報は伝わるが、対面でなければ感情は伝わらない。対面でなければ場を共有できない。創造性には、感情と場が不可欠なのだ。

 今年のノーベル生理学医学賞は、現生人類のゲノムにネアンデルタール人の遺伝子が数パーセント受け継がれていることを発見したスバンテ・ペーボ氏が受賞した。ヒトは昔から、対面場面で交流していたのである。画面越しの交流になったのはごく最近のことであり、私たちはまだその環境から創造性を引き出すまでに至っていないようである。私たちはまだその程度の動物であり、その程度であることを私は嬉しく思っている。

生物心理学者

 

おすすめの記事