『公研』2017年3月号「めいん・すとりいと」

三浦 瑠麗

 グローバリゼーションの流れが変調をきたしています。昨年は、英国がEUからの離脱を決め、米国では史上もっともアウトサイダーと言われるトランプ政権が誕生しました。今年の欧州主要国の選挙でも、極右政党や民族主義政党の躍進が予想されています。個々の事象を超えて、当たり前に思えていた世界の仕組みの変化に目を向けることが重要な過渡期の時代を迎えつつあるのではないでしょうか。
 今後、世界が進んでいく方向性として、三つほどパターンを想定してみます。一つは、グローバル経済に背を向け、国民経済の中の平等を追い求める姿勢。米国の先の大統領候補でいうとサンダースさんに代表される立場です。現在の世界の既得権者である先進国の中間層の利益を代表しており、欧州や日本の左派政党に根強い支持を持っています。この路線の問題点は、国際経済がブロック化し、その中で「持たざる国」が作り出される可能性が高いことです。有力な新興国が、発展の可能性を阻害されて、持たざる国としての自覚を持つとすれば、国際秩序そのものが危機に陥るリスクがあります。
 二つ目の方向性は、世界政府的なものです。ヒラリーさんやEUが欧州という地域限定で部分的に達成しつつあった世界観です。この路線への支持が大きく揺らいでいるのは、エリート達が進める統合が、中間層の信頼を失っていることと、グローバリゼーションの中でも特にヒトの移動から生じる摩擦が社会的な許容範囲を超えつつあるからです。そもそも、グローバル官僚主導の意思決定には民主的な正統性がないという本質的な問題もあります。
 三つ目の方向性が、国民国家とグローバル経済を組み合わせる路線です。ただし、これまでとはかなり異なった組み合わせになると予想されます。
 英米における政治的なショックはグローバリゼーションの挫折であると認識されがちですが、私は異なる理解をしています。それはむしろ、ブロック経済的な路線と、世界政府的な路線の否定であると。
 英国のメイ首相は、EU離脱の具体的な方法を提示する演説で、(EUの中にあるよりも)よりグローバルな英国をめざすと宣言しています。また、EUを離れた上での英国の国際競争力を意識し、国内福祉の充実を最優先する左派を牽制しています。
 トランプ大統領のTPP否定路線にしても、前政権の政策を否定する政治的側面と、国内雇用に配慮する選挙対策的要素の組み合わせであり、繰り返し、自身は自由貿易主義者であると強調しています。むしろ、各国市場をこじ開け、国際競争力を高めるための法人税減税競争に参画しようという機運が高まっているのですから。
 先進諸国の中で言えば、景気の動向も、グローバル化の根本への支持も、底堅いのは英米なのではないか。それに対して、大陸欧州諸国の内向き化や資本主主義への不信感には深刻なものがあります。
 今後数年は、世界が国民国家とグローバル経済の新たな関係性を模索する時代になるのではないでしょうか。国民国家がヒトの移動に関する権限を再強化し、同時にグローバルに行動する法人への関与を弱める。課税の体系は最後までリアルな現実として持続する国籍概念を軸に個人主体で行われ、企業主導の福祉政策が掘り崩されていく。
 我々は、見取り図のない世界へと足を踏み出しつつあるのではないかと感じる日々です。国際政治学者

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