高市自民党政権は、維新の会との合意に基づき、インテリジェンス(情報活動)分野の改革に積極的であると見られている。具体的には、国家情報局の創設、スパイ防止法の制定、対外インテリジェンスの強化、といった三本柱からなっており、本稿では国家情報局について概観していく。

 政権が最初に着手するとみられる国家情報局と国家情報会議は、それぞれ既存の内閣官房内閣情報調査室(内調)と内閣情報会議の格上げによって実現されるので、比較的ハードルが低いと言える。両者を格上げしなければならない理由は、まずは内調の情報集約能力を高めるためである。

まるで零細企業のような内調

 内調は1952年に当時の吉田茂・自民党政権が、米国の中央情報庁(CIA)のような情報機関をめざして創設したものであるが、様々な要因によって情報収集のための権限が与えられず、人員や予算もごく限られたまま設置された。内調は吉田総理が発案し、緒方竹虎・官房長官と、警察官僚の村井順・初代室長の手で具体化されていったが、村井はロンドンでの闇ドル事件の誤報によって失脚し、緒方は69歳で急逝、吉田も所謂「バカヤロー解散」で政治的求心力を失ってしまったため、内調の組織や権限は中途半端なまま留め置かれ、そのまま現在に至っているのである。内調には百人程度の人員と数億円の予算しかあてがわれず、海外での活動は外務省が反対したため、CIAのように海外で情報収集や秘密工作活動を行うことは不可能であった。その結果、内調の任務は、国内で新聞や雑誌の切り抜き、つまり公開情報を集めて分析を行うというものになった。

 もちろんその間にも内調の情報集約能力を強化するため、1980年代には内閣情報会議と合同情報会議が設置され、内調が置かれる内閣官房自体の権限も強化されてきたが、90年代に内調室長を務めた大森の言葉を借りれば、内調は錚々たる各省庁の間に埋没する零細企業、という有様で、各省庁に指示を出して情報を集約するという体制には程遠い状況であった。その後、第二次安倍政権において、安倍晋三総理は内調を重視し、内閣情報官による総理ブリーフィングも週に一度から二度に拡充したが、これは例外的に総理がインテリジェンスを重視したこと、そして総理と北村滋・内閣情報官の個人的紐帯が確立されていたためである。つまり同政権は、運用上の工夫によって内調という組織を活用したのであって、根本のところは1950年代からあまり変わっていないとも指摘できる。

 現状では、各省庁の情報部門(インテリジェンス・コミュニティ)が情報収集・分析を行い、内調がそれを束ねて官邸に報告することになっている。内調の最も重要な任務は、各省庁の情報を束ね、官邸に情報を報告することであるが、そのためにはインテリジェンス・コミュニティの協力が不可欠となる。ただし各省庁は重要な情報があれば、内調ではなく、直接官邸に情報を届けることが多いので、必ずしもすべての情報が内調を通じているわけではない。その結果、官邸は雑多な情報で溢れかえり、内調には分析業務に必要な情報が届かないこともある。

情報局格上げの狙いは
他省庁との連携強化

 この構造の根本的な原因は、内調の各省庁に対する権限を明確に規定していない点である。対照的なのは2013年に内調と同じ内閣官房に設置された国家安全保障局(NSS)であり、こちらは国家安全保障会議設置法によって、「内閣官房長官及び関係行政機関の長は、議長の求めに応じて、会議に対し、国家安全保障に関する資料又は情報の提供及び説明その他必要な協力を行わなければならない。」と規定されている。そのため現状では、NSSのほうがインテリジェンス・コミュニティに対する情報要求が強く働くとも評価できる。そうなると内調にもNSSのように各省庁の情報に対するアクセス権限を与えるため、コミュニティから内調への情報提供を法的に義務付ける、といった点が重要になってくるのである。

 さらに言えば、歴代の内閣情報官が内調の幹部が警察官僚で占められていることも、各省庁の内調に対する姿勢に影響を与えている。他の省庁から見た場合、内調は警察の出島と映るため、内調に情報を提供するということは、警察に情報を提供することと理解されている。インテリジェンス・コミュニティの中で、警察は最も他省庁との情報共有に消極的であるため、他省庁も積極的に情報を共有するインセンティブが沸かないのである。

 つまり今回の内閣情報調査室を内閣情報局に格上げする狙いは、根拠法を制定することで、内閣情報局に情報要求権を与え、さらには海外との情報機関との連携を強める、といったところである。例えば米国の情報機関は、内調以外にも外務、防衛等、情報の提供先を意図的に分散させており、日本側ではこれらの情報を統合できていないのである。今後、内閣情報局がインテリジェンスの分野で各省庁を代表する存在となれば、まず同局が外国政府機関からの情報提供を受け、それを必要に応じて各省庁と共有する、というのが理想的ではないだろうか。ただその場合、新設される内閣情報局長についても、特定の省庁に偏らないような工夫も検討されなくてはならないし、できれば担当大臣も設置して、国民への説明責任を果たす設計が望ましい。

 なお、一部マスコミは内閣情報局の創設によって、市民監視が強まると報じているが、今回の格上げで情報収集については検討されないことが想定されるため、そのような事態は想定し難いのではないだろうか。むしろ現状では、与党の他にも国民民主党や参政党もインテリジェンス改革に積極的であり、前者は昨年11月に独自の法案を発表していることから、野党勢力もそれなりに理解を示していることも付言しておきたい。

 他方、インテリジェンス・コミュニティのすべての情報が共有されることになっている、内閣情報会議のほうもその存在意義が問われている。現状、こちらは官房長長官が議長となり、各省庁の次官級の事務方が出席して、半年に一度開催されている。その目的は各省庁の情報の共有と、報告書の作成であるが、同会議でも活発に議論が行われているわけではないという。そこで今回、同会議を総理が議長を務める国家情報会議に格上げし、審議・決定権を与えることで開催頻度を増やし、インテリジェンスに関わる戦略を審議・決定することが狙いとなる。現状、日本のインテリジェンス戦略については、国家安全保障会議で審議・決定されているが、これは副次的に審議されていると言っても良い。そのため国家のインテリジェンス戦略を専門的に審議・決定する場が必要になっている。

省庁を跨いだ情報収集の
実現に向けて

 また総理が出席することで、すべての情報を包み隠さず共有すること、そして各省庁も他省庁の情報を共有してもらうことで、国家的なインテリジェンスが機能し出すことが期待されている。基本的に各省庁は自分たちの所掌事務のために情報収集を行っており、国のためという意識は希薄である。例えば外務省であれば、外務省の政策のため、防衛省・自衛隊であれば、防衛省の政策のための情報収集に専念し、その中で使えそうな情報があれば官邸に報告している。しかし格上げされた国家情報局や国家情報会議に情報提供するとなれば、最初からそこを意識しなくてはならないので、インテリジェンス活動にも国家観が重要になってくる。さらに言えば、官邸、内閣官房、他省庁すべてに見られる可能性があるのであれば、下手な情報は出せないので、情報収集や分析も高いレベルのものが要求されるようになるのではないだろうか。

 以上、今回構想されている国家情報会議と内閣情報局は、第二次安倍政権で導入された国家安全保障会議と国家安全保障局と対をなすものである。情報と政策の分離原則に立ち返って、前者が情報、後者が政策に関わる戦略を立案、審議、決定するという整理で理解すれば良いだろう。

日本大学教授

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