難民審査参与員はどう認定判断すべきか

 三好 難民を助ける会の名誉会長だった柳瀬房子さんは2021年、衆院法務委員会で、ご自身の難民審査参与員としての経験に基づき、「難民申請者の中に難民該当者はほとんどいない」と発言しました。2023年、入管法改正が焦点となる中で、難民支援者などからこの2年前の発言が問題視され、名誉会長を退任しました。虚偽の発言をしたわけでもないのに、スポンサーが離れるからという理由で退任させたとのことです。一方で、「難民該当者はいる。難民認定をしないのは制度的な欠陥があるからだ」という意見の参与員もいます。入管庁はそのような主張をする参与員に、難民審査の仕事を回さないようにしている、とこれらの参与員が批判して、記者会見を開いたことがありました。入管庁で特定の参与員を外すことが実際あるのでしょうか。

 福山 柳瀬さんのご指摘はそのとおりです。同じご認識は他の多くの参与員からも異口同音に伺っておりました。ですから、柳瀬さんが他の参与員と比較して厳格であったとの事実はありません。しかし、長年素晴らしい業績を積まれてきたにもかかわらず、2023年の改正法案審議に際して盗聴を含む反倫理的な個人攻撃に曝されて役職継続を断念せざるを得なくなったことについて、その原因を創った者として申し訳なく思っております。

 さて、難民審査参与員の事案の配分の件ですが、法令を無視した極端な判断を回避するためにはやむを得ない場合もあると考えます。次のような理由からです。

 以前元難民審査参与員の方から、難民審査参与員には難民認定審査手続の専門家が一人もいないとの批判がありましたが、筋違いです。私は、多様な専門知が合わさることによって好ましく適正な結果に到達することができると考えていたためです。そのような考え方の下に多くの方々に難民審査参与員をお願いしてきました。快くお引き受けいただいた皆様には心より御礼申し上げます。その中には入管当局に批判的な方もおいでであることもわかっていました。しかし、「日本の難民認定率を引き上げる・下げるべきである」「この申請人は気の毒である・ない」といった、具体的事案とは無関係の個人的信条や感情を判断に差し挟むことは参与員としての逸脱行為です。難民審査参与員は、申請人本人の発言内容、提出資料を基本として自らの知見を活かしながら申請内容を評価してその申請人の認定不認定を判断することが求められています。また、難民認定要件は、1981年に日本が難民条約・議定書に加盟する際に出入国管理令を出入国管理および難民認定法に改正し、同条約・議定書の要件を同法の中に採り入れたものです。難民認定手続も「法律による行政」ですので、それに従っていただけない方に判断を委ねるわけにはいきません。

 

現地のクルド人に迫害の事実を取材

 三好 クルド人でこれまでに難民認定されたケースは、2022年の札幌高裁判決を受けて入管庁が行った1件だけですが、クルド人や支援者は、「クルド人はトルコに帰国すれば迫害される」と主張しています。それが多くのクルド人が日本に残留する根拠となっているわけです。

 これは実際に彼らの故郷に行って、本当に迫害されている現実があるのか取材するしかないな、と思って、昨年5月、川口市、蕨市在留のほとんどのクルド人の出身地であるトルコ・ガズィアンテップ県に行きました。

 具体的には『移民リスク』に書きましたが、出身地の村を歩くと、「こんにちは」と日本語で話しかけてくる男性に何人も会ったし、片言の日本語で、「何年か日本にいた」、「入管施設にも収容されていた」といった話もします。

 川口市にある日本クルド文化協会のワッカス・チカン代表理事の村も訪ねました。伯父のファティさんは、日本に6年くらい在留したが難民申請が認められずに帰ってきたとのことでしたが、今はかなり手広く農業をやっていて、家もなかなか立派でした。定住者の資格を持って川口市で解体業を営んでいる父親のハッサンさんも、ちょうど里帰りをしてファティさんの家にいました。これまでに何回か一時帰国したとのことでした。

 多くのクルド人が日本とトルコを行き来していることがわかりました。ですから、ほとんどのクルド人に関して、トルコに帰ると迫害を受けたり、殺されたりするという主張に根拠はないと見ています。

 私がアンカラでインタビューしたトルコ人の政治学者も、「1980~90年代はクルド人武装組織『クルド労働者党』(PKK)との激しい戦いがあり、クルド人に対する弾圧もあったが、その後紛争は大きく減った。クルド人の権利は拡大していて、クルド語の使用も広く認められている。今でも投獄されているクルド人は、ほとんどが暴力行為を行った人やPKK戦闘員」との見方でした。「今のトルコは、普通のクルド人が難民の地位を得るような問題がある状況ではない。日本から帰国したり、送還されたクルド人が迫害されたケースを聞いたことがない」とも話していました。

 日本クルド文化協会事務局長のワッカス・チョーラクさんも、「日本在留のクルド人で反体制運動を行いトルコで起訴されている人もいるが、政治には関係なく、単に仕事をしたい人もたくさんいる」と言っています。

 ただ、過去には日本の弁護士が、帰国したクルド人が殺害された事例があった、と主張しているのを読んだこともあります。福山さんご自身、難民に該当するような政治的な理由を持ったクルド人を審査したことはありましたか。

 

トルコ国籍者が日本を選ぶ理由

 福山 帰国後、反政府を理由に殺害されたとの話は初めて聞きました。

 過去PKKが過激な反政府勢力としてトルコ政府から認定されていたとの話は聞いておりましたが、実際に日本に来た人たちとは無縁のことと感じておりました。いずれも不認定理由が、難民認定申請人の迫害の恐れの証明がない、説明に信憑性がない、当初から稼働目的の申請であることを自認し、迫害事実の申立てすらないというものだったからです。

 三好 現地では、「貧しく、仕事がないから行く」と多くの村人が話していたし、インタビューした地元市長も、「日本政府は就労許可を与え働けるようにしてほしい」と語っていました。日本に行くのはほとんどの場合、いわば出稼ぎなのではないか。

 もう一つ、日本を選ぶ大きな理由は、トルコ国籍者であれば日本に入国するのにビザが必要ないことです。ヨーロッパ諸国に行くには必要なので、行くまでに数ヶ月かかるが、トルコと日本の間では、査証免除協定を結んでいるので、航空券さえあればすぐに来られるのです。話を聞いた多くのクルド人が、査証免除しているから日本を選んだと認めていました。

 今では川口、蕨市にクルド人コミュニティーができています。クルド人が経営する解体業の会社も多いから、新しく来る人も仕事があるので来やすい。入国してすぐに難民申請すれば、ほとんどの場合は、難民審査期間中は与えられる就労可能な特定活動という在留資格が得られます。

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