『公研』2024年1月号「めいん・すとりいと」
IMFが年に4回改訂する「世界経済見通し」は、ネット上で便利なデータベースを提供してくれている。昨年10月発表の最新データを使って、世界各国の名目GDPをあれこれと試算してみた。
面白いことに、2022年時点で全世界のGDPはちょうど100兆ドルである。世界の総人口を80億人として割り算すると、一人当たりでは1万2500ドルとなる。世界はずいぶん豊かになったものだなと、しばし感慨にふけってしまった。
過去に遡ってみると、全世界GDPが50兆ドルを超えたのは、たかだか2006年のことである。さらに25兆ドルを超えたのが1992年であるから、ほぼ15年おきに世界経済は倍増していることになる。この間、約4兆ドルでほとんど変わらなかった日本経済は、90年代半ばには円高もあって世界の約17%を占めていたが、現在はただの4%である。これではプレゼンスの低下も致し方あるまい。
そんな中で、アッパレなのはアメリカ経済である。22年時点で25・5兆ドル、すなわち全世界4分の1のシェアをキープしている。以前は「アメリカは人口もGDPも日本の3倍」と覚えていたものだが、今では向こうがこちらの6倍になってしまった。
世界第2位の経済大国は中国で、こちらは17・9兆ドルである。日中経済の規模が逆転したのは09年のことであったが、現在は先方が4倍以上になっている。
ここまで来ると、「世界第3位の経済大国」というわが国の名乗りはさすがに気恥ずかしく感じられる。しかもこの第3位は、24年のIMF予測値では4・4兆ドル対4・2兆ドルでドイツに抜かれる見込みである。折りからのユーロ高と円安が響いている。
もっとも日独はいずれも低成長であり、遠からず3・4兆ドル(22年)のインド経済に抜かれそうだ。「世界のG3は米中印」、という日がいずれ訪れることだろう。
さらに興味深いのは、中国とインドにブラジルの1・9兆ドル、ロシアの2・2兆ドルを加えると、25・4兆ドルとなってアメリカとほぼ肩を並べる。中国が「BRICS」の枠組みを拡大し、アメリカに対抗しようとしているのは理に適っていると言えよう。逆に西側諸国が、インドとの関係を強化して、中印の離間を図っているのもこれまた戦略として的を得ていることになる。
さらに机上の計算を続けてみる。ユーロ圏(14・1)+日本(4・2)+加(2・1)+豪(1・7)+韓(1・7)=23・8兆ドルとなり、これまた世界の約4分の1となる。つまり「その他の先進民主主義国」を全部足すと4分の1になり、アメリカと足してざっくり世界の半分を占める。かつてはG7が世界の半分を占めた時期もあったものだが、現在はアメリカを除くG6(日英仏独伊加)がかろうじて中国とほぼイコール、というのが相場観である。
アメリカが4分の1、その他西側が4分の1、BRIC4カ国が4分の1、すると残りの新興国・途上国がトータルで4分の1となり、これらが「グローバルサウス」に該当する。
昨年の国際政治においては、「グローバルサウスを西側と中ロのいずれが取り込むか」がテーマとなったが、これは「天下4分の計」であると考えるとわかりやすい。
こうしてみると、世界経済の景色はかなり変わったことになる。日本経済が「現状維持」を続けている間に、「その他大勢」がぐんぐん伸び続けた結果と言えようか。
最近、同世代人たちが集まると、「日本はいつからこんな貧乏な国になったのか?」という嘆き節が止まらなくなる。ひとつの問題は円安にあるのだが、これは金融政策の都合もあるので一概には論じ難い。ここでは単純に、「現状維持は脱落也」という古い格言をもってこの小文を締めくくりたい。
双日総合研究所チーフエコノミスト