スポーツジャンキーの私

 ワールドカップと五輪といえば時差がつきもの。眠い目をこすりながら試合を見て、睡眠不足のまま仕事をする。ただ、ヨーロッパとアメリカとではきつさが違う。ヨーロッパ開催ならば深夜何とか頑張って起きて観る。これはいい。ところがアメリカ開催だと相当早起きしなければならないことが多い。いや、早起きだけならまだしも、仕事している時間に試合が行われることもある。その時はあきらめるか、あるいはあらゆるニュースを遮断してビデオを見るかだ。ただ情報化が進んだ現代社会では、結果を知らずにあとでビデオを見るのはほぼ不可能になりつつある。以前、私はそうやって試合を見ようと思い、スマホもずっと見ないで帰宅しようとしていたら、なんと山手線内のニュースで結果を知ってしまったことがある。

 ところで、私はスポーツジャンキーである。日常的には川崎フロンターレのシーズンチケットホルダーとして、シーズン中はほぼ毎週サッカー観戦をしている。つまり現地観戦派だ。

 若い頃は夏の甲子園を見るためだけに関西旅行をしていて、1996年決勝戦での松山商業の「奇跡のバックホーム」や、1998年決勝戦での松坂大輔のノーヒットノーランを目の当たりにした。プロ野球も徹夜で行列してでも日本シリーズのチケットを手に入れる主義。1992年の西武ライオンズ石井丈裕対ヤクルトスワローズ岡林洋一の投げ合いはネット裏での観戦だった。

 他にも1998年長野五輪のジャンプラージヒルでの船木の金メダルも観ていた。最近だと2019年ラグビーワールドカップの日本代表対アイルランド戦や対スコットランド戦の勝利も現地に行ったし、2023年のラグビーワールドカップの時はフランスまで飛んだ。サッカーでは、2025年10月に親善試合ながらブラジルを倒したときにもスタジアムにいた。

 ところが、サッカーのワールドカップとなるとそれほどでもない。地元開催の2002年大会の時に、新潟でのカメルーン対アイルランドと横浜でのクロアチア対エクアドルを観に行っただけで、日本代表の試合に行ったことはない。

 そんな私にとって、今回の北中米大会は格好の機会だった。試合の多くはアメリカ。住んだこともあるし仕事でも頻繁に行くので現地の様子はよくわかっている。ホテル代の高騰は気になるが、レンタカーさえあれば少し離れた街に泊まってもよい。仕事も6月下旬以降だったらなんとか調整がつきそうだった。

 そうなると悩むのはどの試合に行くか。確実に日本代表の試合を観るならばグループステージ(GS)だ。しかし、あまりGSに行きたいとは思わなかった。なぜなら、自分の見るところ、日本代表が今回の大会で達成すべきことは、これまで突破したことのないラウンド16に勝利して準々決勝に進出することだったからだ。だとすればGS勝ち抜けは通過点でしかない。何より、私が行くのは、単に試合を観るためではなく日本代表の選手たちを応援するためだ。ならばトーナメントとなるノックアウトステージにこそ行くべきだと思った。

 そして選んだのはラウンド16。GSで敗退する可能性ももちろんあるし、ラウンド32でブラジルと当たる可能性があるのはわかっていたが、迷ったら信じるのがサポーター。

 GS3位抜けの可能性は考慮しないとして、GS1位抜けかつラウンド32を突破したときの7月4日ヒューストン、GS2位抜けかつラウンド32を突破したときの7月5日ニュージャージーを想定して旅程を組んだ。チケットも、日本が勝ち残ったときだけ有効なコンディショナルチケットを購入した。しかし周知の通り、残念ながら日本代表はラウンド32でブラジルに敗退。延長戦突入間近の失点での悔しい敗北であった。

悔しさを感じるために現地へ

 こうなると行くか行かないかが大きな問題となる。目的だった「日本代表の応援」は果たせず、それどころかチケットも手元にない。そうなると全旅程キャンセルももちろん選択肢になる。悩んだが、最終的に行くことを決めた。最大の理由は「現地で悔しさを感じたい」ということだ。試合に負けて一番悔しいのはもちろん選手たち。その一端にでも触れることが、前回大会から4年間、北中米大会に期待を持ちながら応援してきたサポーターとして「筋を通す」ことではないか、そう思った。そしてそれを最大のモチベーションとして行くことにした。仮にチケットが手に入らなかったとしても、それ自体が悔しさとして心に残るし、あるいはメジャーリーグだけ見て帰ってきてもいい。そういう思いで渡米した。

 結果としては、やはり行ってよかった。チケットも手に入った。最終的に3─0でモロッコが勝ったヒューストンでの試合では、戦術寄りのサッカーファンとして、カナダのソリッドな4─4─2ゾーンディフェンスから学ぶところが大きかった。

 そして何よりも2─1でノルウェーが番狂わせを起こしたブラジル対ノルウェー戦。ノルウェーはリスクを管理しながらしっかりとボールを保持。それに対してブラジルはプレスをかけてボールを奪取しようとするのではなく、むしろノルウェーにボールを持たせてカウンターを狙う。

 ブラジルはPK獲得を含め決定機もいくつかつかんだが得点できない中、後半34分にノルウェーのハーランドが先制ゴール。それからノルウェーは、カウンターのチャンスがあっても無理に得点を狙わず、ボールを保持して時間を進めていき、45分には再びハーランドが2点目。ブラジルはネイマールがPKを決めたが、終始ゲームの流れを支配したノルウェーが2─1で勝った。

 このノルウェーの戦い方はラウンド32での日本の戦い方とは対照的だった。日本はボール保持をあきらめた戦い方だった。しかし、ボールを保持していれば得点されることはない。

 サッカーでボール保持を重視するチームは、攻めきれない時に焦って無理な攻撃を仕掛けてボールを奪われ、カウンターで失点するパターンがよくある。この日のノルウェーは、決して焦らずに二つの選択肢があるときは安全なほうを選び、ボールを保持し続けた。これもまた、サッカーファンとして勉強になった戦い方だった。

ブラジル-ノルウェー戦が行われたニューヨーク・ニュージャージー・スタジアムで自撮りする筆者(高橋杉雄氏)

 

敗戦を語り合うことの意義

 2試合とも素晴らしいゲームだったが、スタンドで見ていてやはり感じたのは悔しさだった。ただサッカーを見るだけでなく、やはり日本代表の選手たちを応援したかった。特に勝利に沸くノルウェーのサポーターたちの姿を見ていて抱いた感情は、日本がこれをやりたかったという、うらやましさだった。

 振り返ると、日本対ブラジル戦は、ボールをほぼ一方的に保持された厳しい試合ではあったが、後半のブラジルはディフェンダーも攻撃に参加するリスクを取っての戦いだった。同点に追いつかれた失点の直前、5人対3人のカウンターでブラジルゴールに迫ったときに得点できた可能性はそれほど低いものではなかったし、そこで点を取れて2─0になっていればそのあとの展開は大きく変わっていただろう。そう考えると、ブラジルに勝つ世界線もそれほど荒唐無稽なものでもなかった。それを思うとまた悔しさがこみあげてくる。

 巷では、この試合での森保一監督の采配についての議論が盛り上がっている。特にノルウェーの戦いを見た後だと、ボール保持をあきらめて守勢で戦うより、ブラジル相手にボールを保持し、リスクを管理しながら相手の攻撃時間を奪っていく戦い方もあり得たのではないかと私も感じている。

 無責任な観客の立場から勝因や敗因を語り合うのはスポーツの楽しみ方の一つだ。「あの時こうしていれば」というIFを語るのもまた楽しみ方だ。これができるのは出場国のファンの特権でもある。ワールドカップが国民的なイベントでもある以上、特に負けた試合での監督や選手の判断や選択の一つひとつが論評される。これを避けてはいけない。こういう議論を繰り返して、日本は強くなっていくのだろう。

現地観戦の魅力に取りつかれた

 今回の旅が自分に残したものは、やはり現地観戦の楽しさだった。ヒューストンにはなぜかメキシコのユニフォームを着たサポーターが多数来場していた。カナダのサポーターの中にはなぜかメジャーリーグのトロント・プルージェイズのユニフォームを着た人々が多く見られた。ニュージャージーの試合に向かうシャトルバスの乗客はほぼ9割がブラジルのカナリア色のユニフォームを着ていた。そんな見ず知らずのサッカーファンたちとサッカー談義するのも楽しいものだ。そして何より、やはりスポーツはスタジアムで観たい。笑って、叫んで、隣のファンと軽い会話をして。試合後には勝ったチームのサポーターの肩をたたいてねぎらう。こういうテレビ観戦では味わえない空間が自分は大好きだ。

 まあ、一言でいえば、ワールドカップ現地観戦の魅力に取りつかれてしまったということ。4年後のスペイン・ポルトガル・モロッコ大会にもぜひ行きたい。スポーツの中毒に、また深く取り込まれてしまったかな。次に行くのはどの試合かって? もちろんラウンド16だ。ラウンド16突破をスタンドから後押しするために、もう一度ワールドカップに行きたい。

 けれど、サポーターとして、その前の4年間も大切。8月7日にはJリーグが開幕する。私が応援する川崎フロンターレの開幕戦は8月9日だ。アウェイゲームを含めて毎週のように試合を観に行き、自分のチームのいいプレーに歓声を上げ、悪いプレーには失望のうめき声を発する。4年後のワールドカップに、一人でも多くの代表選手が自分のチームから選出されることを願いながら、自分のチームを応援する日々が、また始まる。

 これがJリーグサポーターの日常なんだ。ワールドカップは、その先にある。

防衛研究所上席研究官

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