『公研』2023年3月号「めいん・すとりいと」

 

 先日、2021年10月末に札幌すすきのを取材で訪れたのを皮切りに始まった雑誌『Voice』での連載「コロナ下の夜の街」の最終回(全12回)を脱稿した。1年以上にわたり日本列島を縦断する取材の日々だったが、長い旅も終わりを告げたのだった。

 北海道札幌市・小樽市・帯広市・新得町、青森県弘前市、福島県いわき市、東京都は赤羽・西尾久・渋谷・銀座、神奈川県の武蔵新城、山梨県甲府市、鳥取県米子市・境港市、島根県松江市、福岡県北九州市、大分県別府市──コロナ禍の中、10都道県・17の街を巡り歩いた(この連載は4月中にPHP研究所から書籍化される予定)。

 この間、多くの夜の街を実際に歩いてみることによって、地域によって抱えている問題が様々であることも分かった。

 現在は円安やそれに伴う原材料費の高騰、あるいは電力供給の問題などが前景化しているものの、一般的に大きな工業地帯を抱える地域は経済的にも潤うもので、これまで夜の街もその恩恵を大きく受けて来た。しかし、コロナ禍で状況は一変したのだった。

 このような地域は感染者の発生によって工場のラインを止めるわけにはゆかないため、厳重な予防対策を取るようになる。結果として地域全体の雰囲気は重苦しいものとなり、夜の街も閑散とすることになったのだった。

 私の故郷である大分県にも、大工業地帯を擁する大分市に都町という大きな繁華街があるのだが、隣接する観光都市・別府市の繁華街・北浜と比べると厳しい状況にあると聞いている。実際、都町ではスナックなどの閉店ラッシュが続いているという話さえ聞こえて来るのだ。

 このような苦境の背景には、光熱費や食材(酒類)価格の高騰、コロナ下での特例貸付の返済の開始など複合的な要因があるが、究極的には夜の街への人出を支える人びとの意識そのものを変容させない限り、どうにもならない問題なのである。

 コロナ禍も、今年5月に5類へ移行するのを目処に名実ともに終わりを告げそうである。そのような中で、地方経済を牽引する工業地域の夜の街に燠火のように残り続ける先述のような「雰囲気」の緩和は、喫緊の課題なのだ。これまでコロナ禍で痛めつけられて来た飲食店の再起を後押しするためにも、県庁・市役所・地銀など、地元では「堅い」とされている業種から率先して夜の街を盛り上げてゆく機運を醸成してゆけないものだろうか。

 コロナ禍の中、飲食店の苦境を救うためのヒントを得られないかと私の講演を聴きに来ていたある市長のことを思い出す。彼は、感染予防措置をチェックするための見回りという名目で、市の部長級の職員に交代で市内の飲食店をまわってもらい、そのついでに飲食することで実質的に飲食店を助けていたのだった。色々なやりようはあるはずなのだ。

 4月には9日と23日に統一地方選が行われるが、選挙期間中は一般的に夜の街への人出が減るものである。だからこそ、名実ともにコロナ禍から解放された日々の第一歩を踏み出すためにも、まずは3月から4月にかけての「歓送迎会の復活」を心から期待したい。もちろん、昔ながらの全員出席を前提にするようなものは、もはや論外だが、希望者だけを募ってでも多くのひとが交わる会を催して欲しいものである。花粉もあるのでマスクを捨てよとは言わないが、とにもかくにも夜の街に出ようではないか。

東京都立大学教授

 

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