『公研』2021年11月号「めいん・すとりいと」

 

文明とエネルギー

 21世紀の現在、日本のエネルギー自給率は10%以下である。人類の歴史を見ればわかるが、エネルギー自給率10%の文明は存続し得ない。未来に向かって、日本は自前のエネルギーを確保しなければならない。

 戦後、日本は無尽蔵の中東の石油を消費して最先端の経済国家となった。

 しかし、経産省ホームページによると、石炭の可採年数は109年、石油は53年となっている。つまり、今生まれた赤ちゃんが50歳になるころには、石油と石炭の価格は暴騰して手が出ないエネルギーになっている。
石炭・石油は、地球が長い時間をかけて貯めた太陽エネルギーの缶詰である。その化石エネルギーは、今世紀の後半には舞台から退場していく。未来の文明を支えるエネルギーは、過去に貯まった太陽エネルギーではなく、現在この今、地球を巡っている太陽エネルギーとなる。

 太陽エネルギーの総量は十分すぎるほど膨大である。しかし、太陽エネルギーは決定的な弱点を持っている。「単位面積当りのエネルギー量が薄い」という点である。

 しかし、この欠点を克服する太陽エネルギーがある。それが水力エネルギーである。

 

日本列島はエネルギー列島

 太陽と海がある限り、水は無限に海と陸の間を循環する。ただし、雨も単位面積当りのエネルギー量は薄い。しかし、薄いエネルギーの雨は、日本列島の地形によって集積され濃いエネルギーになっていく。

 雨は地上に降ると、地形のひだに集まり、せせらぎとなる。小さなせせらぎは沢となり、沢が集まり渓谷となり、渓谷が集まり川となる。

 単位面積当り薄い雨粒エネルギーが、地形によって集積され、濃い水流エネルギーとなっていく。日本国土の約7割は山地である。つまり、日本列島全体が、薄いエネルギーの雨を濃いエネルギーに変換する装置となっている。

 さらに、日本で川がない地方などない。水力エネルギーは、すべての地方が平等に保有している固有の財産である。完全にクリーンな水力エネルギーが、日本列島にくまなく配置されている。日本列島は水力エネルギー列島なのである。

 しかし、この水力発電も弱点を持っている。

 

既存ダムの最大活用

 日本の河川は急峻である。川の水は一気に集まり、一気に海に流れ去ってしまう。この変動の大きい使い勝手の悪い水力を、変動を平滑化して使い勝手の良いエルギーにするのがダムである。
ダムは一気に流れる水のエネルギーを貯め、都合よくそれを放流していく。ダムは巨大な自然のバッテリーなのである。しかし、新しい巨大ダムを次々と建設していく社会的状況にない。

 そのため既存ダムを最大に活用する知恵が求められる。特に、発電を主目的にしてこなかった国土交通省、農林水産省、都道府県などの既存ダムの利用が有効となる。

 具体的には次の施策によって膨大な水力発電の増加が見込まれる。①すべてのダムに発電機を設置する、②ダムの運用見直しによりエネルギーを生み出す、③既存ダムの嵩上げによって貯水容量を増加させ、発電能力を増大させる、④既存の本ダム下流に調整小ダムを設け、本ダムでのピーク発電を行う。

 特にダムの嵩上げは有効である。ダム湖の上部は面積が広い。100メートルのダムを10メートル嵩上げすれば、100メートルの新しいダムを建設すると同等の価値がある。

 既存ダムを有効に利用して、日本列島を分散型エネルギー列島にしていく。これが未来の日本文明の存続の道である。

日本水フォーラム代表理事

 

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