2022年4月号「issues of the day」

 

難民に厳しい日本社会とウクライナ難民

 連日、企業や個人、自治体、メディアの方々から、ウクライナからの難民についての問い合わせがあります。ここまで難民に日本社会が関心を持つ「波」は稀でしょう。だからこそ同時に必ずお伝えしているのは「すでに日本にいる、認定を待ち続ける難民申請者たちの存在」です。「日本の難民受け入れって、そもそもどうなっていたのだっけ」と、目を向け考え議論できるタイミングとも言えます。

 2月下旬、ロシア軍のウクライナへの侵攻が開始し、企業、市民、政治家、などから様々な声が上がりました。「日本も難民受け入れできるのでは/すべきでは?」「日本は難民受け入れの数が少ないがどうするのか」等。そこで、「♯ウクライナ難民の多様な受け入れに賛同します」というハッシュタグのもと、オンライン署名運動「ウクライナからの難民のために、日本が取れる7つの拡充アクション」を立ち上げました。目的は「世論を可視化し、政府の中で前向きな方々のアクションを後押しする」「新しい方法をつくらなくても既存のスキームの拡充でできることがあることを示すこと」です。この活動には1カ月で5万7,000もの署名が集まっています。その後、日本もウクライナからの難民受け入れを発表し、ビザ発給も大幅に緩和されました。自治体での窓口も開設され、多くの相談が来ています。

 そもそもこれまで日本にやってくる難民の現状はどうだったでしょうか。実は、鉱物紛争の地域で争いに巻き込まれたり、民主化を求める人が次々と逮捕されたりと、目の前に危険が迫る時、行き先を選ぶ余裕はなく数カ国にビザ申請する中で、最初にビザ出たのが日本だった、という状況で日本に来る人が多いです。そして、来日後「出入国在留管理庁」で難民認定申請をします。母国を逃れた時点で「難民」になるわけではなく、辿り着いた先の政府に認定されて初めて保護される立場になります。しかし1万人以上が申請した2020年、難民として認定されたのは47人でした。認定率は0.3%。先進諸国で最低水準です。

 こう見ると、いかに、今回のウクライナ難民措置が特例かが見えてきます。ビザの簡素化、代理手続きも可能、コロナの入国制限の対象外、陰性証不必要で、短期滞在3カ月のビザを得て入国。その後は1年の「特定活動」という在留資格に切り替え就労可能、国民保険にも入れる形となります。ヨーロッパ諸国とも足並みを揃えた、とても迅速な動きでした。

 さて、一方でウクライナ以外からの人たちはいつ認定されるのかわからない状態で待っています。結果までの期間は平均4年4カ月。10年以上待ち続け、不認定になり(ほとんどが不認定なわけですが)、在留資格もなくなり、収容施設に収容される人もいます。法的地位がないと、日本にいられない。しかし、ただ待っていても認定される可能性はほとんどありません。

難民へのイメージを変える

 そこで、私たちWELgeeは、日本に辿り着いた難民向けの就労・キャリア支援をしてきました。意欲、個性、経験に着目し、日本企業と繋ぐプログラム「JobCopass」という仕組みで、不安定な在留資格で待ち続けるしかなかった人を、企業が雇用してスポンサーになることで安定した在留資格の取得をめざします。キャリアコーディネーターが人生そのものに伴走。企業は、自社の成長や変革のきっかけとなる人材を採用できます。4カ国語話者、教師、起業家、弁護士、NGO職員など、このような存在に今まで日本社会は気づかずにいました。逆境を乗り越えてきた人生経験豊かな人たちとイノベーションを起こそうと信じる企業さんと5年かけて挑戦してきたのですが、裏返せばそうでもしないと日本にいられる方法はないということです。

 これまでには、現地の感覚を知るアフリカの元起業家を採用し、有望なアフリカ市場を開拓するバイクメーカー等がいました。日本の同僚たちと一緒に、祖国の医療に貢献する団体を作った医者もいます。「かわいそうな難民」ではなく「切磋琢磨する同僚」になるので、社員さんの意識も変わってゆきます。難民と日本社会の新しい化学反応です。

 ただ、ここには葛藤もあります。スキルがない人は? 高齢で働けない人は? その通りです。本来は、「社会や企業の役に立つ人は日本にいていい」ではないのです。命を追われて逃げてくる人の人権を守ることは、スキルとは関係ない。それが「日本の難民認定基準が国際水準になること」も同時に求め続けなくてはならない理由です。

 こういう国が今「ウクライナ難民を受け入れよう」と言っているわけです。先が読めない世界の情勢に背中を押されるかたちで、これを転換点として、日本の難民政策を根本的に変えていけるのかが問われています。逃れてきた人たちを再び追い込むのではなく、第二の人生に前向きに踏み出せる場所になれるのか。私たちも、人生の再建に向けて、長期的な就労支援を引き続き行う予定です。テレビで見る簡単には想像のつかない難民の数と、目の前の「人」、両方に向き合っていこう。

NPO法人WELgee代表理事 渡部カンコロンゴ清花

 

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