同じジレンマを抱える日本とGCC諸国
池内 こうした中東秩序の大きな変化は、日本にとっても他人事ではありません。日本がどうアメリカと付き合っていくかとも大きく関係します。今回わかったことの一つは、GCC諸国と日本が国際社会において非常に似たような立場にあるということです。
辻田 そうですね。日本にも米軍基地があるので、GCC諸国のように同盟のジレンマ、つまり「見捨てられる恐怖」と「巻き込まれる恐怖」の両方を抱えています。
池内 今回GCC諸国は、この両方を同時に経験しました。だからこそ防衛はするけれど積極的にアメリカ側にはつかない、という絶妙な立ち位置をとっているわけです。
辻田 中でも今回は見捨てられる恐怖が深まった気がします。トランプ米大統領はこれまで軍事的に弱体化したあるいは脆弱な相手にしか積極的に攻撃してきませんでした。ロシアや中国など強い相手とはわざわざ事を荒立てない傾向が非常に強い。
池内 そうですね。実際、開戦前は中東問題の専門家の多くでさえ、アメリカは及び腰になるだろう、艦船を集めても攻めない、と見ていました。それだけトランプは強い相手には出ていけないというイメージが定着しているわけです。
そう考えると、台湾有事の場面でアメリカが降りて日本が見捨てられる可能性は、残念ながら今回の戦争にアメリカが突入したことで、さらに高まったと見ることができます。今回の件をきっかけに、巻き込まれるリスクと見捨てられるリスクについて、日本でより議論が深まるといいのですが。
辻田 エネルギー戦略はもちろんですが、様々な面でリスクを分散していかなければならないということですね。
池内 そのエネルギーについて、橋本さんは日本の今後をどう見ますか?
橋本 先ほども少し触れましたがLNG調達の現実を言えば、中東リスクの高まりとロシアからの調達難を受けて、結果的にアメリカ産LNGへの依存を高める方向に動いています。自発的に選んだというより、選ばざるを得なくなってきたというのが正直なところです。
池内 ロシアのサハリンLNGはどうなるでしょうか?ウクライナ侵攻後の制裁の際は、契約している以上は、たとえLNGをロシアからもらわなくてもお金は払わなければならない。日本に来なかった分はどうせ第三国に流れるだけで制裁の意味がない、という理屈で維持してきたわけですよね。しかしその契約もそろそろ切れてきます。
橋本 物理的には維持したいのが本音なのだと思いますが、契約更新を公表すればレピュテーションリスクがある。しかし、日本のエネルギー安全保障に不可欠だから続けるという立場をアメリカに明確に示しながら、何らかのかたちで維持する道を模索するしかないでしょう。今回の危機の直前に日本はカタールとも大型の長期調達契約を結んでいましたが、ロシア・サハリン、北米西海岸など、多方面での選択肢を真剣に追求していく必要があります。
池内 過去20年の議論は、中東依存は本来好ましくないが、経済的に効率的で産油国との二国間関係も良好だから現実的、というものでした。しかし今回、その二国間関係をすべて上書きするような地域リスクが一気に顕在化していました。
日本にとって、中東への過度な依存への代替供給源だったロシアが2022年以降封じられ、中東依存が極限まで高まったところへ今回の事態が重なりました。この後中東からのエネルギー供給が再開されるようになったとして、また石油の95%を中東に依存していいのかというと、議論は以前と同じには戻らないでしょう。
橋本 サウジ、UAE、カタール、そしてイランとも、日本は二国間関係を大切にしてきましたし、これからもそれは変わりません。ただ今回、その積み重ねてきた関係だけでは地域全体を巻き込む危機は回避できないという現実を突きつけられたということですね。競合と協調の両面で、立ち回りがますます難しく重要になってきます。
池内 そうですね。今回、GCC諸国と日本は改めて同じ立場にあることが浮き彫りになりました。エネルギーだけでなく、安全保障においても、リスクをどう分散し多様化するかという問いに、日本は正面から向き合わなければならない局面に来ています。今後戦況がどう動くのか。その答えを見ながら、引き続き考えていく必要があるのだと思います。
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