日本のスズメは減少している

──ご著作ではスズメの数は減少しているのではないかとご指摘されていました。

三上 スズメの数の推移を知るためには、過去の記録を参照しなければなりません。東京都東久留米市の自由学園は、1963年から2008年まで校内で観察されたスズメの個体数を定点観測していますが、この記録を見ると顕著に減少しています。また「野生鳥獣による農作物被害状況(農林水産省)」や「有害駆除羽数および狩猟羽数の推移(環境省)」などの調査結果を見ても、いずれも減少しています。さらには2021年に、国内のNPOや環境省が共同して、2016年から2021年にかけて20年ぶりに実施した「全国鳥類繁殖分布調査」でも、スズメやツバメの数が減少していることが報告されています。減っているのは間違いないでしょう。

──何が原因なのでしょうか?

腕金に巣を作るスズメ

三上 二つの原因が指摘されていて、一つは巣を作れる場所が減ったことです。最近の日本の住宅構造は、スズメが巣を作るのに適していません。家の建て替えが進んだことで、巣を作れる家屋が減りました。二つ目の原因は、理由はわからないのですが一つの巣で生まれる雛の数が少なくなっていることです。シンプルに考えれば、餌が不足しているのだと考えられます。巣を作ることができる場所が減っているので、餌を獲得する上で条件がよくないところでも巣を作らざるを得なくなっているのかもしれません。

電柱・電線に止まる鳥たち

──三上さんは、電柱や電線に止まっている鳥の研究もされています。スズメはその代表的な鳥ですが、他にはどんな鳥が止まっているのですか?

三上 電柱や電線は町中に多くありますから、町の中にいる鳥がよく止まっています。スズメ、ムクドリ、ツバメ、カラスなどが代表的ですね。2019年から2020年にかけて国内の6大学(東北大学、東邦大学、岐阜大学、山口大学、愛媛大学、九州大学)にある野鳥サークルに依頼して、どんな鳥が電柱・電線に止まっているかを調べてもらいました。その結果をまとめたのが表です。

表 電線によく止まる鳥 ベスト10

 当たり前のことですが、町の中で見かける鳥が良く止まります。ですが、町の中にいてもカルガモのように足に水かきが付いている鳥は止まれません。またウグイスなどは町の中にもある程度はいるのですが、ウグイスはやぶのなかなどに潜んでいることが多くて、目立つところに出てこないので、電柱・電線にはめったに止まりません。つまり、その鳥が高いところに出てくる生態なのかどうかも関わってきます。

──電柱・電線に止まっている鳥たちは気分が良さそうに見えます。

三上 実際に気分を良くしているのかどうかはわかりませんが、あんなに目立つところにいるのは、鳥たちにとっては良いことがあるからだろうと思います。電柱に止まれば囀るときには声がよく通るし、周りもよく見える。足元も全部見えていますからね。あんなに見晴らしの良い構造物は自然界にはありせん。嫌々止まっているようには見えないので、確かにご機嫌なのかもしれません。

電線の上はご機嫌?

 実際、電柱・電線に止まっている鳥たちにはお気に入りの位置があるようなのです。電柱と電柱の間には、電力線、通信線などたくさんの電線が異なる高さで通っています。これらのどの高さに鳥が止まっているのかを調査したことがあります。すると、鳥の種によって止まる高さに好みの違いがあることがわかりました。カラスは明らかに最上段を好むのに対して、スズメはどの高さにも満遍なく止まる傾向があるのです。

 それから電線の両端──電柱の側でもあります──に止まることを好む鳥もいれば、中央にいることが好きな鳥もいます。私が行った調査では、カラスの仲間は80%以上が端に止まっています。

──カラスは端が好きなのですね。

三上 そうなんです。逆にスズメは電線の中央部分にいることを好みます。スズメにとっては、電柱に近い端よりも、中央にとまって両側が広く見えているほうが、危険を察知しやすいためかもしれません。

カラスの巣の停電被害にどう対応するか

──カラスは電柱に巣を作り、巣に使われる金属のハンガーなどが電線に触れて漏電して停電の原因になることがあると聞いたことがあります。

三上 カラスによる停電は、日本全国で、毎年かなりの件数が報告されています。一方で、そういった問題を起こさずに、電柱に巣を作る鳥はほかにもいます。スズメは電柱に付いている腕金(電柱が電線を支えるための金属製パーツ)に巣を作ります。また電柱が木でできていた時代には、キツツキの仲間が穴を掘って巣を作っていました。鳥たちにとって、電柱や電線は、森の中にある木と同じようなもので、生活の場になっているわけです。

カラスの巣

 もちろん、電力会社にとっては停電を引き起こす可能性のあるカラスの巣は撤去しなければなりません。以前に北海道電力の函館支店の方に事情を話して、撤去作業を見学させてもらったことがあります。巧妙に組んであるカラスの巣を慎重に取り外すのは時間も掛かりますし、危険も伴います。でもそのおかげで日々、電気が使えるのですから、本当に頭の下がる思いがしました。

 今は全国で、電柱にカラスが巣を作っても、子育てが終わるまで巣を見守るということもしてくださっていて、鳥の研究者としては感謝しかないのです。それでもあえて言うと、巣を撤去していくことは重要ではないかと考えています。なぜなら、安全に巣を作れるとなるとそれを真似る鳥たちが増えていって、電柱に巣を作る鳥が増え、それにより停電のリスクは上がっていってしまうからです。

──巣を作らせないための有効な対策はありますかね?

三上 きちんと調査すれば、どういう電柱に巣を作りやすいのか見えてくると思います。電柱の構造だけではなくて、空間的な位置も関係しそうです。緑地の近くがいいとか、いくつかある電柱のうちの一番高い電柱に好むとか、傾向はつかめるでしょう。そうすれば有効な対策を打てるかもしれません。データさえもらえれば解析はできます。ただしカラスは賢いですから、電力会社が対策すれば、それにまた適応してくるかもしれませんね。

鳥たちが電線に止まっている今の光景は貴重な瞬間

──今後、電柱の地中化が進むと電柱・電線に鳥が止まる風景が見られなくなるのも残念な気もします。

電線に止まるたくさんの鳥たち

三上 将来的に電柱・電線がなくなるのだとしたら、鳥たちが電線に止まっている今の光景は貴重な瞬間なのかもしれません。そう考えると寂しい気持ちもあります。ですが、私としては、人間が作り出す環境に応じて、鳥たちがどのように生活を変えていくのか、その変化も楽しいと思っているので、電柱や電線がなくなる変化も楽しみたいと考えています。

 あくまで想像ですが、町中から電柱・電線が消えても、止まる場所に関してはそんなに大きな影響は生じないと思っています。ビルの上、街路樹など、鳥たちが止まる場所はいくらでもあるわけです。けれども、巣を作る場所は純減するだろうと考えています。特にスズメは、巣を電柱に作っている割合は高いですからね。

 先ほどもスズメが減っているという話をしましたが、電柱・電線が地中化されれば、さらにスズメが減る可能性はあります。それが生態系なりにどのような影響をもたらすのかを予測するのは難しいのですが、スズメは害虫なども食べてくれていますから、その効果がなくなることになります。加えて、スズメは一番身近な鳥なのですから、子どもたちにとって、身の回りにスズメがいるという状況は残しておいたほうがいいのではないかと考えています。ただし、それを私自身が強く言うべきかは迷っています。どうすべきかは、私が決めることではなくて、社会全体で議論することだと思うからです。

 社会全体で、本気でスズメの減少を食い止めるべきだと考えるのであれば、対処することはそんなに難しくはないと思っています。公園などに巣箱を設置するだけで十分な効果が出ると思います。

人工物と緑地のバランス

──町中にいるスズメなどは電柱・電線ありきの生活サイクルを確立しているわけですね。

三上 そうです。ですが少し過去に思いをはせれば、150年前には電柱・電線はありませんでした。鳥の歴史は、それよりもずっと長いわけで、電柱・電線が無いなかで暮らしてきたわけです。今は、地球上に現れた電気を利用する都市という新しい環境を、鳥たちは本当にうまく利用して生活しています。

 鳥たちは、電柱・電線だけでなく、他の人工物もうまく利用しています。よく「鳥を守るためには公園などの緑地が重要です」と言われます。それはもちろんそうです。緑地で餌を取って、そこに巣を作る鳥もいますからね。けれども、実は人工物の存在も鳥たちに相当な影響を与えていますから、人工物と緑地のバランスが良いと、きっと鳥がたくさんいる良い町になると思うんですね。人工物が鳥に与える影響をもっとはっきりさせたいというのが、私の今の研究テーマになっています。

──仮にふんだんに予算が使えるとしたらどんな研究をしますか?

三上 ゴルフの打ちっぱなしのようなでっかいところでスズメをたくさん飼います。すべてのスズメに個体認識できるICチップのようなタグを付けて、スズメの行動やスズメ同士がどんな声を出してコミュニケーションしているのか、すべてを記録に取りたいですね。実現すれば、いろいろなことが見えてきておもしろいと思います。予算を出してくれるところがあれば、すぐにでも準備にかかります(笑)。

町中にいる鳥の楽しみ方

──『公研』読者に向けて町中にいる鳥をいっそう楽しむためのアドバイスをお願いします。

三上 日本の町の中にいる鳥の種数はそんなに多くなくて、20種ぐらいわかれば大体は把握できます。立ち止まって双眼鏡でしっかり見なければならないわけではなくて、飛び方や鳴き声などいろいろな特徴があるので、それを頭に入れておくだけで、見分けられるようになります。

 野鳥観察に限ったことではありませんが、これまで知らなかったものがわかると世界の見え方が変わってきてとても楽しいです。とくに電線に止まっている鳥は見やすいですから、最初は電線を見上げることから始めてみてはどうでしょうか。

聞き手:橋本淳一

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