『公研』2025年7月号「めいん・すとりいと」
トランプ政権の安全保障政策について、しばしば以下の3者がせめぎ合っているのだと解説される。
①プライマシスト(優越主義者):米国は覇権国として世界に睨みを利かせるべき。イランに対してはレジームチェンジ(政権転覆)も辞さず。
②プライオリタイザー(優先主義者)~米国の力は相対的に低下しており、欧州や中東からは手を引き、アジアに注力すべき。イランの核保有は看過できないが、政権転覆にまで踏み込むべきではない。
③レストレイナー(抑制主義者)~今の米国は国内問題に専念すべきであり、対外不介入主義を貫くべき。中東への武力攻撃などはもってのほかである。
この3分類はエルブリッジ・コルビー現国防次官によるもので、ご当人は「プライオリタイザー」に所属するとのこと。
しかし、6月22日に行われた米軍の対イラン攻撃を振り返ってみると、共和党内に右のような図式的対立があったとは考えにくい。むしろ、「トランプ大統領を支えよう」という歩み寄りが起きていたように見える。
典型的だったのがルビオ氏である。2015年のJCPOA(イラン核合意)に反対し、16年の大統領選挙に出馬した際には「イランは中東最大のテロ支援国家」だと非難した。上院議員としては、イラン革命防衛隊をテロ組織として指定する動きを主導してきた。いわば筋金入りの反イラン派である。
ところが現在は国務長官であり、しかもマイケル・ウォルツが辞任した後は国家安全保障担当補佐官代行を兼務している。つまり、外交と軍事の両面でバランスを取るという難しい「職責」を担っている。実務者として、敢えて「持論」を封印して行動する場面が多かったのであろう。
思えばルビオ氏は官僚組織の代表として、とかく衝動的に行動しがちな大統領に仕えなければならなかった。イスラエルなど同盟国との協議や米軍との連携、さらにはインテリジェンス機構との調整といった責任もついて回る。こうなると、「プライマシスト」という持論は引っ込めて、現実的に行動するしかなかったのであろう。
これと正反対の動きを示したのがJDヴァンス副大統領であった。MAGA派の代表であり代弁者、というのが政権内の位置づけであるから、イランへの武力行使には反対するのが「筋」であったはず。しかし今回は、むしろ身内を説得する役回りを買って出た。
ヴァンス氏が6月18日に発したXのポストは、6月末時点で実に2593万回も表示されている。自らのフォロワーに対して、「大統領は10年以上にわたり、イランの核保有を認めないと言ってきた」「イランの核不拡散義務違反はIAEAが認定している」などとトランプ政権の行動を擁護している。
もちろんMAGA派は完全に納得してくれたわけではない。それでもヴァンス氏は敢えて火中の栗を拾ったわけで、単なる「レストレイナー」ではなくなっている。
こうしてみると、ヴァンス氏(40歳)とルビオ氏(53歳)は、政権内のナンバーツーとスリーとして、見事な役割分担を果たしていたことになる。
片やヴァンス副大統領は中西部の白人労働者層を代表し、MAGA派ポピュリズムの代弁者である。トランプ氏の運動の「正統な後継者」としての指名を受けており、草の根保守主義の熱狂を背にしている。
他方、ルビオ国務長官はラテン系保守層の出自を持ち、共和党の伝統的戦略思考の後継者であり、政府機構内のプロフェッショナルとして、制度的安定性を担う役回りである。「大統領らしさ」を身につけるべく修行中の身といったところか。
2人とも元上院議員であるが、ヴァンス氏は新参者、ルビオ氏はベテランである。しかし関係が悪いわけではなく、ともに「改革派保守」を自認し、共和党が労働者中心の政党となることを志向している。
保守系シンクタンク「アメリカン・コンパス」の創設者であり、トランプ関税を理論面から主導するオレン・キャス氏は、この両人と親交があるという。つまり内政面の考え方は近いのであろう。
ヴァンス氏とルビオ氏は、2028年には次期共和党大統領の有力候補となっているはずだ。二人の協調と対立の歴史はまだ始まったばかり。今後のトランプ政権を見ていくうえで、「次世代の共和党リーダー」の成長度合いに着目するのも一興であろう。双日総合研究所チーフエコノミスト