2023年3月号「issues of the day」
内外の要求に現実的に対応するメローニ
イタリアに「極右」出身首相の誕生と騒がれたメローニ首相であるが、就任100日を過ぎても、大きなダメージなく乗り切っている。2月には、ラツィオ州(州都ローマ)、ロンバルディア州(州都ミラノ)の州知事・議会選で右派を結集させ、分裂した左派に圧勝した。特にお膝下のラツィオで自ら推薦した知事候補が左派から政権交代を成し遂げたので、右派政権内でメローニの主導権が強まった。直近の世論調査でも、党首を務める右派政党「イタリアの同胞」(FDI)は政党支持率(「支持政党なし」を除く)で30・7%(2月27日、SWG)と、依然トップを独走し続けている。
国際社会も、想像以上に現実主義的なメローニの政権運営に安堵している。まず、欧米諸国が危惧した、ウクライナ支援からの後退は、まったくの杞憂に終わった。そもそも、選挙戦からメローニはウクライナ支援継続を約束しており、たとえ連立与党の同盟のサルヴィーニが対ロシア制裁に消極的で、フォルツァ・イタリアのベルルスコーニがプーチンとの長い親交を語っても、大きな影響を受けることはない。23年末までの支援継続を早々と決めただけでなく、新たに防空システムSAMP/Tの供与も決定している。
これを支えているのは、閣僚人事の妙であり、外相にフォルツァ・イタリアのタヤーニ元欧州議会議長、経済・財務相に同盟では異色の国際派でドラーギ政権の経済発展相だったジョルジェッティ、首相と齟齬があってはいけない国防相にはFDI結党の同志クロゼットを充てて、対外政策に混乱が生じないようにしている。
ただし、ドラーギ前首相と蜜月だったフランスのマクロン大統領との間には微妙な関係が続いている。事の発端は、マクロンとドラーギが結んだ二国間協力強化(クィリナーレ条約)にメローニが冷淡だったことに始まるが、メローニ政権発足後にまず焦点となったのは、昨年11月にイタリアが入港を拒否した移民救助船をフランスが人道的見地から入港を認めざるを得なくなったことである。フランスは、EUでの合意に基づきイタリアから一定の移民を引き受けてきた国であるが、この履行を停止させた。
2月の欧州理事会前夜にマクロンがウクライナのゼレンスキー大統領とドイツのショルツ首相をパリに招いた夕食会に、メローニは呼ばれなかった。マクロンはミンスク合意以来の仏独の深いコミットメントを理由にできた。メローニは欧州内の団結を崩すと苦言を呈したものの、イタリアは欧州理事会の折にスペインなど数カ国でのグループで会談せざるを得ず、後で別にゼレンスキーと短時間の立ち話をした。ウクライナ側は支援継続を決めたメローニには配慮しており、この後、キーウでメローニを迎えた。
国内での支持減退なし
とはいえ、対外関係の多少の軋轢は、メローニの国内での支持減退はもたらさない。幸い、EUの各国財政への締め付けはウクライナ危機対応のため、緩和している。メローニは選挙での国民の支持に答え、物価高対策を中心に拡張的な23年度予算を立てたが、対GDP比では赤字を縮小させ、フラット・タックスや年金受給年齢の引き下げなど大掛かりな公約は範囲を縮小するか延期し、EUからも大幅な修正を求められずに済む程度に収めた。
2月末の南イタリア、カラブリア州付近で起きた移民船の事故は、子どもの犠牲者が多かったことと、これまでの北アフリカ・地中海中部ルートと違い、トルコからエーゲ海とイオニア海を経て半島南部に近づくルートの密航が増えていることが衝撃を与えた。イタリア当局が右派政権の規制強化で積極的に救助しなかったと内相に対して批判があるが、EU内でイタリアに負担が集中する不公平感も強く、厳しい移民政策をメローニは緩めない。
昨年の総選挙で支持率が2割を切った、左派の中核政党の民主党は、党書記長選挙を党員以外も決選投票に参加できる予備選で行い、エリー・シュライン下院議員が勝利した。初の女性書記長であり、スイスのルガーノ近郊の生まれ、父はアメリカ人政治学者、母はイタリア人法学者で、自身は元欧州議会議員と、ローマの労働者階級からの叩き上げであるメローニとは好対照の、国際的な知識人階級出身のフェミニストである。
このように差異が際立つ女性同士の対決が期待されるが、新しいリーダーへの左派内の受け止めは様々であり、現状では分裂したままの左派に野党としての十分な役割は期待できず、むしろキャスティング・ヴォートを握る連立与党の同盟とフォルツァ・イタリアが真の対抗勢力となりそうである。今はメローニの手際を静観でも、政権発足から半年を過ぎれば、経済政策の効果が問われ、不首尾ならばイタリア政界はまた動揺するだろう。
共立女子大学教授 八十田 博人