「もがみ」型護衛艦にみる海上自衛隊の現状と近未来【奈良岡聰智】

B!

『公研』2024年11月号「めいん・すとりいと」

 

 近年海上自衛隊(以下、海自)の海外での活動が増えている。毎年行っている海自幹部候補生学校卒業者を対象とした遠洋練習航海や外洋練習航海に加えて、二〇〇九年以降は継続的に海賊対処部隊を派遣し、二〇一七年にはインド太平洋方面派遣(IPD)が開始された。この他にリムパック(RIMPAC)など海外海軍との共同演習の機会も多数あり、海自は常時海外に相当数の艦船を派遣している状態が続いている。

 一方、日本近海では外国艦船の活動が目立って増大しており、その常続的監視を行う警戒監視活動の負担も増している。北朝鮮籍船舶の「瀬取り」を含む違法な海上活動やミサイル発射に対する監視が恒常的に行われている他、中国軍艦による日本の領海通航、中露軍艦による津軽・宗谷海峡通過などに際しても、海自の艦艇は出動している。こうした任務は、従来小型の護衛艦(DE)やミサイル艇が主に担当してきたが、最近ではこれらだけでは手が足りず、掃海艇、訓練支援艦、補給艦など、本来この種の任務に適しているとは言えない艦艇まで投入せざるを得なくなっている。ほとんど武装がない掃海艇が津軽海峡の荒波の中で警戒監視活動に従事している姿を想像すると、涙が出る。まさに由々しき事態である。

 海自はこうした問題に対していくつか対応を進めてきたが、その切り札の一つとされているのが新型の「もがみ」型護衛艦の建造である。従来海自の護衛艦の艦種(艦艇記号)は、駆逐艦(destroyer)に由来するDを付して、DD(汎用護衛艦)、DDH(ヘリコプター護衛艦)、DDG(イージス艦を含むミサイル護衛艦)などとされてきたが、もがみ型はフリゲート(frigate)に由来するFに多目的(Multi-Purpose)と機雷(Mine)のMを足した多機能護衛艦という意味でFFMと呼称されている。かつてない艦種とされているところに、海自の並々ならぬ決意が表れている。

 FFMは現在六隻が就役しているが、二〇二七年度までに合計一二隻となり、その後は能力を向上させた新型FFMがさらに一二隻建造される予定である。これらは、増大する平時の警戒監視に対応する一方で、対潜戦、対空戦、対水上戦などでも一定以上の能力を持ち、さらに従来掃海艦艇が担ってきた対機雷戦機能をも備えている。その兵装や運用構想については専門家の議論に譲るとして(特集「「もがみ」型FFMのすべて」『世界の艦船』九八五号、二〇二二年一二月)、ここではFFMが帝国海軍以来の海自の「伝統」を大きく変えようとしていることを指摘しておきたい。

 海自では、伝統的に幹部(戦前の士官)と海曹士が生活区画を区切られてきた。例えば食事は別々に行われ、士官室では、海士の中から指定された「士官室係」が食事の給仕を行うことになってきた。幹部の食事が普通の茶碗や皿で提供されるのに対して、若い海曹士は食事を自らアルミプレートに装うなど、食事の内容や盛り付け方も異なっていた。また、指揮官や艦長ともなると、清掃や身の回りの雑用の多くも海士に任せることが可能であった。こうした「伝統」は一見不平等に見えるが、「権威の維持」や「意思決定者の思考リソースの確保」などの観点からは合理性があり、今日まで存続してきた。

 しかし、「コンパクト化」「省人化」をコンセプトとしているFFMでは、こうした文化の維持は困難で、艦長以下乗組員は全員同じ食堂で喫食し、若い海士の雑用も格段に減らされているという。約九十人という従来の護衛艦の半数以下で運用されているFFMでは、乗員が複数の職務を担当するのが普通で、できるだけ業務を削減するために、あえて「伝統」を見直したのだという。若い隊員たちの働き方を改善する合理的な改革として、高く評価したい。

 この他FFMでは、女性隊員用のエリアを男性隊員用のものと完全に区切る、カメラやモニターを増やして当直の負担を減らすなど、画期的な取り組みが数多く行われている。そのため、「省人化」に関心を持つ民間企業からは多数の見学者が訪れていると聞く。新型フリゲート建造を進めているオーストラリアが関心を示し、FFM導入を選択肢の一つとして検討していると報じられているのも、こうした点が評価されているからだろう。「もがみ」型護衛艦には、海自が抱えている現状とめざしている近未来の一端が集約的に表れていると言える。

京都大学教授

護衛艦「もがみ」

 

 

最新の記事はこちらから