『公研』2022年4月号「めいん・すとりいと」

 ロシアのウクライナ侵攻開始から1箇月半が経過した。この危機を巡るこれまでの展開から得られる「教訓」について、七つの「I」をキーワードに整理してみたい。

 第一のIはインフォーメーションとインテリジェンス。侵攻の抑止はできなかったが、その後の情報空間の戦いでは、西側がかなり優位に立っている。機微情報を使用した先手をとるような情報の公開、自覚した個人の力とSNSを活用した情報収集、SNSを逆利用したロシア側への攪乱情報の拡散が特徴だ。米英を中心とする相手の情報発信源を最前線で常に監視するサイバー空間における「積極防衛」。ここ数年間のデータの積み重ねと実戦経験が功を奏している。

 第二のIはインフラストラクチャー。ロシアの得意とする開戦前、開戦直後のインフラ潰しが成功しなかった。国家を超えた機動的な情報通信基盤の提供により、情報通信機能は有効に維持されている。また、住民の早期避難も重要だが、冷戦期に備えられた様々な地下施設は、旧式の攻撃にもハイテク攻撃に対しても、領土と命を守る上で有効な基盤となっている。

 第三のIはインプロビゼーション(Improvisation)。急速な状況変化に、出来合いのものを活用して、新たな対応策を柔軟に打ち出す。「局面の転換」に応じ「その場で考える力」を発揮する。ドローンとSNSの一体化による攻撃システムの構築やクラウドファンディングによる戦費調達はその一例だ。アポロ13号の危機を救ったのもこの力だった。

 第四のIはインテグレーション。米国の戦略見直しのキーワードの一つがIntegrated deterrenceだが、統合の対象は核兵器と通常兵器、軍事と非軍事、ハードとソフトなど幅広い要素を含む。作戦領域や省庁間の壁を越え、同盟国・パートナー国との協力を深め、抑止力を高める。抑止には成功しなかったが、「前例のない、痛みの伴う」経済制裁を含む国際協力の下で「総力安全保障」が具現化しつつある。今後化学兵器や核兵器の使用に至るエスカレーションをどう抑えるのか、真価が問われている。

 第五のIはインタラクション(Interaction)。国家間、文明間、個人レベルの交流・意思疎通や相互作用の重要性である。ゼレンスキー大統領の各国議会での演説の効果は大きい。双方向的で互いの立場を尊重するアプローチは国際世論に力を与える。ウクライナ人の各国の人々との繋がりが生む支援も広がっている。日本の対応も積極的になった。

 第六のIはイニシアティブ。侵略された直後に大統領が発した首都に止まるという言葉は、指導者の情勢展開を主導しようとする意思を明確に示した。これが「電撃的な」「力による現状変更」に対する抵抗に強靭性をもたらし、時間を稼ぎ、情報戦を戦い抜くことで、国際的な「勢い」を創り出した。悪い方への「場面転換」が生じぬよう、今後これを持続させなければならない。

 六つの「I」の重要性はウクライナ危機の前から分かっていたことばかりだと言わればそのとおりだが、日本として出来ていることは少ない。第七のI、インプリメンテーションを忘れてはいけない。ウクライナ危機は、「事態の展開次第では、世界も我が国も戦後最大の危機を迎える」(岸田総理)ものだろうが、我々は、冷戦終結後、湾岸戦争、米国同時多発テロ、東日本大震災、気候変動に伴う災害の巨大化、新型コロナウイルスの蔓延など様々な危機を経験してきた。その都度「危機認識」は新たにしたが、抜本策が実行される前に次の危機にシフトし、一過性の措置や弥縫策を繰り返してきた。今こそ、思っているだけではなく、施策の現状を「見える化」し、全体を俯瞰して評価・検証し、絶えず改善し、前例のない措置まで視野を広げて施策を実行し続けなければいけない。

東京大学公共政策大学院客員教授

 

 

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