『公研』2026年7月号「interview」
インスタントラーメンの生みの親、安藤百福氏。その発明の根底には、「食が足りてこそ世の中は平和になる」という公共の精神があった。この志を受け継ぐ日清食品・安藤徳隆社長は、「完全メシ」で新たな社会課題に挑んでいる。日清食品の新たなビジョンをじっくりと伺った。
日清食品 代表取締役社長
安藤徳隆
安藤徳隆
あんどう のりたか:1977年大阪府生まれ。2002年慶應義塾大学大学院理工学研究科修了。04年から百福氏のカバン持ちとして約3年間を過ごしたのち、07年日清食品入社、経営企画部部長就任。08年同社取締役・CMO。専務取締役・CSO(最高戦略責任者)などを経て15年より現任。16年日清食品ホールディングス代表取締役副社長・COO(同)。19年には「日経ビジネス」の「世界を動かす日本人50」に選出される。
祖父から受け継いだ 二つのメッセージ
──若い頃に、日清食品の創業者であり世界初のインスタントラーメンを発明した祖父の安藤百福(ももふく)さんのカバン持ちをされていたそうですね。
安藤 祖父が93歳のときから96歳で亡くなるまで3年間、カバン持ちをやっていました。大阪の池田市にある祖父母の実家に住み込み、朝から晩まで一緒に行動していました。朝は一緒に出社して、オブザーバーとして会議にも出席しました。祖父は高齢でしたので帰宅は早く、夕食や入浴も一緒でした。
祖父は本当に話好きで、一日中いろいろな話をしていました。お風呂から上がっても、涼みながら話し、寝室まで送っていってもさらに話は続きました。ベッドの横の小さな椅子に私を座らせて、パジャマ姿の祖父は自分のベッドであぐらをかきながら話していました。
祖父が寝ると、ようやく一人の時間になります。私は母屋の隣にあったアパートの一室を借りていて、そこで寝ていました。夜にテレビでバスケットボールの試合を観るのが唯一の楽しみでした。
当時はまだ20代でしたから、たまには友人と飲みに出かけたくなるのですが、不思議と祖父にはすぐにバレてしまうんです。「昨日、街へ出ただろう」と言われたりして(笑)。そんな濃密な日々が3年間続いたわけです。
──百福さんは、どんなお話をされていたのですか?
安藤 90年の人生で経験したことを、思い付くままに滔々と語るので、あまり整理されていないんです。繰り返される部分もありますし、時系列もあやふやだったりするので、聞いていて混乱することもありました。
ただ、今になって振り返ると、祖父の話には二つのメッセージが込められていたのではないかと思います。一つは「事業をしっかり継続してほしい」「会社を頼むぞ」という思いです。祖父からは「すごく苦労してここまで来た」という話を何度も聞きました。私は日清食品が大きく成長したあとに生まれ育っていますから、祖父はそんな私に責任感を持たせたかったのだと思います。
もう一つは、「破壊の精神」です。新しいことに挑戦すべきであって、会社が進化を続けるためにはそれを常に自覚しなければならないという意志を感じました。
祖父自身、様々な事業に挑戦し、成功と失敗を繰り返しながら会社を成長させてきました。現状を自ら破壊していく精神が経営には必要なのだと思います。この点については、父(安藤宏基氏、日清食品ホールディングス社長・CEO)のほうが、さらに強い信念を持っているかもしれません。
祖父の話は朝から晩まで続きましたから、当時は「早く終わってくれないかな」と思うこともありました(笑)。ただ、後になって祖父の言葉の重みを実感するようになりました。今振り返ると、本当に貴重な時間だったと思います。
「カップヌードルをぶっつぶせ」を掲げた父
──お父様の宏基さんは、創業者の後を継いで日清食品をグローバルに発展させてきました。途上国の子どもたちの飢餓をなくすことを目的に設立された国連WFP(世界食糧計画)を支援する「国連WFP協会」の会長を務めるなど、社会課題の解決にもご関心を向けてきました。宏基CEOについて、お父様として、あるいは経営者の先輩としてどのようにお考えでしょうか?
安藤 祖父もそうでしたが、父は家でも常に仕事のことを考えていました。父が繰り返し言っていたのは、「現場の肌感覚」で語らなければならないということです。現場をしっかりと見なければ、その実態を理解することはできません。生産、開発、マーケティング、営業のそれぞれの現場に出向き、定例ミーティングにも参加することで、各現場の空気感やニュアンスを把握することを怠りませんでした。
食品会社にとって、商品を手に取ってくださったお客様の反応をきちんと知ることが最も重要ですよね。父は日清食品のグローバル展開を推し進めましたが、海外のお客様が自社の商品をどう受け止めるのか、それを自分の目で見ることにこだわりました。国によって味の好みは違うし、食べ方もずいぶん違いますからね。よく「買ってくれた人の家まで行って、食べるところを見てきたのか?」と言っていましたが、消費者の現場を知ることをとても重視していました。
そして、今になって大きな意味があったと思うのは、父が「カップヌードルをぶっつぶせ」という言葉をスローガンに掲げたことですね。
──日清食品の看板商品を「ぶっつぶせ」とは大胆です。
安藤 祖父と激しい議論になったと聞いています。リスペクトがないと言われたそうです。懸命に意図を説明したそうですが、父からすれば成功体験に縛られているのが一番怖かったわけです。自分たちの最大の強みをあえて壊し、その先を創造するような挑戦を続けなくなってしまったら、いわゆる大企業病に陥り、そこから衰退が始まることを恐れたのだと思います。そうした気持ちで開発を続けて、「カップヌードル」より強い商品が生まれたら、最高ですよね。
「カップヌードルをぶっつぶせ」という考え方を打ち出したのは父です。祖父はインスタントラーメンという強力な産業のプラットフォームを構築しましたが、父はその成功体験に縛られず、事業をさらに進化させました。新しい事業に積極的に挑戦することをよしとする非常に良い環境を築いてくれたと思います。
そのおかげで、私はずいぶんやりやすくなりました。新しい食文化を次々と生み出して、「人類をもっと健康に、もっとハッピーにしたい」という祖父や父から受け継がれた思いが核にあって、それが「最適化栄養食プロジェクト」などの新規事業につながっているのだと考えています。
日清食品HD_CEO.jpg)
「完全メシ」とは何か
──2022年に「完全メシ」ブランドの発売が始まりました。そもそもどういったものなのでしょうか?
安藤 日清食品の「完全メシ」は、日本最適化栄養食協会から「最適化栄養食」として認証された食品です。タンパク質(Protein)、脂質(Fat)、炭水化物(Carbohydrate)の3大栄養素がバランスよく調整されていることに加え、厚生労働省が「日本人の食事摂取基準」で定めた33種類の栄養素とおいしさのバランスを追求しています。さらに塩分や糖質の量もコントロールされています。
健康や身体づくりのためには、1日の摂取カロリーに占める3大栄養素の割合、いわゆるPFCバランスが重要です。一般的には、タンパク質は13%から20%、脂質は20%から30%、炭水化物は50%から65%程度が望ましいとされています。
最近は極端な糖質オフダイエットなども見られますが、糖質や脂質は摂り過ぎが問題なのであって、一定量は身体に不可欠です。「完全メシ」シリーズであれば、どのメニューを選んでも、PFCバランスと33種類の栄養素のバランスが調整されています。
一つの食べ物に必要な栄養をすべて詰め込むというコンセプト自体は、誰でも考えられると思いますが、必要なビタミンやミネラルを一つのメニューに入れてしまうとエグ味や苦味が強くて味として成立しないんですね。けれども我々は、味を再合成したり、マスキングしたりすることに関しては70年間鍛えてきた技術の蓄積があります。もともとインスタントラーメンは、お店で食べるラーメンの味わいを、お湯を注ぐだけで再現したものです。お店のラーメンを分解して再合成することで、インスタントラーメンになっているわけです。
さらには、カロリーオフ、減塩、糖質オフといった新たな要素を実現するための技術も、インスタントラーメンをつくり続けるなかで磨きあげてきました。例えば、減塩技術です。減塩するための最も原始的な手法は、ナトリウム塩をカリウム塩に置き換えることですが、カリウム塩は、塩味はあるもののエグ味がとても強いんですね。舌の側面がイガイガするような感じがして、おいしさが損なわれてしまう。なので、カリウム塩のエグ味をマスキングしたり、別の減塩素材などに置き換えたりすることで、おいしさを維持しています。
塩分以外の栄養成分でもこうした試行錯誤を重ねながら、おいしさにも妥協することなく、さまざまなメニューをより健康的に進化させています。だからこそ、33種類もの栄養素が整っていても、「完全メシ」はおいしく食べられるように仕上がっているんです。この味づくりこそが、私たちが「最適化栄養テクノロジー」と呼んでいる技術です。メニューにもよりますが、この技術によって塩分や糖質、脂質を一般的なメニューと比べて約50%低減することができます。また、カロリーも自在に調整することができ、例えば1食あたり600キロカロリーを目標に設定すれば、その水準に調整することができます。
──『完全メシ 汁なしカップヌードル』や『完全メシ ガーリックペッパーライス』などいくつかを食べましたが、どれもおいしかったです。「日清食品の味だ!」と感じました。健康のためにムリして食べているという感じはまったくなく、塩気も十分でした。
安藤 野菜たっぷりで、味は薄く、量も少なめといった、いかにも健康に良さそうなメニューは、ストイックな方にしか買ってもらえません。けれども、我々のコンセプトは真逆です。食欲を満たせる食品でありながら、その中身を健康的なものへと進化させたわけです。
飢餓から飽食の時代へ、 新たな挑戦
──「最適化栄養食事業」という健康をテーマにした新しい事業に関心を向けるようになった経緯をお聞かせください。
安藤 2015年4月に日清食品の代表取締役社長に就任するに際し、二つのスローガンを掲げました。一つは「100年ブランドカンパニーへの挑戦」です。祖父や父が大切にしてきた「チキンラーメン」「カップヌードル」「日清のどん兵衛」「日清焼そばU.F.O.」といったブランドをさらに伸ばしていくことで、既存事業の価値の最大化をめざすことが狙いです。
やはりブランドライフサイクルはありますから、長い年月が経ってくるとブランドの競争力が低下し、存在感を失ってしまうのが一般的です。そうならないように、100年経っても収益力が強く、フレッシュなイメージを損なわずに、若者たちにも「『カップヌードル』は今が一番いい」と言ってもらえるようなブランド力を維持することに挑戦しようと考えました。
もう一つは、それとは対照的な「Beyond Instant Foods」というスローガンです。こちらは、世の中にまだ存在しない価値の創造です。インスタントラーメンという産業自体を破壊するような新しいフォーマットを追求するのが、私に課せられた使命の一つでもあると考えました。
最初の5年は、まずは既存事業をしっかり成長させることに注力しました。5年経って経営にも一定の手応えを感じるようになり、「インスタントラーメンを超える何か」を生み出すことを意識するようになりました。それから、創業者精神と企業のパーパス(存在意義)に立ち返って考えたとき、「事業を次の段階へ進化させるときが来た」と感じたのがきっかけでした。
祖父がインスタントラーメンを発明したのは今から68年前です。戦後の飢餓時代、梅田の闇市の屋台のラーメン屋さんには、一杯のラーメンを求めて長い行列ができていたそうです。その光景が原体験となり、祖父は誰でも簡単に作れて、お腹を満たすことができるインスタントラーメンを生み出しました。
それから約70年が経ち、今は飽食の時代です。父が国連WFP協会で飢餓の撲滅に取り組んでいるように、飢えに苦しむ地域への支援は引き続き必要ですが、世界的にはオーバーカロリー、肥満が大きな課題になっています。
いま世界では20億人以上が過体重または肥満とされています。また肥満によって健康リスクが高まり、経済的な損失も生じていて、その規模は総額2兆ドルにのぼるという推計もあります。
感染症を除いた人類の死亡要因の多くには、生活習慣や代謝の乱れが関わっており、その一つとして肥満や内臓脂肪の蓄積があげられます。生活習慣病の多くは、肥満を起点にして進行していくと考えられています。生活習慣が乱れて栄養バランスが悪くなると、内臓脂肪が蓄積していき、「インスリン抵抗性」が生じます。これは膵臓から分泌されるホルモン「インスリン」の効き目が悪くなり、細胞がブドウ糖をうまく取り込めなくなる状態です。
インスリン抵抗性が生じると血圧高値、食後高血糖、中性脂肪高値といった傾向が表れてきて、そして高血圧、糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病の症状につながり、それが心筋梗塞や脳卒中などにつながっていきます。これが病気になるメカニズムです。つまり、肥満は多くの疾病のトリガーになっているわけです。
最初の「生活習慣の乱れ→内臓脂肪の増加→インスリン抵抗性の出現」というところまでは一本道で、そこからいろいろな症状に枝分かれしていきます。ですから、起点になっている肥満の段階で進行を食い止めれば、多くの病気の進行を抑えられるわけです。病気が起きてから対処するのではなく、ドミノの最初の一枚である内臓脂肪の蓄積を防ぐことが、多くの病気を未然に防ぐ効率的な方法になります。これが慶應義塾大学名誉教授の伊藤裕先生が提唱する「メタボリックドミノ」という考え方です。
隠れ栄養失調とフレイルサイクル
──肥満は、万病のもとになっているわけですね。健康へのアプローチの仕方が根源的な印象を持ちました。
安藤 私は大学院(慶應義塾大学大学院理工学研究科)で分子生物学を専攻したので、根本的な仕組みから考える癖があるんです。
肥満とは対照的ですが、私たちが注目しているのが「隠れ栄養失調」です。特に日本の女性には、体型を気にして食事量を減らしている方が少なくありません。カロリーを半分にすれば確かに体型は細くなりますが、それでは必要な栄養素まで慢性的に不足してしまいます。その状態が続けば、健康や美容に悪影響を及ぼし、将来的な疾病リスクも高まります。
実際、ある調査では、日本国民が摂取しているカロリーは戦後直後と比較して、10%以上減少しているとされています。また、20代女性の野菜摂取量は目標値を約4割下回っているとされています。栄養不足のまま働き続けて、本当に高いパフォーマンスを発揮できるのか。日本社会全体の課題だと思います。
もう一つ、日本の超高齢社会に特有の問題が「フレイルサイクル」です。高齢になると食が細くなり、タンパク質やカルシウムなどの摂取量が不足します。その結果、筋力や骨量が低下し、活動量も減る。するとさらに食欲が落ち、栄養不足が進むという悪循環に陥ります。これを「フレイルサイクル」と呼んでいます。こうなってしまうと、さまざまな病気の進行につながったり、ちょっと転倒しただけで骨折して寝たきりになったりすることがあります。寝たきりになると、認知症のリスクも高まるとされています。
フレイルサイクルを1年でも3年でも遅らせることができれば、日本の介護負担や医療費の軽減につながるはずです。「完全メシ」の開発は、こうした社会課題の解決に貢献したいという思いから始まりました。
──隠れ栄養失調とフレイルサイクルは、対処のあり方がそれぞれ異なるように思います。
安藤 「必要な栄養を過不足なく届ける」という基本的なアプローチは同じなんです。
──最適化栄養食については、どのようなエビデンスが示されているのでしょうか?
安藤 1カ月間で40食の最適化栄養食を食べてもらう臨床試験を実施しました。ひと月で大体90回食事を摂りますが、出社している月曜日から金曜日の朝食と昼食を普段の食事から最適化栄養食に置き換えてもらいました。夕食や間食は自由にしてもらい、お酒も飲んでいい。週末は好きに食べても構わないという条件で過ごしてもらいました。
この主な結果をまとめたのが「最適化栄養食の基礎研究」の表です。(表1)これを見ると、男性被験者では84%の方に体重減少が見られました。女性被験者については、普段からカロリーを抑えている方が多いこともあり、顕著な体重変化は見られませんでした。世界共通の肥満度の指標であるBMIについても、BMIが高めの男性被験者では改善が確認されています。
血圧については、高めの層では73%に改善が見られました。内臓脂肪についても、内臓脂肪面積が高めだった被験者の86%で減少が確認されました。仕事のパフォーマンスが上がったと感じた人は、71%にのぼりました(プレゼンティズムのスコアを基にした評価でWLQ-Jが低めの被験者を対象)。普段から朝食を食べていなかったり、栄養バランスが偏っていたりする人もいますから、栄養バランスを整えるだけで、体調やコンディションの改善につながるわけです。
また、最適化栄養食は食物繊維にも配慮しています。臨床試験では、排便回数が週6回以下だった被験者の88%が「排便回数が増えた」と回答しました。そのほか、腸内フローラの改善が確認されるなど、さまざまな良い結果が得られました。
わずか1カ月でこれだけ基礎データが改善したということは、普段から栄養バランスに課題を抱えている人が多いからなのだと思います。ですから、そこを整えるだけで、多くの人の健康改善につながる可能性があります。これは世界で初めて実施した最適化栄養食の臨床試験の結果で、論文としても発表されています。あくまで基礎研究ですが、これらのデータが揃ったことで、「最適化栄養食」事業のコンセプトには大きな可能性があることを確信しました。
.png)
インスタントフードの
概念を変える
──最適化栄養食には、高カロリー・高脂質の代表格だったカツ丼やハンバーガー、ピザなどもありますよね。
安藤 我々がめざしたのは、食欲のままに食べても健康になる世界をつくることです。ラーメン、カレーライス、ハンバーガー、スパゲッティ、牛丼、とんかつ、ピザ、オムライスのようなファミリーレストランで親しまれているメニューも、当社の技術によって最適化栄養食へと生まれ変わらせることができます。
私たちが実現したいことは、好きなものを好きなときに好きなだけ食べることができるエコシステムをつくることです。デリバリーピザや山盛りのバッファローウィングを食べても健康になる世界をつくりたいと思っています。最高にジャンクなのに最高にヘルシーなのが理想ですね。
──ジャンクフードを食べるときの後ろめたさや背徳感から解放されることになる。
安藤 いま世界は、あまりにも不健康になり過ぎています。食欲を自制できる人は限られていると思うんです。それができるのであれば、世界中でこれほど肥満が増えることはないはずです。お金をかけられる人は、カロリーを抑えながらも満足度の高い食事を選ぶこともできるでしょう。けれども、それができるのは一部の人たちです。今の世界では、貧困層ほど肥満率が高い傾向にあります。アメリカでは、肥満でありながら栄養バランスの偏りによって栄養失調の状態にある人が増えていることも問題になっています。
それから「フードデザート(食の砂漠)」という言葉も知られるようになってきました。スーパーの撤退や公共交通の減少によって、生鮮食料品などの日常の買い物が困難になる地域が生まれる現象です。海外では、こうした問題が貧困層の多い地域で深刻化していますが、日清食品の商品はそうした地域にも広く流通しています。インスタントラーメンは世界中の幅広い地域で手に入れることができますから、それが最適化栄養食へと進化すれば、「食の砂漠」に住む人たちが抱える問題の解決に貢献できると考えています。
──2023年2月にイオン、セブン-イレブン・ジャパンなどと共同で「日本最適化栄養食協会」を設立されています。
安藤 祖父の時代から、「インスタントラーメンは食べ過ぎると体に悪い」とか、「カップ麺ばかり食べていてはダメだ」と言われるなど、どちらかといえば健康面で否定的なイメージを持たれがちでした。それに対して、インスタントラーメンの業界団体である日本即席食品工業協会などは「バランスよく食べれば決して問題はない」という啓発活動を続けてきた歴史があります。
もちろん、そうした活動にも大きな意義がありますが、私はインスタントフードを次の次元に押し上げたいと考えています。極端に言えば、「最適化栄養食こそが世界で一番健康的な食べ物だ」と誰もが言うような世界を実現しようと本気で考えています。
また、医師の方に対して実施した調査では、「忙しく、栄養バランスの整った食事を用意する時間の無い人に「完全メシ」シリーズを勧めたいと思いますか」という質問に対して、95・9%の医師が推奨する意向を示しました。(【※1】)最適化栄養食を世界に広げていけば、祖父がつくったインスタントラーメン産業をもう一段進化させられるはずです。
究極的には、世界中のインスタントフードが最適化された栄養設計に置き換わっていけば、インスタントフードこそが最も健康的で、便利かつ安心して食べられる食品になる。そうなれば、インスタントフードの概念そのものが変わるはずです。
それが実現すれば、我々の世代が従来のインスタントラーメン産業をぶっつぶすことになります。しかし、冒頭でお話ししたように、それこそが「破壊の精神」であり「破壊的創造」なのだと思います。この新しいフードエコシステムを構築することが、我々の究極的なビジョンです。
広がる最適化栄養食の輪
安藤 この最適化栄養食は一社だけでは広げていけませんから、日本最適化栄養食協会を設立し、イオン、セブン-イレブン・ジャパン、サントリーホールディングス等にも理事として参画していただいています。こうした企業が集まり、最適化栄養食の新しい基準をきちんと定めていくことが大事だと考えています。
祖父もインスタントラーメンを発明した後、当時の食糧庁からの依頼を受けて「日本即席食品工業協会」を設立しました。当時は質の悪い商品が出回ることもあったため、インスタントラーメンを産業として発展させていくのであれば、業界団体をつくり、きちんとしたルールを整備すべきだと考えたそうです。
私は祖父のカバン持ちをしていたときに何度もその話を聞いていましたから、最適化栄養食という新しいコンセプトをつくったときには、新たな基準やルールを整備する必要があると考えました。同じような考えを持つ学者や医師など、さまざまな専門家と議論を重ねる中で、「日本最適化栄養食協会」の構想が生まれました。理事長には慶應義塾大学名誉教授の伊藤裕先生に就いていただきました。先ほどお話しした「メタボリックドミノ」という考え方を世界で初めて提唱された先生です。今では26社を超える企業が参加しています。
──最適化栄養食を広く普及させるには、信頼を得ていくことが大事になる。
安藤 厚労省が「日本人の食事摂取基準」で定めている33種類の栄養素がありますが、中には摂り過ぎると身体に悪影響を及ぼすものもあります。そうした栄養素については、下限値だけでなく、上限値もしっかり守らなければなりません。しかし実際には、栄養バランスの良さを謳う商品であっても、摂取量の上限が守られていないものが存在します。万一、そうした商品で健康被害が起きるようなことがあれば、最適化栄養食という新しい分野の成長を阻害しかねません。だからこそ、医学的なエビデンスに基づいたルールをきちんと整備することが大切なんです。
最適化栄養食で社会課題に貢献
──今年4月にパブリック・アフェアーズ部門を新設されています。狙いをお聞かせいただけますか?
安藤 最適化栄養食のルールづくりや普及を加速させるためには、協会だけではなくもっと多くの関係者と関わっていく必要があります。そのためにパブリック・アフェアーズの機能を持った新しいプラットフォームをつくりました。
「最適化栄養食事業」に携わるようになってから、この事業は当初想定していた以上の可能性を秘めていることがわかってきました。先ほどお話しした肥満、隠れ栄養失調、フレイルサイクル以外にも、さまざまな社会課題の解決に貢献できると考えています。
例えば、ヤングケアラーやひとり親世帯への食事支援です。普段の食事の一部を最適化栄養食に置き換えることができれば、健康的な食生活の実現に役立つはずです。皆さん忙しいですから、お湯を注ぐだけで栄養バランスが整った食事を簡単に用意できるのは、大きな価値があると思っています。
それから、障害をお持ちの方の中には、調理や外食が難しい場合もあります。また、好きなメニューが偏りがちで、栄養バランスが崩れている方もいらっしゃるそうです。最適化栄養食は、そうした方々にとっても有効な選択肢になります。例えば、コロッケや唐揚げが大好きでそればかり食べていたとしても、それが栄養バランスの整った最適化栄養食であれば、健康的な食生活につなげることができます。ですから、そうした方々に最適化栄養食を提供できる体制を社会として整備できれば理想的だと考えています。
──インスタントラーメンは、災害時には昔から重要な役割を果たしてきました。
安藤 日清食品は、炊き出しのできるキッチンカーを持っています。普段はイベント用として全国のスーパーなどを回っていますが、自然災害が発生した際には被災地の避難所へ迅速に駆け付け、炊き出しができるようになっています。災害が起きて最初に届けられるのは、おにぎりやパン、水などが中心です。その後、温かい食事としてインスタントラーメンが届けられます。
2024年の元日に発生した能登半島地震でも、被災した石川県七尾市から「避難所に炊き出しに来てほしい」と要請がありました。実はその際、初めて「完全メシを持ってきてほしい」という具体的なリクエストがあったんです。私たちも驚きました。「完全メシをご存知なんですか?」と。避難生活が長期化すると栄養バランスが崩れてくるので、避難の初期段階から「完全メシ」を活用したいということでした。その後、「完全メシ カレーメシ」は「日本災害食」にも認定されました。
能登半島地震の際には、自衛隊の方々は本当に不眠不休で復旧支援に当たられました。ゆっくり食事をとる時間もなく、どうしても簡易的なもので済ませることが多いため、1週間もすると口内炎に悩まされる方も少なくないと聞きました。そこで、自衛隊の方々に「完全メシ」3万食を提供させていただきました。ジャンクな味わいでありながら、33種類の栄養素のバランスが整っているということで、若い隊員の方々には特に喜ばれました。これからの防災食は、「長期保存」と「栄養」の両立という観点が重要になってくるのだと思います。
──最適化栄養食はあらゆる場面で活躍できる可能性がありますね。
安藤 この新規事業に取り組む中で、社会のさまざまな場面で貢献できる可能性があることが見えてきました。最適化栄養食は、突き詰めれば食による「人間の安全保障」、あるいは「食のインフラ」を構築する取り組みでもあります。それによって、世界中の人々をもっと健康に、もっとハッピーにしていきたいと考えています。
──日清食品と言えば、ユニークでおもしろいCMのイメージが強いですが、社会貢献への取り組みも真剣ですね。
安藤 テレビCMで面白いことばかりをやっている会社だと思われがちですが、実は真面目なこともいろいろ考えている会社なんだということを、少しでも知っていただけたら嬉しいですね。
■ spin-off interview ■
新設されたパブリックアフェアーズ担当の執行役員に就任した菊地秀行氏に、日清食品におけるパブリックアフェアーズの役割と、それを担うきっかけを伺った。
──菊地さんご自身のキャリアの中で、パブリックアフェアーズが重要だと感じたきっかけはありますか。
菊地 私がパブリックアフェアーズの重要性を感じたきっかけは、今から30年程前に商社で鉄道案件の国際競争入札に携わっていた時、当時の日本は、民間部門と公共部門との連携が弱く、悔しい思いをしたことでした。欧米企業は自国政府の支援を受け、官民連携して動く印象が強かった一方で、日本は今に比べると官民の間で一定の距離がありました。グローバル競争を勝ち抜くためには、業界や立場を超えて連携する必要性を感じました。そのためにも、パブリック側にビジネスマインドを持つ人を増やすと同時に、ビジネス側にもパブリックマインドを持つ人を増やすことが重要だと考えるようになったんです。いま振り返ると、立場や価値観の異なる人たちを橋渡しすることが私のキャリアの中で一貫しているのかも知れません。
──日清食品に入られたきっかけはなんでしょうか?
菊地 一言で言うと、ご縁です。
日清食品が「完全メシ」をローンチした当時、代議士として活躍する商社時代の元同期の秘書をしていた関係で、徳隆さんから直接お話を伺う機会があり、「完全メシ」にかける情熱と可能性に強く惹かれました。実は、日清食品とのご縁はこれだけではないんです。福田貴代子元総理夫人が中心となり、洞爺湖サミットでも活躍した折り鶴を使って東日本大震災の被災者を支援する「希望の鶴」プロジェクトを続けてきました。大震災で日本を支援してくれた海外の方々に対して、「鶴の恩返し」として、東京オリンピック・パラリンピック大会の選手村等に折り鶴を置いてもらう準備をしていたのですが、コロナ禍で叶わず、その代わりにこの活動を応援してくださった東京オリパラ関係者、政治家、報道機関、企業関係者、駐日大使等を数年前に都内のホテルにお招きして、感謝の気持ちをお伝えするイベントを開催しました。世界の平和と未来への希望を願って折られた鶴は国内外に10万羽以上が飛翔しましたが、この趣旨に賛同してくださった日清食品の企業姿勢がとても心地良く、後日「希望の鶴」を徳隆さんにお持ちしたら、カンヌライオンズ(国際広告祭)のゴールドライオンのトロフィーをすっと動かして、飾ってくれたんです。そんな自然体でフラットな徳隆さんのお人柄も素晴らしいと思いました。
安藤様・菊地様傾き補正データJPG.jpg)
──徳隆社長と菊地さんの信念が導いたご縁のようにも感じました。この取材も元々は公研にご登場いただいた橋本久美子元総理夫人から繋がったご縁ですね。実際に入社されて、徳隆社長の印象は?
菊地 先ほどの徳隆さんのお話からもわかるように、百福創業者、宏基CEOそれぞれから鍛えられた「食」に対する真っ直ぐな情熱がある人だと感じます。
それから、人間の本質を考え抜いて、深く理解していると思います。人はおいしいものを食べたいし、他人から強制されて行動変容を起こしたくはないですよね。人の食欲に寄り添いながら、健康に生きるための「食」について真剣に考え続けているんだと思います。
創業者精神を受け継いで中長期的視点から「食」を進化させ続ける、自然体で背筋の伸びた姿勢が好きですね。
──公共性は日清食品の核なのですね。
菊地 そうですね、日清食品の根底に「食足世平」(食が足りてこそ世の中が平和になる)という創業者精神があります。
安藤宏基CEOが2010年以来会長を務める国連WFP日本協会の活動も創業者精神の実践の一つだと思います。「完全メシ」も、人の食欲に寄り添いながら、肥満、低栄養、フレイル、災害食等の様々な社会課題に向き合う手段の一つです。日清食品には創業以来パブリックマインドが通底していて誠実な社員が多く、非常にやりがいを感じます。
──菊地さんがめざすパブリックアフェアーズの姿を教えてください。
菊地 創業者の安藤百福さんが試行錯誤の末、1958年に世界初の即席めん「チキンラーメン」を発明して以来、日清食品ホールディングスCEOの宏基さん、日清食品社長の徳隆さんと3代にわたって育んできた創業者精神と、食を通じて人と社会に真っ直ぐに向き合う企業姿勢を幅広いステークホルダーの方々にお伝えし、理解していただくことが当面の課題です。パブリックアフェアーズは、社会と会社との橋渡し役として、立場や価値観の異なる方々との信頼関係を構築することが求められます。
先にお話した「希望の鶴」プロジェクトには、今年デビュー40周年を迎えたピアニスト西村由紀江さんにも有志の一人としてお力添えいただきました。40年前の1986年、私は76年に一度地球に近づくハレー彗星をオーストラリアで綺麗に見られると聞き、AFS交換留学生として1年間タスマニアにホームステイしました。その76年前の1910年に、創業者の安藤百福さんが誕生されたと知り、勝手にご縁を感じています。これからも良いご縁を紡ぎながら、パブリックアフェアーズを進化させていきたいと思います。
──今後の日清食品が楽しみです。
菊地 有難うございます。せっかくの貴重な機会ですので、健康経営を推進されている法人様や完全メシに興味を持ってくださった個人の方向けに弊社のお問合せ先を掲載させていただきます。宜しくお願いいたします。
![]()
『完全メシ カレーメシ 欧風カレー』は『日本災害食認証』を取得しています
【※1】回答はあくまで医師個人の認識に基づくものであり、推奨理由もその視点でのものとなります。
■調査概要
調査機関:メディカルトリビューン社調べ
調査期間:2025年11月
調査対象:全国の医師(沖縄県・諸島部を除く)976名
調査方法:回答者へ資料を提示した後、カップめん・カップライス・冷凍食品のうち一部の製品を喫食したうえでインターネット調査を実施
使用調査項目:「忙しく、栄養バランスの整った食事を用意する時間の無い人に「完全メシ」シリーズを勧めたいと思いますか。」に対して「とてもそう思う」「そう思う」「どちらかと言えばそう思う」と回答した割合。回答にあたり、食事/栄養摂取に関する指導やアドバイスをしたことがない医師は除いています。
※この記事の内容は2026年7月時点の情報です。



KABUTERIA_1.jpg)
.jpg)
