「脱・コロナ」後の日本経済を考える【吉崎達彦】

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2023年7月号

 近所の工務店にお願いして、家の修繕の見積もりをしてもらった。屋根の点検にはドローンを使う、という点がいかにも今風である。何しろ拙宅は築30年になるので、この辺で塗装のやり直しなどを済ませておきたい。かなりの「モノ入り」になりそうだが、そこはまあ避けては通れないのである。

 問題は似たような人たちが大勢いることだ。なにしろこの3年間は、「他人を家の中に入れる」こと自体が憚られる状態であった。だから工務店さんは大忙しで、人手不足も深刻な様子。「脱・コロナ」に伴う経済活動の正常化は、こんなところにも表れている。

 今年の夏は、青森のねぶた祭りから浅草の隅田川花火大会まで、多くのイベントがコロナ前に戻る。事実、ここ2カ月は人の移動が復活して、新幹線も空の便もいっぱいの状態が続いている。この3年間、特に苦しい思いをされてきた外食、観光、エンタメ関係など対面のサービス業にとっては、文字通り「干天の慈雨」といったところだろう。

 「2023年の日本経済は小吉のおみくじ」──昨年末から、講演会などではこのように言い続けてきた。今はちょうど上半期を終えたところだが、春闘の賃上げ率はびっくりするほど高かったし、インバウンドは毎月190万人ペースで、全国各地で大きな荷物を抱えた外国人観光客を見かける。そして日経平均は3万3000円台と絶好調である。もう少し欲張って、「中吉」くらいに言っておくべきだったか。

 この3年間、家計部門の貯蓄率は20年が11・0%、21年は7・2%、22年は4・1%と高めに推移した。というより、可処分所得を使う余裕がなかった、という方が実態に近いだろう。なにしろ「スーパーに行くのも3日に1度程度で」という暮らしを余儀なくされていたのだから。日本銀行の試算によれば、家計部門に残ってしまった「強制貯蓄」は50兆円程度にのぼるという。その半分でも消費に回れば、今年の日本経済が良くなるのはいわば当然のことであろう。

 しかし年内はそれでいいとして、「平常への回帰」による需要が一巡してしまうと、来年は次なる成長のドライバーが見当たらないことになる。来年の日本経済は「小吉」以下となるのではないかと、今から心配になる。

 コロナ下で採られてきたさまざまな救済措置、例えば中小・零細企業向けの「ゼロゼロ融資」は既に返済が始まっている。今後の正常化プロセスにおいては、ある程度は倒産件数が増えることを覚悟しなければならないだろう。財政も全体として引き締め傾向になるはずだ。今は「強制貯蓄」のお陰で目立たない物価上昇も、来年の賃上げが思わしくないようだと、個人消費の足を引っ張ることになりかねない。

 輸出が伸びてくれればいいのだが、海外経済の動向は不透明である。なにしろウクライナ戦争の動向が見通せない。米中対立も先鋭化しているので、日本企業の対中輸出にも影響が出るだろう。いや、それ以前に「脱・コロナ」後の中国経済が今ひとつパッとしない状態である。

 強いて言えば、国際的なエネルギー価格が下落傾向にあることが好材料である。22年の19・9兆円という貿易赤字は、さすがに当面のピークとなるだろう。24年は鉱物性燃料の輸入金額が減り、家計のエネルギーコストの負担が今年よりも軽くなる。日本経済の交易条件も改善することになる。

 さて、「脱・コロナ」後の日本経済にはどんな処方箋が考えられるだろうか。

 肝心なのは、「人手不足経済」を上手く回していくことであろう。人口減少がいよいよ厳しくなってきた日本経済においては、生産性の低い分野から高い分野への労働移動が欠かせない。このことは賃金の上昇を伴うので、個人消費にはプラスとなるし、経済成長をも加速することとなる。労働移動を円滑にするための規制改革や、働き手のリスキリングなどの努力が欠かせない。

 各企業においては、DXやロボットの導入といった省力化投資が重要になる。それでも「人手不足倒産」のような事態は増えるだろう。ただし先々、人口が増える当てはないので、そこはドライに対応しなければならない。

 人の「量」が減る時代には、「質」を向上させる以外にない。近年の日本経済の生産性は伸び悩んできたので、幸いにも「伸び代」は十分にあると見ていいだろう。双日総合研究所チーフエコノミスト

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