「民主化支援」と「研究力育成」に共通するジレンマ【東島雅昌】

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 2024年8月から2026年1月まで、米国シアトルのワシントン大学とデンマークのオーフス大学で在外研究を行った。国際共同研究の推進と研究ネットワークの構築が最大の目的だったが、それと並んで多くの時間を費やしたのが、独裁体制に関する新書の執筆である。

 新書『権威主義とは何か』(中央新書より上梓予定)では、独裁体制(権威主義体制)の統治がどのように変化してきたのかを、過去30年ほどの社会科学の実証研究を踏まえて論じた。中心となる視点は、民主主義と権威主義が相互に影響を及ぼしながら統治のあり方を変えてきたこと、そして自由と強権がもたらす功罪に対処するため、独裁者が「綱渡りの政治」を展開してきたという点である。古代メソポタミアのアッカド帝国から、トランプ再選後のアメリカに至るまで、古今東西の多様な事例を通じて民主主義と権威主義の「共進化」と「独裁者のジレンマ」を検討している。

 21世紀の独裁体制は、暴力や検閲で恐怖を植え付ける「恐怖の独裁」から、情報操作や懐柔で支持を引き出す「操作の独裁」へと変化している。本書では、その背景に1970年代後半以降に強まった「リベラル国際制約」があると論じている。

 「リベラル国際制約」とは、人権や民主主義を広めるために民主主義国、国際機構、国際NGOが進めてきた活動である。人権侵害への監視や国際的非難、経済制裁、選挙監視、国際人権条約の普及などは民主化を促した一方で、独裁体制の自由化に対する「免疫力」を高め、「民主主義を装う権威主義」を生み出す一因にもなった。

 その中でも、国境を越えた人権改善圧力のネットワークを形成した重要な主体が国際NGOである。ヒューマン・ライツ・ウォッチやアムネスティ・インターナショナルなどの団体が独裁国家における人権侵害を詳細に報告するようになったことは、独裁政治の「ソフト化」を促す重要な背景となった。

 しかし、国際NGOもまた組織である。寄付を集め、独裁国家で活動を継続する必要がある。ある研究によれば、その組織としての合理性は結果として民主化圧力を弱める方向に働いた。寄付獲得競争が激化すると、反体制勢力への支援よりも、「良き統治」の促進や社会的多様性に応じた政治的代表性の向上といった、定量的に成果を示しやすく当局の反発も招きにくい民主化支援へと徐々に「飼い慣らされて」いったのである。

 筆者が在外研究を行った米国とデンマークでは、アカデミアの労働市場は対照的である。米国では、一部の大学を除けば博士号を取得した大学にそのまま就職することはほとんどなく、研究者市場はきわめて流動的だ。一方、オーフス大学をはじめとする北欧の大学では、学部から教授職まで同じ大学で過ごす研究者も珍しくない。しかし、両者に共通しているのは、潤沢な研究資金を後進の育成に継続的に投資し、政治学分野で世界的にインパクトのある研究を生み出してきた点である。だからこそ、トランプ政権による研究資金の凍結は、米国の大学院教育と研究活動の基盤に深刻な影響を与えている。

 翻って、日本はどうだろうか。国からの研究資金をめぐっては、「数えやすい」指標の提示が重視され、それに適応するため、長期的な研究力基盤の育成よりも、短期的な業績の数合わせを目的とした研究者招聘などに追われる場面も少なくない。民主化支援と同様に、研究力の育成においても、何が長期的に重要なのかを改めて問い直す必要があるのではないだろうか。

東京大学教授

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