2月28日の米国とイスラエルによるイラン攻撃は、イランによるホルムズ海峡の事実上の封鎖と、米国による逆封鎖によって膠着状態となり、停戦交渉の可能性は高まりつつも、双方が「高い球」を投げることで、相互に要求を受け入れることができず、交渉のテーブルに着くこともできない状況にある。
この状況を受けて、世界はペルシャ湾岸からの原油を得ることができなくなり、原油価格は高騰し、戦略的備蓄の少ない国はすでにガソリンや航空燃料、また石油化学製品の原料となるナフサ不足に悩まされている。こうした世界経済を人質に取った、米国とイランの睨み合いはいつ解消するのか、日本を含む多くの国が気を揉んでいる。
トランプ大統領は常々、米国は原油を自給できる状況にあり、ホルムズ海峡が封鎖されても困らない、と強がるが、それは空元気でしかない。というのも、原油の問題は量の確保だけでなく、価格の問題があるからだ。原油の価格は世界の総需要と総供給量の関係で決まる。そのため、国内で自給できたとしても、価格を制御することはできず、米国内のガソリン価格は高騰する一方であり、「戦争をしない大統領」を標榜していたトランプ大統領が長期的な戦争に足を踏み入れていることも含め、支持率は下がる一方となっている。
元々は、ベネズエラでの成功体験と、イスラエルによる楽観的な見通しに基づき、この戦争が早期で終結することを前提に米国は戦争に突入した。最高指導者であるアリ・ハメネイ師を殺害することで、イランの市民が立ち上がり、体制転換をするというシナリオを想定していたと思われるが、それはイランの政治体制の堅牢さを過小評価した結果であった。さらにトランプ大統領にとっての誤算はホルムズ海峡の事実上の封鎖であった。イランが禁断の手段であるホルムズ海峡の封鎖を実施したことで、米国は後手に回ることになる。
というのも、地理的にホルムズ海峡に面するイランは、そこを通航する船舶に対して攻撃をすると宣言し、実際に数隻のタンカーを攻撃することで、ほとんどの船会社は海峡を通過することをリスクとして捉え、保険会社も保険を付与できない状況を作ることができる。そのため、イランにとっては極めて低いコストで事実上の封鎖を維持できる。他方、米国が実施する「逆封鎖」はホルムズ海峡とは比較にならない広範囲を封鎖せざるを得ず、そのために十数隻の軍艦を派遣しているが、それでも全ての船舶を止めることはできず、その封鎖線を維持するコストも膨大なものになっている。
トランプ大統領は、それでもイランへの圧力をかけ続けることで核開発を巡る交渉を有利に働かせることができると考えているが、イランからすればホルムズ海峡を握っている限り、容易に妥協する気配はない。また、仮に米国との交渉が実現したとしても、米国と共に戦うイスラエルが停戦を維持する保証がない限り、ホルムズ海峡を開放する意味はない。イランは自らの安全のために海峡封鎖を続けることは間違いない。
トランプ大統領やその支持者は、自らの行為を「5次元のチェス」だと語ることが多い。しかし、やっていることは自分が持っている札が弱いにもかかわらず、強気で押して相手が降りて妥協することを期待するポーカーである。トランプ大統領は、次の手として米海軍を派遣してタンカーを護衛すると発表した。しかし、米軍による護衛にもかかわらず、イランはタンカーに対する攻撃を継続したため、トランプ大統領は早くも護衛の停止を宣言した。トランプ大統領のポーカーの勝ち筋は見えてこない。
東京大学教授