議員定数の削減は何のため?【鎌原勇太】

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 2025年10月の自民党と日本維新の会による連立合意以来¹、両党が進める衆議院の議員定数削減は、国会や世論において議論を巻き起こしている。特に、日本維新の会は、定数削減を政治改革の一つとし、議員自ら「身を切る」姿勢を重視する(参考文献①)²。他の政党も、議論の進め方等に関して批判はしても、定数の削減自体には賛成するか、またはその議論を強く否定していない(参考文献②)。翌月の世論調査でも、60%を超える国民が、定数削減を支持しているようである(参考文献③)。2020年のイタリアでも、無駄な歳出の削減といった動機を背景に、衆議院に当たる下院だけで230も定数を削減した(参考文献④, p. 1)。

 このように、日本を含め多くの国で、定数削減を改革の手段として「良い」ものと考え、実現に動いてきた。しかし、そもそもなぜ議員定数を削減する必要があるのだろうか。議員定数の規模やそれがもたらす政策的効果は、政治学や経済学等で長く研究されてきた。そこで、本稿では、先行研究を紹介するかたちで、政治家や世論の間で議論されている議員定数削減の効果や問題点を明らかにしたい。

議員定数は人口で決まる?

 議員定数の規模を決める要因の一つとして、人口規模が考えられる。人口が多ければ議員の数は多くすべきで、少なければ議員の数は少なくすべきであるという考えはわかりやすい。特に、政治学や経済学では、最適な議員定数(A)が人口(P)の立方根になるという「立方根の法則」(cube root law; A=∛P)というものが古くから知られている(参考文献⑤)³。

 この法則の妥当性に関しては議論があるものの(参考文献④)、2025年11月1日時点での人口推計を用いた場合、立方根の法則に基づく最適な衆議院の定数は492・7人と算出される⁴。つまり、現在の衆議院の定数465人でもかなり少ない。また、衆参合わせた両議院の議員定数に関して2017年の人口データを用いた研究では、日本の1議席あたりの人口は、二院制の61カ国中10位の多さであることからもわかるとおり(参考文献④, Figure 1, p. 2)、国際比較の観点からも国会議員は多くはなく、むしろ少ない。

議員定数を減らすと「無駄」は減る?

 本稿の冒頭でも述べたとおり、議員定数削減の動機は、「まずは議員から身を切るべき」という改革志向であり、それと連動した「政府支出の無駄の削減」である。特に、日本の場合、報道やSNS等を見てもわかるとおり、比例復活によるいわゆる「ゾンビ議員」や議会での「居眠り議員」、様々な問題を起こした議員の給与や歳費は無駄であり、物価高で自分達有権者も苦しんでいるのだから彼ら・彼女らの議席を削減すべきであるという考えが根底にあるといえよう(例、参考文献⑧)。

 それでは、議員定数と公的支出(public spending)との間にはどのような関係があるのだろうか。本稿では、国会と地方議会を区別せずに、議員定数と公的支出との間の関係について、先行研究で明らかになっていることを紹介する。政治学や経済学では、議員の数が増えるほど政府支出が増えるという「1/nの法則」(law of 1⁄n)という仮説が知られている。議員には、自分の再選のために、高速道路建設といった公共事業等のかたちで、より多くの公的支出を自分の選挙区に配分したいという政治的な動機があると想定する。したがって、この支出を合計すれば、国家全体の支出も増える。つまり、選挙区や議員の数が増えるほど、国家全体の支出が非効率的となり、総支出が増えるため、国民全体が被るコストも増えるとされる(参考文献⑨)⁵。

 しかし、30の研究を対象としたメタ解析によると、「議員の数が増えるほど政府支出が増える」という証拠は得られなかったばかりか、より適切な手法を用いた三つの研究に限定した場合、「議員の数が増えるほど政府支出が減る」というように、1/nの法則に反する結果であった(参考文献⑪)⁶。つまり、議員の数を減らすことで無駄な支出を減らしたとしても、政府支出が減るとは限らない。そればかりか、行政府や官僚を統制するためには、より多くの議員が必要であることを示唆する分析結果も報告されている(参考文献⑩)⁷。多くの問題を抱える日本において、議員定数を減らすことで、かえって国会の運営能力や行政府・官僚に対する統制能力が低下してしまう可能性が示唆されよう。

 さらに、国民が考える「無駄」な議員を減らすことで、私たち国民自身が民主主義に関して失うものはないのだろうか。

 社会的にも学術的にも、議員の定数が多いほど、国民の声が届きやすくなったり、女性候補者が当選しやすくなったりと、社会の多様性が確保され、議会の代表性が高まると考えられている(参考文献⑫と⑬, pp. 10-11)。したがって、議員定数の削減により、議会からその能力だけでなく多様性も失われてしまう。

 連立に向けた協議の際に日本維新の会共同代表の吉村洋文は、衆議院の比例区定数を対象とした定数1割削減をめざした(参考文献⑭)⁸。自公連立を離脱した公明党代表(当時)の斉藤鉄夫は、Ⅹで、小選挙区比例代表並立制の理念を
 
①“民意の集約”を果たす「小選挙区」

②小選挙区だけではすくい切れない“民意の反映”を目的とする「比例区」
 
と定義し、多様な民意を反映する比例区のみの定数削減をめざす与党の姿勢を批判した(参考文献⑮)。

 このように、日本の議員定数削減に関しては、斉藤発言にも表れているように、選挙制度の性格の違いに関する検討を忘れてはならない。小選挙区制に限らず、国土をいくつかの選挙区に分割した選挙制度で選出される議員は「地域の代表」であり、参議院比例区のように全国1区の比例代表制で選出される議員は「政党の代表」といったように、選挙制度には議員の性格の違いが反映されている。衆議院比例区のように、地域ブロックや都道府県等を単位とした比例代表制選出の議員は、地域の代表でもあり、政党の代表とも考えることができる(参考文献⑯, pp. 119-120)。

 それだけでなく、政治学者のレイプハルトが示したように(参考文献⑰)、小選挙区制と比例代表制は、次の二つの民主主義それぞれを構成するものと考えられている。一方で、対立する政党間での競争により、過半数を得た政党に権力を集中させるような小選挙区制や単独過半数内閣といった制度によって特徴づけられる多数決型民主主義(majoritarian democracy)がある。他方で、政党間での交渉や妥協により、複数の政党間で権力が共有されるような比例代表制や連立内閣といった制度によって特徴づけられる合意形成型民主主義(consensus democracy)がある。この類型は、斉藤発言における現行選挙制度の各々の理念とほぼ同様であり、日本がめざすべき民主主義や国会の在り方を考えるうえで示唆を与える。

 議員定数の削減が無駄な政府支出の削減につながるとは必ずしもいえない。加えて、英国のサミュエル・スマイルズ(1812~1904)の言葉を引くまでもなく、政治や議会は「国民を映す鏡」である。国民も仕事中に居眠りするだろうし、問題を起こす人もいるだろう。そうであるならば、同じような問題を起こす議員も少なからずいるのは当然である。そういった議員を「無駄」であるとして定数を減らすのではなく、こういった議員の存在は民主主義の避けられないコストと考え、次の選挙で投票しない・当選させないといった発想の転換が必要である。コストカットの観点から「無駄」と考える議席を削減することで私たち国民が失ってしまうものは何かを考え、さらに国会議員は地域の代表なのか政党の代表なのか、日本の民主主義や議会は競争的なのか交渉的なのか、それともこれらの中間なのか─日本の在るべき国会の姿を真剣に議論するときなのではないだろうか。

 

 ¹日本維新の会は、大臣として政権を担う責任を共有していないため、政治学的には、連立ではなく閣外協力であるといえよう。
 ²本稿では、参考文献や参考資料については、紙幅の都合上丸数字で示すに留める。文献や資料の詳細については、筆者のウェブページ(https://sites.google.com/site/yutakamaharapolisci/koken)を参照してほしい。
 ³ここでの議員定数は、二院制の場合は下院、つまり日本では衆議院の定数のみを対象としている。
 ⁴2016年の法改正以降、議員定数の配分と区割りの基準となる人口が、総人口から「日本国民の人口」に変更されたことを踏まえ(「衆議院議員選挙区画定審議会設置法及び公職選挙法の一部を改正する法律」(2016年5月27日公布・施行)、参考文献⑥を参照)、総務省統計局(参考文献⑦)の日本人人口の推計値である1億1963万6千人を用いた。
 ⁵厳密には、ここでのは選挙区の数であり、選挙制度は小選挙区制度を想定している。選挙区の数(n)が増えれば、その分各選挙区が負う税負担は相対的に減り(1/n)、かえって社会全体での支出が増えてしまうという社会にとって非効率的な誘因が働く。なお、現在の1/nの法則は、選挙制度とは無関係に、本文で説明したように「議員の数が増えるほど政府支出が増える」と解することが一般的とされる(参考文献⑩, pp. 269-270と⑪, p. 776)。
 ⁶分析対象の議会は、地方議会も含む。
 ⁷分析対象は、フィンランドとスウェーデンの地方議会である。
 ⁸のちに、施行後1年以内に与野党で1割削減を目標とした定数削減に関する議論の決着がつかなければ、小選挙区25・比例区20を削減する法案が、臨時国会に提出された(参考文献①)。

横浜国立大学大学院都市イノベーション研究院 准教授

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