韓国の核保有論から考える
抑止のあり方【秋山信将】【佐藤大介】【竹内舞子】

B!

『公研』2023年10月号「対話」 ※肩書き等は掲載時のものです。

 

北朝鮮の核の脅威に圧迫され続ける韓国で、

近年核保有論が高まりを見せている。

現実味はあるのだろうか?

 

秋山氏×佐藤氏×竹内氏

 

一橋大学国際・公共政策大学院長 秋山信将

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共同通信編集委員兼論説委員 佐藤大介

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Compliance and Capacity Skills Internationalアジア太平洋 CEO 竹内舞子

 

 

賛成が約7割を超える

佐藤 近年、韓国では北朝鮮による核の脅威の高まりを背景に、自国でも核を持つべきだという「核保有論」が高まっています。世論調査では6割から7割程度が賛成の意見を示すなど、非常に高い数字が出ているのです。私は先日、この核保有論について韓国で取材を行ってきましたが、保革を超えた核保有論の広がりには驚きました。

 そもそも、韓国では昔から大統領選の争点となるなど、核の保有がずっと議論されてきましたが、今年の1月には尹大統領が戦術核の使用について言及するなど、現実味を増しているようにも見えます。

 そこで今回は、「韓国の核保有論から考える抑止のあり方」をテーマに、防衛関係がご専門の秋山先生と竹内さんとお話していきたいと思います。まず、核軍縮や軍備管理がご専門の秋山先生は、韓国のこの状況をどうお考えでしょうか?

秋山 この約7割という数字の高さを考えるときに、当然ながら韓国の安全保障環境を見ていく必要があります。やはり北朝鮮の核能力が確実に向上しているという点、そしてその核を放棄する見通しがないだろうという現状は韓国にとって大きな脅威です。

 2022年の4月に北朝鮮は戦術誘導兵器、つまり事実上の戦術核の発射テストを実施しました。通常戦力の劣勢をカバーするために、朝鮮半島における地域レベルの核兵器の使用を本気で戦略の中に組み込み始めていると見ることができます。

 佐藤 竹内さんは国連の専門家パネルのメンバーとして北朝鮮への制裁状況なども監視されていました。最近の北朝鮮の核をめぐる状況はいかがでしょうか?

竹内 最近の北朝鮮の動きでいうと、北朝鮮として初となる戦術核攻撃潜水艦の進水式が9月6日に行われたとの報道が朝鮮中央通信よりありました。水中からの戦術核攻撃が可能になったという主張です。これは、北朝鮮が示す核戦力の残存性を高めるための戦略に沿った動きで、このようなかたちでも北朝鮮は核攻撃能力の存在をより積極的に開示しています。

秋山 脅威が確実に高まっていますよね。この高まる核の脅威に対して信頼のおける抑止力は何なのかと考えた時の核保有賛成約7割という数字だと思います。特にソウルは地理的に北朝鮮に隣接していますし、事あるごとに「ソウルを火の海にする」と北朝鮮に威嚇をされています。また、アメリカが保有する核のアセットは戦略レベルのものしかないので、朝鮮半島有事など局地的な核のシナリオでは本当に信頼できる抑止力なのか不明です。ならば韓国が自分で持つしかないだろうという世論になるのだと思います。

 ただ、「だったらすぐに核を持とう」と短絡的な結論には韓国も至っていません。内容を見ると非常にナイーブな議論であると言えます。

竹内 大統領の登竜門であるソウルの呉世勲市長も保守派の論客ですが、彼も核保有論はタブー視せず活発な議論をすべきだと述べています。今後も韓国ではこの議論は続きそうですね。

佐藤 いま保守派の論客というお話が出ましたが、ご承知の通り韓国には保守と革新という政治的立場があります。従来だと保守陣営のほうが核保有論を強く支持する傾向がありましたが、今はそれが変わってきているように感じます。というのも、「リアルメーター」による今年4月の世論調査では核保有論に56・5%が賛成となっていますが、革新派からの支持がないとここまで高い数字は出ないと思うのです。

 先日、世宗研究所の鄭成長さんという北朝鮮の専門家にお話を伺ってきました。彼は革新寄りの中道の立場ですが、核保有論に関しては積極的に賛成する考えを持っています。彼も北は核放棄をする気がなく戦術核攻撃も想定した段階に入っているので、自国を守るための戦術核武装を進めるべきだと話していました。現在の核保有論が保革を超えて賛成の層が広がってきていることの表れです。

 

 

韓国が核を持つ現実味は?

佐藤 では、客観的に見て韓国が核保有できる現実味はどこまであるのでしょうか。まず、竹内さんいかがでしょうか。

竹内 これは政治的コストと技術的コストという両面から見ていく必要があります。さらに、より細かく見ていくとアメリカの支持がある場合とない場合の両方で考えなくてはいけません。その有無で状況が大きく変わってきてしまうのです。

佐藤 現在、アメリカ在住の竹内さんから見て、アメリカは韓国の核保有論をどう受け止めていると感じますか?

竹内 これまでは韓国の核保有論に関してアメリカの学者の間では「既存の核抑止と米韓関係を振り切ってまでやるにはコストが高すぎる」という意見が主流でした。ところが今年に入ってからはその風向きが変わりつつあり、「現実的には難しいと言えるが、議論に値すべきものだ」という意見が見られるようになりました。このアメリカ国内での韓国核保有論に関する議論の変化は、非常に興味深いものですね。

 ではそれを踏まえた上で、アメリカの支持がある場合韓国は核を持つことができるのか。政治的にも技術的にも可能だと私は思います。ただ、この米国の支持のもとで核保有というのは、想定できる範囲で最も極端な例で、政治的な問題点も非常に多いです。

 一番は核保有のドミノを誘致するかもしれないという懸念です。仮にアメリカの支持のもとで韓国が核保有を成し遂げたとすると、アメリカは次にヨーロッパなど他の地域でも核保有を認めざるを得ない状況になります。さらに台湾には核を配備するのか、近隣の日本も認めるのか、と一度ドアを開けてしまうと、東アジアに留まらない先の見えない核のドミノが起きる可能性があるのです。また、技術的に可能と言っても韓国は核保有にあたりNPT(核兵器不拡散条約)を脱退することになるでしょう。

 

 

米国支援の有無にかかわらず現実味は低い

佐藤 アメリカが認めていない場合はいかがでしょう?

竹内 極めて厳しいものになると思います。アメリカの支持がないまま強行的に核兵器開発をする場合、韓国は失うものがあまりにも多い。その一つが米韓同盟を失うリスクです。そして、NPTを脱退し核兵器開発を行うことで制裁措置がなされるリスクです。NPT第10条に基づく脱退は、北朝鮮の核の脅威が自国の至高の利益を危うくしている異常事態だということを理由に宣言されるでしょう。しかし、NPTから脱退すれば、今度は韓国が現在の北朝鮮と同じ立場に陥ることになります。これは韓国にとって非常に厳しい状況です。アメリカとの同盟喪失だけでなく、国連安保理の制裁下に置かれることは耐えられないでしょう。

 さらに、中国も積極的に制裁措置を行うことが予想されます。2016年に韓国がTHAADミサイル(アメリカ陸軍が開発)を配備したことへの制裁として、中国は貿易の制限を行いましたが、核保有となるとこれどころではない強い制裁がなされるでしょう。これは米国の同意のもとでも、起きる可能性があります。

 では、技術的には支援なしで核保有が可能なのか。核兵器開発に必要な技術は核物質の製造をはじめとして兵器の設計など多岐にわたり、韓国が現在どの程度の技術を持っているのか定かではありませんが、韓国はNSG(原子力供給国グループ)に加盟しているので、核兵器ではない核関連の物資を製造する能力を有する国としてNSG加盟国間の意見交換に参加しています。

 極論ですが、仮にもう一度秘密裏の核開発を進めるとなると、NSGの加盟国であることや国際的な学会への参加などをフル活用して、北朝鮮が過去にやったように海外から少しずつ機材や情報などを調達し、10年計画で核兵器の製造準備を進めるでしょう。こうでもしないと韓国は独自に開発を進められませんから。

 そして秘密裏に、ある程度技術力を高めたところで、核の保有を宣言すると。まさに北朝鮮と同じ道を辿らなくてはいけません。こうなると韓国を取り巻く安全保障環境は極めて脆弱なものとなるので、北朝鮮への抑止力も弱まります。そういう意味でも非常に難しい選択といえるので、アメリカの支持の有無にかかわらず、客観的に考えて核保有の現実味は低いのではないでしょうか。

佐藤 現実的に見ると今の段階では非常に難しいものがありますよね。これは秋山先生も同じご意見だと思いますがいかがでしょうか?

秋山 そうですね。技術的に見ると、核兵器には濃度90%以上の高濃縮ウランが使用されますが、韓国は現在ウランの濃縮技術を持っていません。2000年に韓国はIAEAに黙ってウランを濃縮する試験を行って、大目玉をくらったので濃縮活動をそれ以降はやっていません。

 また、韓国は、パイロプロセシングという再処理技術を何とか実用化したいと動いていますが、これは、プルトニウムを分離した状態では扱わないことが特徴です。したがって、技術的には韓国が独自に核分裂性物質を製造することは不可能ではありませんが極めて困難です。アメリカからプルトニウムなどを供給してもらわないと、現段階では自力で核兵器はつくれません。

 そして、そもそも韓国が独自に核を持つことが、アメリカに利点があるのかも疑問です。自分たちの裁量を失ってまでも、韓国の核兵器製造能力向上のために手伝いをするとは到底考えられないのです。朝鮮半島で同盟国が勝手に起こした核戦争に巻き込まれることをアメリカは望むでしょうか。

 もし、アメリカが「自分たちには関係ない」という態度を取るとすれば、韓国は北朝鮮と単独で戦わなくてはいけない。アメリカは、核の決定権を絶対に離さないでしょう。そうなると、北朝鮮のいわゆる戦術核の脅威が高まったとしても、韓国単独で決定権を持つ独自の核戦力を保有するよりも、確実にアメリカが関与する米韓での核共有のほうが現実的で、核抑止の信憑性の確保により有効だと思うのです。

 

南北統一への関心低下が背景に

佐藤 やはり政治的にも技術的にも現段階で韓国が独自の核を持つことは難しいということですね。

 ただ、ここで一つ考えるべきなのが、先ほどから出ている韓国国民の7割近くが核保有を支持しているという現状です。現実的には不可能だけど、韓国世論は高まっていて、大きなギャップが生まれています。この国民感情に韓国政府はどう対処すべきでしょうか?

秋山 核保有論の高まりの背景には、現政権へのいら立ちがあるのではないでしょうか。現に北が核を放棄することがない状況で、そこにどう対応していくのか。はっきりとした見通しを示せない政府への不満が、人々を核保有に掻き立てるのではないでしょうか。

 また、韓国社会において南北統一への熱気が下がっていることも背景にあると思います。先日、韓国統一省が主催するコリア・グローバル・フォーラムに参加してきました。非常に興味深かったのが、議題に北朝鮮の人権問題が入っていた点です。従来、統一省のアジェンダに人権が含まれることはなかったと聞いています。

 しかし、今の統一省は北朝鮮の人権問題を前面に掲げています。これはとても大きな変化ですよね。政府においては北朝鮮との対話の窓口の役割を担ってきた統一省までもが現政権ではそういう姿勢を取るということは、ある種統一よりも現実の安全保障上の脅威への対処や原則をより重視する方針への転換と捉えられます。韓国世論の統一への冷ややかな姿勢を感じた出来事でした。

 竹内 私も昨年9月に開催された済州フォーラムという外交関係の大きなイベントで現政権の変化を感じました。私は北朝鮮の制裁に関するパネルに参加したのですが、そもそも、それ以前の政権だったら国連制裁推進派の私が呼ばれることは考えられなかった。さらに、登壇したパネリスト全員が北朝鮮への制裁強化を支持する人でした。

 佐藤 尹政権になって統一省は大きく性格を変えましたよね。文政権時の統一省は、いわば北朝鮮に対しての融和的政策の象徴でした。

 それが今や厳しい姿勢で統一を考えるスタンスを取っていて、統一相にも北朝鮮の強硬派として知られる金暎浩氏が起用され、タブーとされてきた人権問題を取り上げるようになりました。世論でも若者を中心に統一への関心はどんどん薄れているように感じます。それよりもやはり経済への関心が強い。いま統一に踏み切ったら経済がさらに不安定になるのではないかという恐怖心が、今の韓国では強いと思います。

 

 

根強く残る米国への不信感

佐藤 韓国の場合は与野党を超えて、自分の国は自分で守るという自主国防の考えが非常に強く存在します。革新派の文政権時にもTHAADミサイルが配備されました。日本だと革新は何となく平和志向で軍備削減をめざすというイメージがありますが、韓国には与野党、そして保革を越えた自主国防の意識が強く存在します。その延長線上にあるのが核保有なのではないでしょうか。

 そこで考えたいのがアメリカに対する不信感です。仮に北朝鮮がアメリカ本土にまで届くICBMの開発を完了させたとします。その状況下で北朝鮮が韓国に武力行使した場合、アメリカ本土が直接攻撃されるリスクを冒してまで韓国を守ってくれるのかどうか。そこに対する不信感が韓国には根強く存在します。これは最近の様々な世論調査を見ても明らかです。この不信感の裏腹として高まっているのが、韓国で独自の核を持とうという核保有論だと思うのです。

 そして、高まる核保有論を抑えるように今年4月に米韓でワシントン宣言が出されました。この宣言の特筆すべき点として、米韓両国の拡大抑止協議体とする核協議グループ(NCG)を新設することや、米原子力潜水艦の韓国派遣を約束し、北朝鮮への抑止力をより可視化したことなどが挙げられます。そして、韓国はそれに応えるように、NPT(核兵器不拡散条約)と原子力協定を今後も順守することを示し、独自の核を保有しないことを再確認したのです。

 しかし、ワシントン宣言で韓国の世論が収まるかというと、必ずしもそうではないはずです。それほどアメリカへの不信感は根強くあります。この点、竹内さんはどうお考えでしょうか?

 

 

極めて健全な不信感

竹内 私は韓国が持つこの不信感は極めて健全なものだと考えています。朝鮮半島で何かあっても米国は状況を見て対処するので、介入してくれないのではないかと。このような可能性を韓国世論が冷静に認識しているからこそ、不信感が生まれてくるということです。また、アメリカも韓国側の不信感を当然わかっていて、どうにか対処しようと努力した結果が今回のワシントン宣言なのではないでしょうか。

 しかし、おそらくですがアメリカが原子力潜水艦の定期的な派遣を約束したとしても、実際には韓国に寄港して物資などを補給するだけになるでしょう。そういう意味でも、このワシントン宣言の真の狙いは、アメリカが東アジアの情勢へのコミットメントを明確に示したという点にあるのではないでしょうか。

秋山 まさに竹内さんのご指摘の通りですね。ワシントン宣言は様々な点で、韓国の世論を抑えることを狙っていました。まずは核協議グループの新設です。元々、米韓の間には実際の地上戦を想定したような様々な協議がありましたが、そこに北朝鮮の核兵器開発状況を踏まえて、改めて核のシナリオをしっかり強調した新しい協議グループの設立をワシントン宣言で決定しました。

 もう一つの米原子力潜水艦の釜山への寄港ですが、正直言ってこれに軍事的な合理性はありません。戦略原潜は、居場所を知られれば敵の追跡を許すことになり残存性に対するリスクが高まるので、寄港のために浮上して姿を見せることは望ましくありません。しかし、あえて戦略的アセットのコミットを可視化させることで、米国が韓国の世論に安心感を与えるべく配慮したという狙いがあったのでしょう。

 では、これで永続的な安心感に繋がるかといったらそんなことはありません。実際に議論になっていますが、もし北朝鮮における核戦力の多様化や戦術核への対応として、アメリカが戦略レベルでの能力による抑止のアセットしか持たず、地域レベルの核に対して適切な対応ができない場合はどうなるのかと。アメリカでは潜水艦発射巡航ミサイルを開発するかどうか議論になっていますが、韓国としては地域レベルの核に対するエスカレーションラダーが計算できるような戦力を持ってほしいというのが本音なのではないかと思います。

 

 

確実に高まる北朝鮮の核能力

佐藤 韓国での核保有論について議論をしたとき、北朝鮮の核能力をめぐって意見がかみ合わないと感じることが多々あります。人によって北朝鮮の核能力に対する認識には差があるように思うのです。客観的に見て、北朝鮮の核能力は現在どのくらいでしょうか?

秋山 一つが、外形的に見えるものからの予想だと、北朝鮮のミサイルはすでに実験段階を越えて運用の訓練に入っていると言えます。ミサイルの飛距離・飛行経路や失敗の少なさなどを鑑みると比較的高い信頼性を獲得しているように見えます。

 現時点でまだ正確な予想が難しいのが、核弾頭をミサイルに搭載するための小型化技術の精度です。小型化された弾頭をちゃんと爆発させることができるのか。仮に、今後核実験を北朝鮮が遂行しても、それが何の実験なのかは我々が正確に評価できるかわかりませんが、こうした我々に対して技術の到達度をデモンストレーションすることが目的の一つとなるでしょう。

 次に、核兵器の数の問題です。今は寧辺なども含めて核施設はいくつか稼働していると見られていますが、核弾頭は2、3ダースあると考えられています。ただ、これだと対米抑止と地域レベルでの核使用を想定した場合、数としてまったく不十分です。

竹内 秋山先生のお話に補足をさせていただくとすれば、まず日本政府は5、6年前から防衛白書に北朝鮮は日本を射程とする弾道ミサイルへの搭載が可能な核弾頭の開発を完了している旨の記載を入れています。北朝鮮はすでに日本を狙うミサイルに搭載できる程度の核弾頭の小型化に成功しているということです。さらりと書かれていましたが、これって結構衝撃的なことなんですよね。北朝鮮の技術が日本にとって極めて脅威のレベルが高いところまで向上しているということです。

 また、核兵器を搭載するミサイルに関する技術の向上も目覚ましいものがあります。開発が難しい技術の一つである再突入技術(大気圏に再突入する際に生じる高熱と圧力から核弾頭を守る技術)について、北朝鮮は獲得済みと主張していましたが、昨年ごろから海外の専門家もその可能性を示唆しています。

 私がまだ国連にいた2017年に、北朝鮮の技術進歩の速さに驚いたのを鮮明に覚えています。それ以前の2016年には実験時にまだ弾頭をノドンミサイルのエンジンを使って火炙りにして再突入時の高温状態を再現していました。火炙りと再突入時の熱量はまったく異なるもので、当時はパフォーマンスとしか思えないような低い技術レベルでした。なので、専門家の間でも再突入技術の開発には時間がかかるだろうという見方だったのです。しかし、現在ではその見方は大きく変わっています。また、再突入技術だけではなくエンジンに関しても2017年のICBM火星15の発射では大幅に飛距離を伸ばし、驚くような技術の進歩が見られました。

 核兵器の開発に関して言えば、イールド(出力)もTNT換算(爆薬の爆発などで放出されるエネルギーを爆薬の一種であるトリニトロトルエンの質量に換算する)で100キロトンを超えたことが2017年9月の実験で確認されています。これは水爆実験といわれています。それ以降は実験を行っていませんが、北朝鮮は自分たちが必要なレベルの核搭載ミサイルの開発において、着実にゴールに向かっています。この5年間で現実味のあるレベルまで技術がぐっと進歩したと思います。

 一つ秋山先生にお聞きしたいのが、北朝鮮の核ミサイルが最大でも100キロトンだとして、このミサイルに対してどう抑止を発揮していくかという点です。仮にアメリカが韓国にミサイルを配備する場合、INF条約(中距離核戦力全廃条約)は2019年に失効したので、韓国に中距離核ミサイルを配備し、有事の際に北朝鮮の核使用への報復として発射することは可能です。しかし、アメリカの核ミサイルは数百キロトンを超えるので、出力に大きな差がある核ミサイルを発射した場合、北朝鮮にとっては非対称的な攻撃となり、紛争をエスカレートさせる要因になってしまうでしょうか?

 秋山 アメリカと北朝鮮の抑止の関係において、アメリカは朝鮮半島有事が米国本土にまで波及することは回避したいという前提があります。北朝鮮が朝鮮半島あるいは地域レベルの射程で核を使用することを想定した場合、今アメリカが持っている戦略核で報復をしたら、北朝鮮にとっては存続の危機となる非常に大きな打撃となります。

 そうなると北朝鮮は、後は野となれ山となれで米国本土への核攻撃をしかねない。しかし、北朝鮮を滅ぼすことの代償が米国本土への核攻撃というのは、アメリカにとってまったく割に合わないですよね。そうなると、米国は紛争を地域レベルで抑えるためにも、報復能力、すなわち抑止力を地域レベルに留めるべく、そのための戦力を持っておく必要があると考えるでしょう。

佐藤 実際、北朝鮮の核技術は確実に進んでいるということですね。フェーズが明らかに変わり始めている。日本にとっても朝鮮半島有事は絵空事ではありません。この状況に対応するため日米韓の協力体制はどう進めればよいのでしょうか?

 

 

強固な日米韓の協力体制を築くには?

 竹内 日米韓の協力体制を考えたとき、やはり韓国の安全保障政策が政権ごとに大きく変わってしまうところが強い懸念点としてあります。2012年の日韓GSOMIA(北朝鮮の核・ミサイルに関する情報共有を日韓で行う協定)の署名「延期」は私自身がソウルの日本大使館の担当官だったこともあり、相当な衝撃を受けたことを覚えています。この一貫性の欠如は日本にとっても韓国にとっても非常に難しい問題です。

 アメリカもトランプ政権時とバイデン政権時では政策の内容はそれぞれ違いますが、韓国の場合は主敵すらも変わり得るレベルの大きな変化が起きてしまう。これは韓国国内政治の問題なので、日米がコントロールできるものではありません。非常に大きな安全保障上のリスクに繋がると思います。

秋山 今年8月にアメリカで開催された日米韓首脳会談では、重要な取り決めがいくつかありましたが、総じて言えるのが現在の三国間の良好な関係をいかにして不可逆的なものに落とし込めるか、そこに重きが置かれていると感じました。それは、韓国政権交代によって対日、対米方針がガラッと変わるリスクを、日米でどのように対処をするべきかという考えの表れだったと思います。

 テクニカルなネタですが、日韓で北朝鮮のミサイルを探知するレーダーの情報を即時共有するという合意がなされました。これはある意味で、ミサイル防衛システムを含めた抑止態勢の統合への一歩と見ることも不可能ではありません。小さな一歩ですがこれは日米韓協力体制の「制度化」、すなわち不可逆性を担保する措置と言えます。

 東アジアにおいて懸念されている有事には、台湾有事と朝鮮半島有事がありますが、私はこの二つを分けて考えるべきではないと思っています。もし台湾有事が勃発したら、中国はアメリカを牽制しリソースを台湾有事に全振りさせないために、北朝鮮に朝鮮半島で、武力行使とは言わずとも陽動作戦を展開するよう仕向けるかもしれません。また、朝鮮半島有事における米軍の行動も日本の協力なくしては不可能であり、米韓がオペレーションを進める上でも日米韓は本気で実践レベルでの協力関係を構築し強固なものにする必要があると思っています。

 

 

次のフェーズに移った日韓関係

佐藤 北朝鮮に対抗する上で日米韓の連携は非常に重要ですよね。中でも日韓関係は時代によって紆余曲折ありました。最近だと、処理水の問題に対してソウル中心部で大規模なデモが行われていました。ただ、10日経つと参加者は3分の1ほどまで減っています。また、元徴用工問題との関係で2019年から始まった、日本から韓国への半導体材料の輸出規制のときは、一気に日本製品の不買運動、いわゆる「NO JAPAN運動」が起きました。ソウルの日本式居酒屋は営業ができなくなり、日本製の車を持っている人はメーカーのロゴ部分をテープで隠して運転していました。さらに、アサヒビールは9割の売り上げ減にまで陥りました。

 しかし、このような運動の結果を考えたときに、韓国の人たちは「最終的に得をしたのは誰だろう」と疑問を持ったのではないでしょうか。そして、若い人を中心に「結局だれも得をしなかったのだ」という事実に気が付いたのです。

 そうした人々の心情の変化もあってか、最近では海上自衛隊の船が旭日旗を掲げて釜山周辺の海に入っても、韓国のマスコミは取り上げることすらしませんでした。この変化は、尹政権の親日的な姿勢によるものか、国民感情の変化によるものかといったら、やはり後者の影響が大きいと思います。国民感情が新たな次元に来ている。なので、最大野党党首の李在明が反日カードを利用したい考えがあっても、そのカードは昔ほどの有効性を持っていないのです。それよりも、北朝鮮の脅威や経済の問題を前に日本と協力関係を深めたほうがいいのではないかという世論の高まりを感じます。

竹内 日韓関係に関して一つ思うのが、今年、韓国最大の労働組合である「全国民主労働組合総連盟」幹部が、北朝鮮の指示のもと、SNSで福島第一原子力発電所処理水の放出に関して悪質なデマを流したとして逮捕された事件がありましたよね。このように、反日感情というものは韓国の野党が政治利用しているだけでなく、実は裏には北朝鮮がいて、対日世論工作として使われているという事実もあります。ここは注意深く見ていく必要があると思います。

 

尹政権で反日政策に転じる可能性は低い

 佐藤 そこで日韓関係における日本の対応についてお二人に意見をお聞きしたいのですが、私は尹政権になり日韓関係が良好に進むことを非常に肯定的に捉えています。他方で、これまでの日韓関係の問題はすべて韓国に責任があり、韓国が対処をすべきだという上から目線な姿勢が日本にはあると感じています。例えば、元徴用工の問題も韓国政府が解決策を示しましたが、それに対する呼応措置を日本ははっきりと打ち出していません。

 韓国の保守陣営からも自分たちばかりが努力をして日本は何もしていない、といった不満も出ています。この「日韓関係を改善するのは韓国の責任」という日本のスタンスは、今後の日韓関係を強固にしていく上でかなりマイナス要素になるでしょう。

 もちろん韓国の政権交代で築いてきたものが一気に崩れるかもしれないという不安が日本にはあると思いますが、私は日本側からも関係強化に向けて主体的に動くべきだと考えます。日本は日韓関係のために何ができるのでしょうか?

竹内 とても難しいですよね。韓国側から見た不満感はもちろんよくわかります。他方で、日本側から見たゴールポストが動く問題への不信感もよくわかる。日本としてはちゃんとゴールを決めて合意を得られたと思っていても、政権交代を機にまたゴールが先へ行ってしまい、なのになぜ日本がアクションを起こさないといけないのかという気持ちになってしまうのではないでしょうか。また、日本が謝罪をしたとしても政権が変わったときに、それがどう再解釈されるのかもわからないという不安もあります。そのようなリスクなどを考えると、日本側としたら非常に難しいものがありますよね。

佐藤 一方、国内では保守側から「尹錫悦はどこの国の大統領になったのだ」という批判的な意見も出てきています。アメリカや日本の意見ばかり聞いて、自分たちの国の不満はどうするのだと。たとえ日韓関係が良くなっても、このような不満が出てきて国内の基盤が揺らいでしまったらどうしようもないですよね。ここに関して秋山先生はどうお考えでしょうか?

 秋山 先日、尹大統領と一対一で話をしたことのあるアメリカの国際政治学者にある質問をしたんです。「これまでの韓国の大統領を振り返ると、親日で始まり反日で終わってきた。尹大統領も同じような道を辿るのではないか」と。すると、彼の見立ては私とは違っていて、尹大統領は日本を政治のカードとして政権の浮揚に使うことに興味がないと言っていました。

 尹大統領は元検察官ということもあって、法律で筋が通っていて自分が正しいと思うことをやっているだけだと。佐藤さんのご指摘の通り今の支持率は低いですが、だからと言って今後反日政策に転じる懸念は比較的少ないのではないでしょうか。

佐藤 尹大統領は、まったく世論を気にしないので、ある種異質な大統領として韓国で評価されています。現在、尹大統領への支持率は大体30%台の前半ですが、この数字は与党の支持率よりやや低くなることが少なくありません。尹大統領は、そうした世論を気にせずに、今後も現在のスタイルを貫くと言われています。ただ、支持率が低いまま大統領選に突入するとなると現在の与党が負けてしまい、政権交代となってしまいます。こうなると様々なことが大きく変わりますよ。そこの振れを抑えるためにも、日本は中長期的なビジョンを持って韓国に関わることが重要なのではないかと思うのです。

秋山 日本の政治家って、勝った負けたというゼロサム思考で日韓関係を見ているように思います。そうではなくて日韓のプラスサムになるような考え方をするべきですよね。日本では保守系の政治家が韓国に対して厳しい反応を示していますが、協力の不在は結果的に日本の不利益に繋がるのではないでしょうか。

佐藤 おっしゃる通りですね。例えば、関東大震災から100年の節目として開かれた韓国人虐殺の犠牲者を追悼する式典には、韓日議員連盟から鄭鎮碩会長が参加して挨拶をしました。しかし、日本側からは日韓議員連盟の菅義偉会長をはじめ、自民党の議員はほとんど参加しませんでした。さらに、会見で朝鮮半島出身者の虐殺について意見を求められた松野官房長官も、「政府内において事実関係を把握することのできる記録が見当たらない」と述べていましたよね。

ただ、そうした悲惨な歴史があったことは否定できません。日本は韓国の世論に対する自分たちの見せ方をもっと考えるべきだと思いました。

 

 

互いに利用し合う露中朝

佐藤 日米韓の協力体制について話してきましたが、他方でこの軸に呼応するように、露中朝の枠組みができつつあります。北朝鮮の金正恩総書記はロシアを訪問し、軍事協力を改めて確認していました。中国の立場は微妙なところがありますが、この対抗軸にはどう対処していくべきでしょうか?

竹内 いま北朝鮮はロシアが国際社会において支援が必要だという状況を利用して、自分たちに都合のよい国際環境の構築をめざすような動きをしています。中国の思惑とは異なり北朝鮮は露朝関係を強く発信することで、日米韓に対する露中朝の対立構造をつくろうとしています。

秋山 北朝鮮は、中国とロシアの意向を汲みつつ両者を手玉に取ってうまく泳げればそれでいいと考えているのでしょう。今年9月に4年ぶりに対面で行われたプーチンと金正恩の会談でも、お互いの利益のために取引可能なものは何なのか、考えているようでした。ロシアは北朝鮮の核開発に支援をしていないと言っています。ただ真偽は不明ですが、ここ数年での北のミサイル技術の向上を見るとロシアは機材の提供はしていないが知見は提供しているのではないかと私は思います。

佐藤 この露中朝の非民主的な枠組みは、将来このまま維持されていくのでしょうか?それともほころびが生じると考えますか?

秋山 中露でいうと、東アジアにおいて必ずしも戦略的な利益が完全に一致しているわけではないのですが、ある種反米互助会のような関係を果たしているのだろうと思います。中長期的な同盟の制度化ではなく、中露は政略結婚のような関係に留まっているように見えます。中国にとってはロシアよりアメリカとの関係改善のほうが優先順位が高いのです。

 その中で、ロシアを使ってアメリカのパワーを相対化し、ヘッジにしていきたいというのが中国の狙いではないかと思います。その思惑をロシアもわかっていて、中国を何かに使えないか探っているのです。

竹内 ウクライナ侵攻への対応でも北朝鮮は国連総会でのロシア非難決議に反対しましたが、中国は棄権を選びロシアとの距離を慎重に保つ姿勢を取りました。今は露中朝の枠組みからも一歩引いた動きを見せています。

 実際、アメリカにとっても中国の重要性は高まっていますし、北朝鮮はどう中国に接近すれば自国に都合がいいか狙っている。今後の中国の動きを国際社会全体が注目しているのです。そういう意味でも中国は自分の置かれた価値を意識しながら、外交を慎重に重ねてくいのではないでしょうか。

佐藤 中国は北朝鮮最大の後ろ盾と言われていますよね。今後の中朝関係はどう展開していくのでしょうか?

竹内 こういう話をすると、当たるも八卦当たらぬも八卦という感じになってしまうのですが(笑)。まず言えるのが、今後も中国は北朝鮮へあからさまな軍事的協力はしないだろうということです。

 ただ、今まで通り経済的な繋がりは継続されるのではないでしょうか。いま北朝鮮は国境を徐々に開いているので、人的往来も今後増えるかもしれません。そして、中国が北朝鮮への制裁に違反して貿易を行い、外貨獲得の重要な供給源であり続けることも確かでしょう。ただ、これは北朝鮮制裁の効果を失わせることにもなる違反行為なので、中国政府としては目立った活動はしません。しかし、制裁の履行が難しいという立場を取るか、違反は確認できなかったとしらを切り続け、これまで通り北朝鮮との関係を継続させると思います。そういう経済的な後ろ盾であり続けるのではないでしょうか。

秋山 中国からすると、北朝鮮は現状のかたちで存在し続けることが一番都合がいいんですよね。台湾有事が起きた場合、北朝鮮による軍事的な協力は期待していませんが、政治的混乱を起こしてくれることを期待している。そのためには表立ってはできないけど、陰ながら北朝鮮を支援し続けるのでしょう。

 だからと言って、北朝鮮がこれ以上核兵器を保持して独自性を強めることになると、今度は脅威となるので中国にとって望ましくありません。なので、核兵器の開発などの軍事的な協力は控えるのではないかと思います。そこはロシアとは微妙に異なるところです。ロシアにとって北朝鮮は軍事的に深い利害関係があるわけではないので、北朝鮮から欲しいものがあればさらなる技術的知見の共有がなされるかもしれません。

 

 

被爆国日本にとっての核保有論とは

佐藤 最後にもう一度韓国の核保有論に話を戻します。私が韓国で取材をしていて感じるのが、7割支持という核保有論への高まりとは対照的に、核兵器がどれほど恐ろしいものなのか、多くの韓国人が知識や関心を持っていないという点です。広島と長崎には何万人もの韓国の被爆者の方がいますが、その事実もほとんど知られていません。むしろ、原爆投下によって朝鮮半島が解放されたという解釈をする人が一定数います。知識がない中、ゲームのような感覚でこの約7割という数字が出てきてしまっていると感じます。

 では、日本政府は唯一の被爆国として、韓国の核保有へどう向き合えばよいのでしょうか。日本は核なき社会を掲げて国際社会に働きかける責任があると思いますが、秋山先生はどうお考えでしょうか?

秋山 日本が唯一の被爆国として、核なき社会に向むけて働きかけをするのは大事なことだと思います。ただ、核による脅しを強める国がいるのは事実で、その直面するリスクにどう対処するかでいうと、抑止の信憑性を高めることが何より重要だと思うのです。その方法として、米国の拡大抑止の信憑性の強化と独自の防衛力強化の取り組みが必要で、ミサイルなどの防衛力の強化や、繰り返しになりますが日米韓の連携が必須となります。実際に有事が起きた際、日本が関与しないとアメリカは効果的な指導力を発揮できません。そのために日米だけでなく日韓の協力体制の強化が重要になります。

 核なき世界をめざすというのは、非核保有国の日本が武力を捨てて良い子になるのではなく、中国や北朝鮮が核を放棄し核リスクを削減するということです。日本政府は中国や北朝鮮に対して、前提条件を付けずに話し合う準備ができていると語っています。日米韓で歩調を合わせることを前提として対話を呼びかけていく。そして、お互いにとってリスクが削減できるような話し合いを重ねることが非常に重要です。残念ながら中国も北朝鮮も現状対話に応じる姿勢は取っていませんが、日本はそこを根気強く追求すべきだと思います。

 

 

マルチ外交の場で存在感を

竹内 日本が唯一の被爆国であるということを戦略的にどう使うかを考えた時に、今のようになんの捻りもなく「唯一の被爆国である」ことを言い続けても、中々他国には響きません。役人だった私が言うのもなんですが、マルチ外交における日本の外交官は少し積極性に欠けている印象を持ちます。そうではなくて、核なき世界をめざすのなら、外交の場でより主体的な働きかけが必要だと思うのです。

 例えば、日韓で北朝鮮ともからめて核軍縮に関する共同キャンペーンを打ち出すなども一案です。また、来年は日韓共に安全保障理事会の非常任理事国に選出される記念すべき年です。個人的には日本がG7の議長国を務めた今年も何かアクションを起こすべきだと思いましたが、まだ来年の安保理という日韓でスポットライトを浴びることができる場が残っています。マルチの場で日本と韓国が歩調を合わせて共同のキャンペーンを打ち出すことは、非常に大きなチャンスになります。韓国に核兵器がどういうものか示すことができますし、日韓で関係を良くしようと努力をしているという、アメリカへのアピールにも繋がると思います。

 私は役人だったのでわかりますが、省庁では何につけてもアメリカがどう思っているかを気にしています。しかし、そこは一旦置いておいて、ウクライナもそうですが核を持たない日本と韓国が核の脅威にさらされているという状況が、核による威嚇を禁止する核兵器禁止条約の意義を示しているという議論はできると思います。

 核軍縮に関して日本の意見をはっきり言うことは重要です。被爆国でありながら核の傘にいるという現実も含めて日本の置かれた状況を戦略的にアピールしていく。少しラディカルな意見かもしれませんが、唯一の被爆国と唱えるだけでなくより積極的な主張や動きが必要だと私個人としては思います。

秋山 今の竹内さんのお話に一つ付け加えさせていただくと、最近は日本より韓国のほうがパブリックディプロマシーに積極的ですよね。ASEAN国防相会議のサイバーセキュリティー専門家会合ではマレーシアと共に議長国を務めましたし、済州フォーラムや国連と共に軍縮・不拡散会議を主催しています。

 日本が韓国を引き込むと考えるのではなく、むしろまずは韓国にいかに追い付くかを考えていかなくてはいけません。日本の取り組みレベルが上がって対等になってから、初めて日韓でパートナーシップが組めると思います。来年の安保理で日韓が同時に理事国になるわけですが、要注目です。

竹内 まったく同感です。韓国はパブリックディプロマシーで日本の先を行っていますよね。私が在韓日本大使館にいたころ、韓国の新聞や世論では日本の外交戦に韓国が追い付かないといけないと語られていました。そしてそのような危機意識で積極的に活動した結果、今や韓国の外交戦は見事なものです。

佐藤 いま秋山先生からパートナーシップという話が出ました。実は今年が日韓パートナーシップ宣言からちょうど25周年の年です。尹大統領もこの記念となる年を大事にしているとおっしゃっていました。北朝鮮の核に対抗するためには、日米韓のパートナーシップをどう強固なものに築き上げるか。そこをもう一度きちんと考えていかないといけないということが、今回の鼎談で改めて確認できたと思います。

(終)

秋山信将/一橋大学国際・公共政策大学院長

あきやま のぶまさ:1990年一橋大学法学部卒業。93年オックスフォード大学セント・アントニーズ・カレッジ政治学博士課程博士候補、94年コーネル大学公共政策大学院行政学修士課程修了。専門は軍備管理・エネルギー安全保障。広島平和研究所、日本国際問題研究所、外務省在ウィーン国際機関日本政府代表部公使参事官、一橋大学大学院法学研究科教授などを経て2022年より現職。日本軍縮学会会長兼任。

佐藤大介/共同通信編集委員兼論説委員

さとう だいすけ:明治学院大学卒業後、1995年に毎日新聞社入社。長野支局、社会部を経て2001年に退職。02年に共同通信社に入社。09年より約3年間、ソウル特派員。特別報道室や経済部(経済産業省担当)などを経て、16年より約4年間ニューデリー特派員。215月より現職。著書に『オーディション社会韓国』『13億人のトイレ下から見た経済大国インド』『ルポ死刑』など。

竹内舞子/Compliance and Capacity Skills Internationalアジア太平洋 CEO

たけうち まいこ:東京大学法学部卒業後、2001年防衛庁へ入庁。07年ハーバード大学東アジア地域研究科修了、22年ニューヨーク大学ロースクール修士課程修了。16年から21年に国連安保理北朝鮮制裁委員会専門家パネル委員を務める。23年より現職。独立行政法人経済産業研究所コンサルティングフェロー兼任。

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